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24. 適材適所

朝早く、アイザックは捕らえた闇ギルドの幹部達を、ワイバーンに乗って王都へ連れていったと聞いた。


事後処理がうまく進むといいのだけれど……


アデリンは救出された子供達と会うため騎士団の室内の訓練場へと向かった。

総勢9人の子供達が帰る場所がなく、昨日は騎士団の寮に泊まったのだ。


帰り場所も居場所もない子供達・・・魔力があるために人身売買のため親に売られてしまった子供達。

まだ小さいのにどんな暮らしをしてきたんだろう。


子供達は、アデリン、ノア、ミリー、そして今日から護衛のビクターの姿を見ると一斉に体を強張らせた。

おどおどとした様子でこちらを窺う子、きっと鋭い視線を投げかけてくる子、俯いてこちらに目もくれない子……様々だ。


アデリンは子供達を怖がらせないように、穏やかな声音で挨拶をした。

「皆さん、私はアデリン・ソーラスと申します。皆さんの体調はいかがですか? 昨夜はよく眠れましたか? 食事は取れましたか? 何か足りないもの、必要なものがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね。

今回怖い経験をされてお辛かったでしょう。ここは安全ですので安心してください。今からの生活については、皆さんの意見を伺って希望に添えるようにしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたしますね」


アデリンの花が綻んだような優しい笑顔に子供達は惚けたように見つめている。そんな中、一人の女の子はずっと下を向いて俯いたままだった。


「城内には、学びの園という読み書きなどを学べる場所があります。武術も学べます。町には教会が運営している孤児院もあるのでそちらを希望することもできますが、皆さんの安全面のことを考えるとあまりお勧めできません。

城内に留まるのであれば、学びながらお仕事をして頂きお給金もお支払いします。城内の仕事は炊事、洗濯、掃除や侍女のお仕事、また騎士のお仕事もあります。ワイバーンのお世話係や竜騎士のお仕事もあります。これから男の子と女の子に別れて、今後についての皆さんの希望を教えてもらいますね。

女の子は私とミリーが。男の子はノアとビクターが皆さんからお話を聴かせてもらいます。不安なことがあれば、遠慮なく言ってくださいね」


子供達の目は不安の色は濃いままだ。


いきなり連れ去られ、知らないところで生活していくのは不安しかないだろう。どうしたらこの不安を取り除いてあげられるのだろうか。


「ノア・オルフェーだ。よろしく。君たちの居場所を作ってあげたいと思う。それでは、男の子達はこちらにきてほしい」


ノアが柔らかな声音で、簡潔に挨拶をした。


アデリンとミリーの周りに女の子4人が集まった。


「改めて、私はアデリンよ。昨日はよく眠れたかしら? ご飯はしっかり食べられている? 何か困っていることはないかしら」


微笑みながら一人一人の顔を覗き込んで聞く。1人の女の子はずっと下を向いたままだ。残りの3人は緊張した顔つきではあるが、しっかりと頷き反応してくれている。


「みんなは故郷に戻らずに、ここで暮らしていくことを決めたと聞いているわ。それでよかったの? もし帰りたいところや行きたいところがあれば遠慮なく言っていいのよ」


1人の女の子がおずおずと口を開いた。


「あの〜……私は親に売られてきました。もう会いたくないですし、故郷に未練もないんです。ここで暮らしたいです」


その発言がきっかけとなり、もう2人の女の子も口を開いた。


「私たちも同じです。私たちは双子なんです。親がいなくて親戚のところにいたんですが、売られました。戻りたくはないし、姉妹で離されるのも嫌なんです」


うんうん、と頷きながら女の子達の話を聞いていたアデリンは、俯いている女の子に声をかける。


「あなたはどうかな? いきたいところはあるかな?」


女の子はずっと下を向いたまま、アデリンの言葉に全く反応しない。他の3人が自分ごとのように青ざめて、口々にいう。


「すみません。この子が話しているところ私たちも見たことがないんです」


「いいのよ。怖い思いをした上に初めての場所ですもの。不安があるに決まっているわ」


アデリンはその女の子の方を向き、柔らかい口調で伝えた。


「ゆっくりでいいのよ。何か私に伝えたいことがあったら教えてね」


──まずはお話してくれている3人の今後を決めよう。


「それでは、あなた達3人の気持ちを先に教えてもらいたいわ。3人ともこの城内で暮らすことでいいのかしら? 学びの園で読み書きや武術も習えるわ。怖がらせるつもりではないのだけど、ここは魔の森が近いから、何かあった時に逃げられるよう皆に武術の訓練をしているの。戦うためではないのよ」


