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013

 試す、と蒼は簡単に言ってくれたが、誰もが“どうしてそれを使えるのか”を把握していない以上、なんとなく念じてみたり、意識を集中させてみたりといった事しか出来ない。聞けば蒼や三谷という後輩も、一度だけ使えた“力”をもう一度意のままに扱うにはかなりの時間がかかったという。

 ちなみに翠は、そんな話をするより早くとっとと店の中へと入ってしまった。曰く、「開店させないとな」との事だったが、蒼によれば彼が[幻灯区]へ出入りする頃には既に店に人が寄り付かない状態だったというのだから、逃げたと小雀が捕らえたとしても致し方ないことだろう。口に出さなかったのは、それでも働くというのはそういう事かもしれないと思ったからだ。たとえ人が来なくとも、店である以上は扉を開く必要があるのかもしれない。

「そのうち“適性”を収めた状態で“あっち”に居られるようになるけど、それまでは[穴(スポット)]に近づけは[幻灯区]に引きずり込まれると考えた方が良い。すぐ戻れるように、せめて形は作ってもらわないとな」

 形を作れば出し入れを意識する事が可能になる。一人で出入りできるようになれなければ、なるべく蒼が近くに居てくれるとも言うが、小雀としてはこれ以上の世話になるのは真っ平だった。

 既に昼食を挟んで午後に入っている。学校もサボらせてしまったし、何としてでも夕方までには何かしら進歩が無いと申し訳が立たない。

「あんまり気負うなよ。三谷の時に比べりゃ大分マシだ」

「そう言われても、気になるわけでございますが……マシとはどういう事です?」

「俺とお前なら同じクラスだろ。学校にも出入りできるし、目を配るのはそんな難しい事じゃない。三谷の時は翠が見ないといけなかったから、お互いに定期的にメールのやり取りしたり、電話し合ったり、それでも三谷が[穴]に巻き込まれれば連絡手段がねーしで、結構苦労したみたいだぜ」

 苦労だけでなく無茶もして、“力”の使い勝手はその分広がったらしい。今の翠は風に乗って移動したり、風の流れを読み取って物がどこにあるかさえ把握出来るというのだから恐れ入る。

 小雀としては、あの翠が、という気持ちも強い。あの翠がそこまでするのか。

「翠はなあ……何考えてんのか分かんねーから」

 そう言って、困ったように蒼は笑った。

 だいぶ年の離れた姉と弟の間には、埋めにくい溝があるのだろう。小雀の弟達は同じ燕城学園の中等部に通う二年生で、年が離れすぎているわけではないが、双子ならではのやり取りにはやはりついていけず気後れする事がある。

 三谷という後輩は結局、深夜に締め切った家から出られなくなってしまい、その切羽詰まった状態が功を奏して“力”の出し入れが出来るようになったらしい。

「窓越しにやり取りすんのは面倒だし、今日中になんとかできるのが勿論ベストだけど、お前ほんとに覚えてないのかよ。ここ、頭ん中のイメージが結構影響するし、ほんの少しでも何かあればトントン拍子でいけるはずだぜ?」

「そう言われましても……先程から言っている通り、声が聞こえただけでございますよ」

 自分で叫んでみたり、蒼に叫んでもらったりしてみたが、まったくの無駄に終わった。声が関係しているようではあるのだが、そこから先に進めない。

 思い出せば思い出すほど、声をぶつけたのだというそれだけが浮き彫りになっていく。自分の声だと思っていたが、なんとなくそれも違うような気がした。何かを組み合わせたかのような歪なワタシの声。蒼にそう言うと、彼はまた難しい顔をして手元の弓を上に向かって放り投げた。

 見た目よりは軽いのか、左手で受け止めた弓をバトンのように回して見せる。

「声、なあ……声っつーか、音か。音、音って何で出来てるんだ?」

「知りませんよ。それよりその弓、邪魔なら仕舞ってしまえば良いのでは?」

「仕舞うと[幻灯区]から“あっち”に戻っちまうんだよ、“適性”も仕舞う事になるって意識が強すぎて。俺は入る方が得意なんだ」

 投げやりな声で詳細に説明してくれた後に、蒼が「お前のことなんだから考えろよ」と口を尖らせながら言う。

 もっともな話だが、考えるよりも有用な事を小雀は既に思いついていた。

「アナタ、ノートパソコンか何か持っていませんか」

「翠なら持ってると思うけど、なんだよいきなり」

「いえ、ケータイを使っても良いのですが、調べ物には不向きでございますから」

「調べ物?」

「声と音について調べましょう」

 考えるのは材料を揃えてからでも遅くはないはずだ。

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