第14話 止めているものの正体
塊の奥で、“それ”は確かに動いていた。
形がない。
だが、存在だけははっきりしている。
水の中なのに、水じゃない。
「……来るな」
小さく呟く。
次の瞬間。
水が、消えた。
「――っ!?」
視界が一瞬で変わる。
水中にいたはずなのに、立っている。
足が地面に触れている。
息もできる。
「……なにこれ」
ミアの声が震える。
周囲を見回す。
そこは――
“村”だった。
だが、違う。
壊れていない。
建物は崩れていない。
水も流れている。
人もいる。
「……」
少しだけ目を細める。
これは。
「……過去か」
そうとしか思えない。
「え?」
ミアが振り返る。
「これ、何?」
「記録だな」
「記録?」
「止められたもの」
歩き出す。
人がいる。
だが、こちらには気づかない。
触れても、すり抜ける。
「……本当に昔の村?」
「そうだろうな」
リオナが、ゆっくり周囲を見ている。
「……こんなに人がいたの?」
「いたんだろうな」
今の村からは想像できない。
だが、確かに“あった”。
生活が。
流れが。
そのとき。
「――止めろ」
声が響いた。
振り向く。
さっきの“中枢”に似た存在。
だが、少し違う。
もっと若い。
「……あれ」
ミアが呟く。
「さっきの人?」
「似てるな」
だが、同じじゃない。
これは。
「……過去の管理者か」
そいつは、誰かと向き合っている。
その相手。
――村人だ。
「水を止めるな!」
村人が叫ぶ。
「流れが止まると、全部が死ぬ!」
「それを防ぐためだ」
管理者が答える。
「このままでは、下が溢れる」
「そんなの関係ない!」
「ある」
短く言い切る。
「ここは“蓋”だ」
やはりか。
さっきの話と繋がる。
「蓋?」
ミアが小さく呟く。
「何の」
「下だ」
管理者が地面を見る。
「これ以上流せば、“あれ”が上がってくる」
「……」
全員、無言になる。
分かってしまったからだ。
あの塊の奥。
あれが。
「……あれか」
小さく呟く。
管理者は、続ける。
「だから止める」
「村が死んでも?」
「必要な犠牲だ」
その言葉で、空気が変わった。
村人の顔が、はっきりと歪む。
「……ふざけるな」
「理解できないのは分かる」
「理解したくもない!」
衝突だ。
価値観の。
どちらも間違っていない。
だが、どちらも正しくない。
「……なるほどな」
思わず呟く。
ミアが振り向く。
「何が?」
「止めてる理由」
「……分かったの?」
「大体はな」
単純だ。
ここは“封印”だ。
下の何かを、止めるための。
「……じゃあ」
ミアが不安そうに言う。
「直したら、ダメなんじゃ」
「関係ない」
即答する。
「え?」
「壊れてるから直す」
「でも……!」
「それで溢れるなら」
一歩前に出る。
「そのときは、そのときだ」
「……」
ミアが言葉を失う。
だが、否定はしない。
それでいい。
そのとき。
景色が歪んだ。
村が揺れる。
音が消える。
「……戻るな」
視界が、また変わる。
水の中。
元の場所。
「……っ」
ミアが息を吐く。
「……今の、何」
「見せられたな」
「何を」
「理由だ」
塊を見る。
さっきよりも、はっきりと見える。
そして。
その奥。
“それ”が、こちらを見ている。
「……理解したか」
声が響く。
今までとは違う。
直接、頭に。
「お前が直そうとしているものが、何か」
「分かってる」
短く答える。
「止めている理由も」
「なら、やめろ」
「無理だな」
即答する。
「なぜだ」
「壊れてるからだ」
それだけだ。
理由は変わらない。
「……愚かだ」
「そうか」
軽く返す。
だが、視線は外さない。
「なら」
“それ”が、ゆっくりと動く。
今までとは違う。
形がないのに、圧がある。
「直接、止める」
「来い」
一歩前に出る。
逃げる理由はない。
やることは一つ。
直すだけだ。
その瞬間。
水が、完全に止まった。
「……いいな」
思わず笑う。
本体が、動いた。
ここから先は――
今までとは、違う。
ここで一気に「村の意味」が見えてきました。
ただ、それでもカイは止まりません。
理由はシンプルです。
壊れているから、直す。
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次話、本体との接触です。