魔の森と聞いて、表情を強ばらせた子供達に武術を習う理由を慌てて伝える。


「学びながらお仕事をすることもできるの。最初は見習いからになるけれども、仕事を覚えれば年齢は関係なく一人前として扱うわよ。もちろん、見習いでも決められたお給金をお支払いします。お休みの日も1週間に1度あるわ。お仕着せもこちらで用意しますよ」


基本的なことをアデリンから説明する。その後をミリーが引き継ぐ。


「何か得意なものを持っていますか? ソーラス家では、性別や年齢は気にせず、やりたいことに挑戦させてもらえるわよ」


最初に発言した子、ジョーが口火を切った。


「私、村でずっと薬草を育てていたんです。薬草を煎じたりするのも好きです。もっと薬草について勉強したいと思っていて……でも女の子はだめって言われていて……。ここで薬草に関わる仕事をさせてもらえたら嬉しいです」


ジョーは俯いて言葉を選びながら一生懸命に話す。

アデリンは思わずジョーの両手をとり、明るい声で話しかけた。


「まぁ! 薬草に興味があるのね! 私もなのよ!! どんな薬草を育てていたの? この領地には、珍しい薬草も多く自生しているのよ。きっとあなたも興味を持つと思うわ。私も薬草について勉強したいと思っているから、一緒にお話できたら嬉しいわ」


ミリーがアデリンに「お嬢様、びっくりさせてどうするんですか」と囁いてきたので、ジョーをよく見ると呆気に取られたように目を見開いている。


「ふふふ、ごめんなさい。薬草好きの仲間がいると思ったら嬉しくなってしまったわ。城には薬師の方もいらっしゃるし、薬草を調合する方もいらっしゃるの。そこに見習いで入れるよう話をしてみるわね」


「ありがとうございます!! お姫様も薬草に興味がおありなんですね。嬉しいです。女の子だから駄目ってずっと言われていて悔しかったんです」


潤んだ瞳でジョーがアデリンを見つめる。

姉妹のメグとエイミーも口を開く。


「私は侍女になって、お姫様のそばにいたいです!」と、メグ。


「私は騎士になって、お姫様を守りたいです!」と、エイミー。


「まぁ……お姫様って……私?ふふふ。ありがとう。でも、私はお姫様ではないわよ」


アデリンが嬉しそうに笑う笑顔は大輪の花が開いたかのような艶やかさがあり、ジョーと双子は見惚れている。


「いえ、お姫様にしか見えないです。こんなに美しい人を見たのは初めてです。物語のお姫様の絵よりずっとずっと綺麗です!」


「まぁ、ありがとう。すごく嬉しいわ。メグは私の侍女を希望するの? それならばミリーに教えてもらうことになるわね。ミリー、どう?」


ミリーがメグにいう。


「侍女の仕事はかなり広範囲ですよ。まずは読み書きはできますか? たくさん覚えることがあるので、それを覚悟できるのであれば、お嬢様のお世話ができるようになるまで徹底的に教え込みますよ」


「はい!! お願いします!!」


「メグ、頑張ってね。エイミーは騎士になりたいの?」


「はい、ずっと憧れていました! 昨日助けてもらった時に、女性の騎士の方がいらっしゃって、本当に素敵だったんです。私もああなってみたいって思ったんです」


「そうなのね。確かに女性騎士の方、お姿が凛々しくて素敵よね。私も見惚れてしまうもの」


エイミーは首をブンブンと縦に振って頷いている。


「騎士団に入るには、武術も必要だけれど、学力も必要になるの。学びの園で、座学と武術の鍛錬を頑張ってね。騎士団長へは話をしておくわね」


3人にそれぞれ希望があり、叶えてあげられそうでほっとする。


あとは……もう一人の子ね。


「あなたは何に興味があるかしら?」


俯いている女の子に声をかける。他の子に比べてとても痩せ細っている。


「そうねえ、他の3人が希望したお仕事もあるし、あとは、お掃除やお洗濯するお仕事もあるし、お針子のお仕事もあるわね」


お針子という言葉を出した時、俯いていた顔が上がった。


「お針子に興味があるの? 裁縫が得意なのかしら?」


「……」


ぎゅっと膝の上に置かれた両手の拳が震えている。アデリンはそっと小さな二つの拳を両手で包み込んだ。


「お針子のお仕事も、色々と分かれているのよ。繕い直す仕事も多いけれど、ドレスを作ることもあるの。あなたは刺繍が好きかしら? それとも裁縫?」


「ドレス……」呟きが聞こえた。


「ドレスに興味があるのかしら。ドレスを作ってみたい?もうすぐ、お祭りがあるの。星祭っていうのよ。私のドレスをミリーと一緒に考えたのだけれど、もし興味があるなら案を見てみるかしら?」


