第25話 白虎門の瞬き ─サイレント・エラーの検知─
龍界の西門
――白虎門は、夕陽に染まるとき、いっそう美しく輝く。
白石で組まれた荘厳なアーチは、
沈む太陽の光を受けて柔らかな金色に包まれ、
その奥に連なる神殿群と静かな調和を見せていた。
この地には、
代々ひとつの家系によって巫女の役目が受け継がれている。
そして今、その重責を担おうとしているのが――ツクヨミだ。
まだ“見習い”の身ではあるが、
彼女は日々、師の傍らで祈りを捧げ、結界の術式を学んでいた。
その日、ツクヨミは師匠に代わり、
神殿地下の魔法陣の前に立っていた。
白い床に描かれた精密な回路は、
中心からまっすぐな光の束を天へと放っている。
祈りを込め、気のパケットを整える。
いつもと同じルーチン(儀式)のはずだった。
(……あれ?)
一筋の光が、スキャンデータが揺らぐようにかすかに震えた。
出力の減衰ではない。ただ、波形が“ほんの少しだけ違う”。
周波数が、地脈の鼓動と同期していないような違和感。
(……気のせい、かしら) ツクヨミは眉をひそめる。
だが、見習いの自分が口にすべきノイズではないと、
その違和感を心のフォルダに仕舞い込んだ。
翌朝、ツクヨミは白虎と共に黄龍診療所を訪れていた。
「今日も研究を継続されるのですか?」
白虎は尋ねながら、いつものように
「生体デスク」としての定位置にドシンと腰を下ろす。
しかし、ツクヨミの表情は冴えない。
道具を並べる手元も、
どこか心ここにあらずといった様子だ。
「……ふむ」
主の異変を察した白虎が、唐突に声を張り上げた。
「ナギさん! 腰に鍼をお願い! 急に張りが来ましてね!」
「え? 今?」
奥から出てきたナギは、とぼける白虎と、
肩をすくめるツクヨミを見てすぐに察した。
白虎が強引に「診断のきっかけ」を作ったのだと。
「ツクヨミ、何かあった?」
ナギの穏やかな問いに、ツクヨミは迷い、
やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「……神殿の魔法陣から昇る光が、
いつもと違って見えたのです。弱っているわけではなく
……なんというか、“通りにくい”ような感覚を感じたんです」
不安げなツクヨミに、ナギはにっこりと微笑んだ。
「それに気づいたなら、それはもう“気のせい”じゃないわ。
あなたの感覚が、正しくエラーを検知した証拠よ」
ツクヨミの瞳が、驚きで見開かれる。
「今はまだ小さな違和感でも、
見過ごせばいつかシステム全体がデッドロックを起こす。
……手遅れになる前に、現場を見に行きましょう。
サイレント・エラーほど、恐ろしいものはないもの」
白虎がぐっと背を伸ばし、頼もしく頷く。
「ならば、神殿へ案内しましょうか。
私の背は、いつでも空いていますよ」
「ありがとうございます……!」
ツクヨミの顔に、ようやく安堵の笑みが浮かんだ。
そのとき、診療所の中庭を優しい風が通り抜けた。
新たな「詰まり」を解消するため、
気導士一行が再び西の空へと動き出す。




