↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/55

37. 晩餐

ランタン祭の前日、アデリンは母のレイラと共に祭りの準備に追われていた。

祭りは、陽が落ちてからランタンを湖の岸辺で揚げる。領民も参加するため大量のランタンを準備した。

女神様へ感謝と豊穣の祈祷を神官が行うので、祭壇を岸辺近くに作った。


ランタンは蔓で作った骨組みの周りを草を漉いて作った紙で覆ったものだ。内側に火魔術の火の玉を入れるとふわふわと夜空に登っていく。とても幻想的で美しい祭りだった。


「お母様、オリビア様はいつ出発されるのですか?」


「ランタン祭の次の日を予定しているわ。マーシャルはずっと王都にいたから、領地に戻ってしなくてはいけない仕事が山積みなんですって。オリビアの体調を考えて馬車で戻るそうよ。3日かかるのだけれど、ワイバーンは使わないようなの」


確かにワイバーンに乗り慣れないと、一日中乗るのはきついだろう。


「侯爵様はお母様達の同級生だったのですよね? どんな方でしたか?」


「そうね……マーシャルは昔から社交的で陽気で……そして、侯爵家のしがらみに縛られていたわよね。だからこそ自由なお父様と気が合ったのかもしれないわね」


──王弟なのにお父様は自由だものね。昔からなのね。


「オリビア様は……領地に戻って嫌な思いされないでしょうか……」


「……そうね、それは誰にもわからないのよ。本人達にだって。でも、彼らには愛がある。ようやく自分達の感情に素直になれるようになったんだもの。思う存分、自分に素直にわがままになりなさい!ってオリビアには言ってやったわ」


笑いながらレイラは言う。


自分に素直にわがままに……


「でも、わがままに巻き込まれるノアにとっては、かわいそうなアドバイスをしたと思っている。本来なら子供を優先させるべきなのは、私もオリビアもわかっているのよ。でも、自分の命が僅かにしか残っていない、人生の後片付けをしているオリビアには……友人として我慢しろって言えなかったの」


悲しそうな瞳を伏せて、お母様は言葉を繋ぐ。


「ノアは聡い子だから、感情では納得できなくても、オリビアの気持ちはわかっているわよね。ノアとマーシャルとの関係が難しいのもオリビアが心配しているの。領地へ戻ってから少しでも関係が改善するといいのだけれどね。

本当、マーシャルは不器用すぎるわね。ノアへの愛情が強すぎる故に自分から離すなんて……オリビアに対してもそう。相手の意見を聞くべきだったのよね。ようやくあの二人は会話をし始めたの。ノアともマーシャルが会話できるようになったら、きっとオリビアも安心するわね」


レイラをアデリンの手を握り、そっと伝えた。


「ここへきて、オリビアはもちろん、ノアもだいぶ変わった。以前まで二人じゃないの。きっと領地に戻っても同じようにはならないと私は、信じてるわ」


確かに、ノアは変わった。同じようにはならないわね。


「お母様ありがとうございます。お母様の言葉でもやもやしていた気持ちは晴れました。

そうですね、二人とも以前までと同じではないですものね。私もお母様のように二人を信じますね」


微笑むアデリンを見て、レイラも柔らかな微笑みを返した。


「さ、アイザックが戻る前にある程度用意を終わらせてしまいましょう」


「はい、お父様大丈夫でしょうか。ここのところ毎日のように魔獣討伐がありますよね」


魔獣の動きが活発になる季節でもあるが、毎日のように魔の森に近い村々から魔獣の目撃報告や被害報告が上がっていて、騎士団が討伐に赴いている。報告件数が多いのが気になるということで、アイザックも同行しているのだ。


「冬を前にした魔獣の活動が活発になる時期的なものもあるでしょうし、ランタン祭を控えているので安心のために早めに討伐しておきたいのでしょう。きっと大丈夫ですよ。お父様なのですから」


にっこりと笑ったレイラに、アデリンも笑みを返すも心の中では小さなしこりのように不安が残るのだった。




ランタン祭の前夜、オルファー家を囲んで晩餐が行われた。アイザックも晩餐に間に合うように帰城でき、アデリンはほっとしていた。


和やかに晩餐が始まる。アイザック達は同級生4人と言うこともあり、専ら王立学院での思い出話に花が咲く。アデリンも興味があったから、学生生活の話を聞くのは楽しかった。


