11. 打ち明け話
立ち寄ってくださってありがとうございます。励みになります。
右手が温かい。ふわふわ漂うように微睡んでいた体が徐々に覚醒していくのがわかる。
アデリンは目を開ける。
ここはどこ?
見慣れた天井が目に入り、自分のベットの上だと気がついた。部屋に差し込む光の具合で、お昼近い時間だとわかる。
え〜と、私、魔力切れで倒れたんだっけ……
横を向くと、椅子に腰掛けたノアがベットの上に頭を突っ伏している。片手はノアの頭の下で枕になっていて、もう一つの手は私の右手に繋がっていた。
私の手を握ったまま寝てる……
目の前の状況に驚き、暫く呆然としてしまう。
ノア、ずっといてくれたのかな。
繋いだ手を見てくすぐったい気持ちになる。ノアを起こさないようにゆっくりと自分の体を横向きに変えて、ノアをじっと見つめた。
長い前髪が横へ流れているため、今は、顔が隠れていない。部屋に差し込む日差しを受けて、漆黒の黒髪が艶やかに光っている。黒髪が映える滑らかな白い肌、鼻筋が通って、綺麗な形の細い唇、目を伏せていてもわかる端正な顔立ち。
(ノアの睫毛、長いわね)
側にいてくれたんだと思うと、恥ずかしいやら嬉しいやらで胸がざわざわしてしまう。
私の寝顔、大丈夫だったかしら……
綺麗な黒髪だわ
左手を伸ばして、ノアの頭を撫でる。
心配させちゃったかしら。
髪の毛が思ったより細く柔らかくて触り心地がいいなぁと思いながら、またうとうとしてしまったようだ。
ふっと、身じろぎする気配を感じて、ゆっくりと目を開けると、双眸をぱっちりと開けてこちらを見ているノアと目が合った。
私の右手はノアと繋がったまま、左手はノアの頭の上に置いたままだった。
ノアの琥珀色の瞳に優しい光を見つける。
夢かな。
こんな優しい瞳を私へ向けてくれるなんて夢だろうな。
夢でも嬉しいなと思ってふにゃりと頬が緩む。
「アディって、名前を呼んでくれてありがとう。嬉しかったわ。これからもアディって呼んで欲しいの」
倒れる寸前に感じた喜びを声に出す。
夢ならいいよね……と再び撫ではじめた私の手を、ノアがそっと握る。
「え? 夢じゃない?」
手を握られた感触で、一気に覚醒した。
「夢だと思っていたの? ……心配したよ。身体は大丈夫?」
ノアの掠れた小さな声を聞いて、両手とも握られていることに気づいて顔が熱くなってきた。
「だ……だいじょうぶ……ごめんなさい、ノアが見つけてくれたんだよね?心配かけてごめんなさい。ずっと……そばにいてくれたの?」
咄嗟に両手を抜こうと動かすけれど、しっかりと握られていてびくともしない。
体を起こして、大きなため息をノアがつきながら困ったような声でいう。
「本当だよ。湖が光ったから何事かと思って見に行ったら、アディが倒れているから驚いたよ」
「ノア、あんな早い時間に起きていたの?」
「……ああ、ちょっと目が冴えてしまったから散歩に出ていたんだ……」
歯切れが悪くなったノアはようやく両手を離してくれて、私がもたれ掛かれるように背中のクッションを直してくれた。
「それにしても、なんで魔力切れになるまで湖を浄化したんだ?俺が見つけなければ、ずっと湖の岸辺で倒れていることになったんだぞ」
少しばかりノアの目が鋭くなった。
「う……ごめんなさい。本当に見つけてくれてありがとう。魔力切れになるまでやるつもりはなかったの。ただ……なんだか気になって……」
しばらく間をおいてから、ノアが静かに口を開いた。
「何が気になったんだ?」
「……笑わない?」
「笑わない」
夜中に水竜を見たから……なんて信じてくれるだろうか。
俯いてぎゅっと両手を握りしめる。
「あのね、昨夜、グレン湖の上で飛んでいる水竜を部屋から見たの」
「…………」
何も言わないから続けていいよね。
「水竜はすごくすごく美しかったの。月光に照らされて輝いていて……。でもね、動きが気になったの。
なんていうか、怒ってる感じっていうか……。だから、もしかしたら湖の状態が悪いのかしらって。もう、この地からいなくなってしまってるかもしれないけれど、もしかしたらまた来てくれるかもしれないって思って……」
ノアは、ぽつりぽつりと話す私の言葉を静かに聞いてくれた。
「……信じてくれる?」
「何を?」
「私の話……水竜に会ったこと」
「……」
何も答えないノアに不安になって、表情を探ろうと俯いていた顔をあげた。
前髪が横に流されたままで、ノアの双眸が現れている。瞳には苦しそうな悲しそうな色が見えて、胸がどくんとした。嘘だと思われてる? 胸がぎゅっと締めつけられる。目の縁に涙が浮かんできたのを感じる。
一生懸命に瞬いて泣かないように我慢していたら、一粒ほろりと落ちてしまった。
気づいたノアが慌てて涙を指で拭ってくれた。
「……どうした?」
「……ノアに信じてもらえないのかな、と思って」
「いや、信じるよ!信じてるよ!それにミリーも辺境伯夫妻も、今回の魔力切れの原因は水竜が絡んでいるのは間違いないって言ってたしね」
おどけたように微笑むノアの瞳にはもう悲しみの色はなかった。
「あ!!みんなからまた怒られてしまうわ!」
「ははは、たっぷり怒られてよ。オスカーも心配して、何度も覗きにきていたぞ。今はミリーとアディの昼食を取りに行っているよ。もうすぐ戻って来るぞ、覚悟しておけよ」
そう言って、ノアは私の頭を撫でた。
ノアがいうようにしばらくすると私の昼食を持ったミリーとオスカーがやってきて、二人にしっかりと絞られた。