ようやく女の子の顔が上がった。驚いたように目を見開いてアデリンを見つめた。


「私がお姫様のドレスの案を見てもいいのですか?」


「もちろんよ。ミリーがとても素敵な図案を描いてくれたのよ」


か細い声だけれど、力強さを感じる声音で「私、お針子さんになりたいです」と話し始めた。

「今までずっと人の服ばかり作っていました。それしかできなかったから。でも本当はドレスを作ってみたかったんです。私は、お姫様のドレスを作ってみたいです」


「うふふ。ありがとう。あなたが作ってくれるドレスを着る日が楽しみだわ。お針子の見習いからのスタートになるけれど、これからもよろしくね」


「私はベスです。私も戻るところがないです。ここにいさせてください!どうかよろしくお願いします」


震えるか細い声だったが、必死にベスが気持ちを言葉にする。アデリンはベスを安心させるように、にっこりと微笑んだ。そして、全員の意見が聞けてよかったと胸を撫で下ろした。


ミリーが4人へここでの暮らし方や仕事の説明をしてくれている。アデリンはノアの姿を探した。見渡しても姿が見えない。すでに男の子達の聞き取りが終わったようだ。耳を澄ますと外の訓練場から剣戟音が聞こえてくる。


ミリーに説明を任せて、アデリンは外へ出て驚いた。ノアとビクターが剣で打ち合っている。

思わず、二人を見守っている騎士達に「どういうこと?」と聞いてみた。


「いや〜、子供達が全員騎士希望だったんで、見学にこられたんですが……。途中から二人の剣術の鍛錬になってしまいましたよ」


「二人が使っているのは木刀?」


「そうです。二人ともすごい腕ですよね……」


そう言いながらノア達の剣技から目が離せないようだ。二人からはガッという木刀同士がぶつかる重い剣戟音が響いている。


──二人とも強い!


技術は拮抗している。腕力もお互い負けていない。よくみると二人の周りには折れた木刀がいくつか転がっている。


──どれだけ木刀を駄目にしているのよ。


子供達が怖がっていないかと心配して様子を見ると、皆、瞳をキラキラさせて二人の木刀稽古に見入っている。


──さすが男の子、なのかしらね。憧れの視線になっているわね。


「二人とも楽しそうですね」


騎士の言葉に二人を見ると、撃ち合いしながらも何かを話している。二人は鋭い表情で睨み合っている。


「あなたには彼らが楽しそうに見えるの?」


「はい。二人ともいい顔をしてます。ノアは、いつも全力を出していなかったんですよ。俺たちに。今の二人の撃ち合いをみてわかりました。ノアのあの顔は俺たちでは出せなかった」


そう言われてノアを見る。生き生きしているようにも見える。

ノアが全力を出せる相手がいてよかった……のよね。


ミリーに連れられて、女の子たちも二人の撃ち合いを見に来た。騎士志望のエイミーが憧憬の眼差しで二人の撃ち合いを見ている。


暫くすると、二人の木刀が同時に折れた。気が済んだのか、二人は打ち合いをやめて一緒にこちらに向かってくる。


確かに二人ともすっきりとした良い顔をしているわ。

これで仲良くなれたのかしら。


「二人とも凄かったわ。でも、どれだけ木刀をだめにしたのよ」


「あー騎士団長に怒られちゃうな」


「まぁ姫様のせいってことで」


「え?なんで私?」


「だって、姫様が鈍いんだもん」


ビクターの背中をドンとノアが叩いた。ノアの鋭い眼光がビクターを睨んでいる。大笑いしているビクターを見ると、やはり二人が戯れあっているようだ。


「二人とも仲良くなったみたいで、よかったわ。子供達の希望も聞けたし、家令のテオへ引き継ぎしましょう。さ、戻りましょうか」


二人を置いて、ミリーと子供達と一緒に城へ向かいだすと、後ろでノアとビクターが何か言い合いをしながらついてくるのがわかった。


本当に仲良くなったんだわ。

ノアに同性の友達ができたの、きっと初めてだわ。良かった。



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