第16話 直せないもの
“それ”が、動いた。
形はない。
だが、確実にこちらへ来る。
水が押し広げられる。
空間そのものが、歪む。
「……来るな」
小さく呟く。
だが、足は止めない。
一歩前に出る。
「カイ!!」
ミアの声。
今までで一番強い。
だが。
「下がってろ」
それだけ返す。
やることは変わらない。
壊れているなら、直す。
「……消す」
“それ”の声が、頭に響く。
低い。
重い。
今までのどれよりも、はっきりとした“敵意”。
「やってみろ」
軽く返す。
次の瞬間。
空間が、潰れた。
「――っ!」
体が引っ張られる。
押されるんじゃない。
“削られる”。
存在そのものが、少しずつ削れていく感覚。
「……面倒だな」
思わず呟く。
今までのとは違う。
ズレじゃない。
これは――
「消してるな」
構造を見ようとする。
だが、見えない。
ズレがない。
歪みがない。
ただ、“消している”。
「……初めてだな」
少しだけ笑う。
直す場所がない。
これは、厄介だ。
「……カイ!」
ミアの声が、近い。
振り向く。
手が伸びている。
こちらに。
「触るな!」
思わず強く言う。
ミアの手が止まる。
「……え」
「これは、お前が触るな」
「……でも」
「消える」
短く言う。
それで十分だった。
ミアが、ゆっくりと手を下ろす。
いい。
分かってる。
「……さて」
前を見る。
“それ”は、止まらない。
近づいてくる。
そして。
触れた場所が、消える。
水が、空間が。
何もかもが。
「……なるほど」
少しだけ、分かった。
これは。
「壊れてるんじゃない」
ただの機能だ。
“消すためのもの”。
「……なら」
一歩踏み込む。
消される。
腕が、少し削れる。
だが、止まらない。
「……カイ!!」
ミアが叫ぶ。
だが、構わない。
近づく。
さらに近づく。
「お前」
“それ”が言う。
「なぜ、止まらない」
「簡単だ」
笑う。
「直すためだ」
手を伸ばす。
ズレはない。
歪みもない。
だが――
“境界”がある。
「……ここか」
ほんのわずか。
存在が切り替わる場所。
そこに――
違和感がある。
「……見つけた」
そこを掴む。
押すんじゃない。
“合わせる”。
「――っ!?」
“それ”が、初めて揺れた。
完全な動揺。
「そこがズレてる」
「……違う」
「同じだ」
即答する。
「壊れてる」
「違う!」
強く否定する。
だが、もう遅い。
そこを。
さらに合わせる。
ぐ、と。
感覚が変わる。
カチ。
音はない。
だが、確実に。
何かが、変わった。
「――!」
空間が、戻る。
消えていたものが、戻る。
水が流れる。
音が戻る。
「……効いたな」
小さく呟く。
だが。
完全じゃない。
“それ”は、まだいる。
「……お前」
声が、変わっている。
さっきまでとは違う。
驚き。
そして。
わずかな――恐れ。
「触れるのか」
「触れるな」
軽く返す。
「壊れてるからな」
「……」
沈黙。
だが。
動きは止まらない。
むしろ。
さっきより、濃くなる。
「……いいな」
思わず笑う。
ここからだ。
本当に、直すべきは。
「……まだ奥だな」
“それ”のさらに奥。
もっと深い場所。
そこに――
“本当の核”がある。
「……行くぞ」
一歩、さらに踏み込む。
「やめろ」
“それ”が言う。
「それ以上は――」
「無理だな」
即答する。
止まる理由がない。
「……なら」
空気が、変わる。
今までとは違う。
完全に。
「本気で消す」
「来い」
笑う。
ここまで来たら。
やることは一つ。
全部、直す。
それだけだ。
次の瞬間。
空間が、完全に歪んだ。
今までとは、別次元で。
ここで一気に“敵の本質”が見えてきました。
ただ、それでもカイのやることは変わりません。
直すだけです。
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次話、さらに踏み込みます。