「アデリン嬢もノアと同じ時期に王立学院へ行くんだったね」


ノアの父、マーシャルが尋ねた。


「はい、侯爵様。ノアと同じ時期に入学しますわ」


「そうか、オルフェー家からノアと兄のダドリー、従姉妹のケイシーが入学するんだよ。是非、王立学院で会った時は仲良くしてくれると嬉しいな」


笑顔でマーシャルが話す。

ノアを盗み見ると、ノアは硬い表情のままだ。

昼間のレイラとの会話を思い出し、勇気を振り絞ってマーシャルに話題を降ってみる。


「侯爵様、今、ノアと一緒に学んでいるのですが、本当に賢くて家庭教師の先生が舌を巻いていらっしゃいましたわ」


「そうか、ノアはどんなことに興味があるのかな?」


さすが社交上手な侯爵なだけあって意図を読んでくれたようで、ノアに話しかける。

ほっとしたのも束の間、ノアは無愛想に会話を切りあげていく。


「どんな教科も好きです」


困ったように苦笑するオリビアが助け舟を出した。


「ノアはアディちゃんと一緒に学んだり、騎士団の皆さんと魔獣討伐に行ったりしたのよ。私たちの自慢の息子は、ここでたくさんの経験を積んでさらに成長したわ」


マーシャルは微笑むオリビアを目を細めて見ながら、頷いて話を聞いている。

二人の間に絆や愛情があることを、言葉は無くてもアデリンは感じた。

ノアの様子を伺うと、鋭い光を放つ瞳でマーシャルを見ていた。その鋭い視線にアデリンはハラハラするが、マーシャルは気にも留めずノアへ話しかけている。


──侯爵様は本当にノアと関係を築きたいのね。安心したわ。


アデリンが様子を伺っていると、ノアの能面のような表情がアデリンの瞳を捉えた。思わず、アデリンが自分の口角を精一杯上げた笑みをノアに向ける。ノアは目を見開き、口元が緩んだ。


──よかった。笑ってくれた。


ノアの表情の変化に気づいたマーシャルがアデリンを見る。思わず固まってしまったアデリンを見て、面白そうに笑った。


「ノアが成長したのは、アデリン嬢、君のおかげなんだな。改めて礼を言いたい」


突然のことにどぎまぎして、言葉に詰まる。


「マーシャル、私たちの自慢の娘が君の自慢の息子と共に成長できてなによりだ。我らの自慢の子供達に祝杯だな」


アイザックが場を引き受けてくれた。

その後も大人達の話に耳を傾けながら、晩餐はお開きとなった。




アイザック達はサロンに移動して、食後のお茶を飲むようだ。アデリン達は失礼して、談話室へ引き上げた。


「はぁー」


ミリーが入れてくれたお茶を飲むと、アデリンは気が緩んでため息が出てしまった。

ミリーに咎められたけれど、とても心臓がドキドキハラハラして疲れた晩餐だった。ノアも苦笑しながらも、疲れた様子でお茶を飲んでいる。


「侯爵様、ノアのことをすごく気にされていたね」


「ああ、外面がいいんだろ。俺は騙されない」


きっぱりと言われてしまうと、後に言葉が続かない。アデリンは黙ってお茶を飲むことにした。

オスカーがノアに、カードゲームがしたいとねだっている。笑顔でノアが応じる。談話室で先に休憩していたビクターも加わるらしい。


「お姉様、お姉様も一緒に遊びましょう」


オスカーがアデリンも誘ってきた。ノアもビクターも笑顔でこちらを見ている。


「ええ、私も一緒に遊びたいわ」


アデリンも満面の笑みを浮かべて、みんなのところへ向かった。


負け続けたオスカーがなかなか納得せず何戦か続けてお開きになった。


「結局ノアが勝っちゃうんですね。ずるいです」


悔しがっていたオスカーを、アデリンは微笑みながら慰めていた。


「私もビクターも負けちゃったわ。私とまた遊びましょう」


「ノア、絶対に次は僕が勝ちますから! 絶対に一緒にゲームしてくださいね!」


少し潤んだ瞳でオスカーがノアに宣言する。


「……ああ、オスカー、またしような」


オスカーの頭を愛しそうに撫でるノアの瞳も、少し濡れたような光を湛えていた。




「あの子なりのさよならの仕方だったのね」


寝る時間だ、と侍女と一緒に部屋に戻ったオスカーを見送りながら、そっと呟く。


「ああ、わかっている」


ノアも静かな口調で応えた。淋しくなるな、と呟いた声が聞こえた。


「私も部屋に戻るわね。明日はランタン祭だわ。忙しくなるわね。ビクターは明日、ランタン祭に参加する?」


「ああ、故郷にはないお祭りだ。楽しみにしているよ」


「ええ、ぜひランタンを揚げてみてね。とっても幻想的で素敵よ」


アデリンはうっとりとした表情で応えた。ビクターもノアも、アデリンの艶やかな表情に見惚れて一瞬固まってしまう。ミリーの咳払いで呪縛から解かれたかのように赤面した二人に、アデリンは首を傾げるだけだった。


「アディ、部屋まで送るよ」


ノアが手を差し出す。

瞳を瞬かせたアデリンだったが、ノアの手を取って、にっこりと笑った。


「ええ、お願いね」


ノアの手を借りて立ち上がったアデリンは、ビクターに声をかけてから部屋へ向かう。



「ノア、今日はオスカーに付き合ってくれてありがとう。私も一緒に遊べて楽しかったわ」


部屋へ向かいながらアデリンはノアを見上げる。アデリンの手はノアに取られたままだ。ノアは柔らかな微笑みをアデリンに返す。取り留めもない話をしていると、アデリンの部屋についた。


「じゃあ、ノア、ありがとう。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


柔らかな琥珀色の瞳、優しい声色、そして温かい手が離れていく。

不意にツンとアデリンは鼻の奥が痛くなる。


──笑うのよ!


潤いのある翠色の瞳をノアに向け、精一杯の心からの笑顔を残して、部屋の扉を閉めた。


立ち寄ってくださってありがとうございます。

感想や評価(下の☆☆☆☆☆)をいただけると今後の励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。