004
ここは東京都の裏側だと鷹代蒼は言う。
正確には日本の裏側。だが、出入りをするには東京都内である必要があったらしい。
「その、出入りというのは」
出来るのならば、何も学校から出て歩く必要は無いではないか。
蒼に手を引かれ、小雀は人のいない校舎の外へと出てきていた。やはり無人のグラウンドを通り過ぎて、開いたままの校門から外へと出て坂を下っていく。
小雀の問いに、振り返った蒼が肩を竦めた。前方の信号は赤色を示していたが、車道に一列に並んだ車の運転席に人の姿は見つからず、そのまま横断歩道の上を進んでいく。
「ちょっとコツが要るんだ。でもこの辺は危ねーから、安全な所じゃないと教えにくいし、話の方が先だろ、お前の場合」
何かが引っかかる。
蒼の言い方は、まるでここには他にも誰かがいるかのような物言いだ。
しかしそれを追求するより先に、蒼は小雀を押しとどめるように掌を向けた。蒼の視線は小雀の背後を見ていて、見る間に顔色が白くなっていく。
「走れ」
「はい?」
「いいから走れ!」
「えええっ!?」
訝しがる間こそあれ、血相を変えた蒼に強く手を引っ張られて小雀はつんのめりながら駆け出していた。
「ああもう最悪!」
罵る声の理由も意味も分からない。
小雀にとっては突然人の姿の無いおかしな世界でクラスメイトと一緒に居る現状自体が最悪といってよく、これ以上の最悪などあるはずがないと思っていた。
だから迂闊にも、蒼が見ていた背後を振り返り、
「何なんです!? いったいなに、が」
そして見た。
黒い塊を。
「見てる場合か! 前だけ見てろ!」
どうしてそこまで焦るのか、小雀には理解が出来なかった。
ただ把握した。
“アレ”はやばい。
本能が感じ取った危険を理解した瞬間、『――――――――!!』声なき声があたりに響き渡った。
視界が真っ黒に染まる。いつの間に追いつかれたのかも分からないほど早い。
走れ、と聞こえた声は誰のものだっただろう。蒼でないのは確かだった、だってあれは女性の、ワタシの声だ。
声に出した覚えなどない小雀の声に弾かれたように黒い塊が動きを止める。怯んだように見えたがよく分からない。
真っ黒な塊の中に見え隠れする小さな光が怖くて、小雀は前を向いた。
信じられないものを見るような目で見てくる蒼に首を傾げる。
「……。いや、助かった」
その言葉の意味を理解する事は後回しにして、二人は走り続けた。“アレ”から逃げる為に。




