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黄龍の診療所 ― 世界を診る気導士、龍界で開業中  作者: 転々丸
玄武編

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37/43

第37話『玄武編』再会

挿絵(By みてみん)


呼び札は、音もなく燃え尽きた。


炎でもない。煙すら上がらない。


ただ、札に刻まれていた文字が――

一画ずつ、ほどけるように消えた。


その瞬間。


隼人の足元から、

重さが抜け落ちた。


(……え!?呼ばれたか?)


踏みしめていたはずの地面の感覚が、

ふっと遠のく。


落ちるわけでも、浮くわけでもない。

世界そのものが――

一枚、静かに裏返ったような感覚。


風もない。音もない。


けれど、冷たい。


それは温度じゃない。

気自体の冷え――

世界の奥底に潜む、静かな異常だった。


次の瞬間、足裏に硬い感触が戻る。


石だ。

湿気を帯びた、冷たい石畳。


隼人は、小さく息を吐いた。


「……着いた、な」


目の前に広がるのは――

朱雀の神殿でも、青龍の神殿でもない。


光が少ない。けれど、暗くはない。


壁面には、黒曜石のような鉱石が埋め込まれ、

淡い光をゆらりと返している。


それは照らすための光じゃない。

見張るための光だ。


――玄武の神殿。


地の底にひそむ、

世界の表と裏をつなぐ場所。


「……やっぱ、ここは静かすぎる」


そう呟いた瞬間。


「無駄に喋ると、余計なものまで拾う」


低く落ち着いた声が、すぐに返ってきた。


隼人は肩をすくめながら振り向く。


挿絵(By みてみん)


「……久しぶりだな、シオン」


そこに立っていたのは、

黒衣をまとった少年。

玄武の次期神官――シオンだった。


表情は相変わらず無表情だが

その瞳だけが、妙に鋭い。


「……来るの、早すぎだろ」


「呼ばれたからな」


隼人は軽く肩を回しながら、

焼け跡の呼び札を足元に見下ろす。


「呼び札、使ったんだろ?」


「……ああ」


シオンは視線を落とし、

隼人の足元をじっと見る。


「通路、乱れてなかったか?」


「逆に静かすぎて、不気味だったな」


その答えに、シオンはふっと息を吐いた。


「なら、成功だな」


隼人は眉をひそめる。


「成功って……」


「呼び札の通路が通れたってことは。つまり――

まだ世界は完全にデッドロック(閉塞)してないってことだ」


その言葉の重さに、隼人の表情が引き締まる。


「……師匠の具合は?」


シオンは少しだけ目をそらした。


「意識はある。目も開いてる。

 でも――**気の流れが戻らない**」


「毒か?」


「……わからない」


短く返したあと、

シオンは拳を握りしめた。


「ただ……地脈の奥で、何かが滞ってる。

 それが、師匠の体と、まったく同じ位置にある」


「……そっか。じゃあ、当たりだな」


隼人は、静かにうなずいた。


シオンはしばらく黙って、

やがてぽつりとつぶやく。


「だから、お前を呼んだ」


それは、あくまで淡々とした口調だったけど――

それだけで、十分だった。


隼人は少し笑って、

「信頼されてるってことで、いいか?」


と冗談めかして言ってみる。


「……信用してなかったら、

 こんな危ない場所、通さない」


シオンの返答は、相変わらずストレートで、

そのくせ、どこか優しかった。


隼人は一瞬、朱雀の方角を意識して、

すぐにシオンのほうへ視線を戻す。


中央ナギにも、話は行ってる。

 龍王から書状が来てるそうだ」


その言葉に、シオンの目がわずかに見開かれた。


「……やっぱり、全体の問題か」


「青龍も気づいた」


その一言で、

玄武の神殿に流れる空気が――一段、深く沈んだ。


四神のすべてが

同時にこの「静かなるエラー」を検知し始めている。


「じゃあ――」


シオンが神殿の奥、

地下へと続く階段を見やる。


「行こう」


「師匠のところへ」


その先には、結界の核と、玄武の“守り”の根幹がある。

隼人が一歩踏み出す。


ふたりの足音が、石の階段に静かに響いていく。


玄武の神殿は――

次の異変を、静かに待ち受けていた。


挿絵(By みてみん)



ご覧いただきありがとうございますm(_ _)m

毎週火曜日と金曜日20時に更新しております☆

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