第三話『なんなん』
さっそくわたしは指輪をはめ、空中に展開されたホログラムをフリック操作し、初期装備の服をイケメン三人に着せようとした。
したんだけど──。
いやー、もったいねえよなあ──。
願わくば三人ともずっとこのままでオブジェにして飾りたい。
特にショタ王子のアレがマジでデカい。顔に似合わずかなりなものをお持ちのようだ……。詳しい描写をしたいんだけど、わたしのムッツリがバレてしまうのでやめておく。それに、イケメンたちに変に思われたくないから平然と装った。
鼻血出してるから遅いと思われるかもしれないが、画面の右端に ※あくまでイメージですって書いておけば問題ないだろう。
『どんな服が着たいとかありますか?』
あくまで優しいお姉さん。平然! 平然!
(ヨレてる体操着を着てるから威厳などクソないが)
てか、出かける前に化粧しておけば良かった!! ああーーー! 平然とか無理! 前世のわたし恨む! マジ恨む!
すると、髪の毛がちょっとツンツンで筋肉質な『オレ様系イケメンがわたしの問いに答えた。
『オレは別に着てえモンとかないけどよぉ。……なんだその服? 胸元の刺繍に天宮って書いてある。聞いたことねえブランド名だな』
『ああ、えっと──これはブランド名じゃなくてですね。わたしの名前で、これは体操着っていう、学校という組織に飼い慣らされた軍服みたいなモンです……』
良いように言う。言えてるのか? 謎だったが──。
すると、ショタがすかさず
『ボク、姫とその服でペアルックしたい!』と言ってきた。
デュフ、デュフフ。もう天宮って苗字あげる。婿養子に来い。
『お嬢様のそのお召し物。かなりヨレてるので今すぐ新調を。同じデザインの物を四着用意いたします』
天宮の体操着が四人もダンジョンで歩いてるのは超絶シュールすぎる……。
そんな映像とツッコミが脳内再生されたが、それもアリだなと思ってるわたしは間違いなく末期だった──。
『おいお主』
すると、女神が眉間にシワを寄せ、わたしになんか物申したいようだった。
『な、なに?』
『ワシの管轄区域である異世界で、そんな恥ずかしい格好して歩くなよ?』
殴りてえ──。
全国の天宮さんに謝れよ、おい。
『まあ確かに、TPOをわきまえたファッションは大事なのは認める。この子たちにはもっと良いもの着せてあげたいしね』
『えー、姫のそれめちゃくちゃ着たいのにー』と、ショタ王子は残念そうにため息をついた。
あとで、おうちでこっそりコスプレ一緒にしようね(小声)
わたしがフリック操作で、ホログラムをスクロールしているとそれはもうイケメンに似合いそうな服がたくさんあった。
『ええと。これこれ』
とりあえず物の試しに、全員に同じ装備(服)を着せてみる。
まずは執事服──。
画面上の『執事セットA(黒燕尾服)』をタップし、イケメン三人にドラッグ&ドロップした。
ポンッ、と軽い電子音が鳴り、三人の全裸ボディが一瞬にして最高級の仕立ての執事服に包まれる。
『おおーっ!』
思わず拍手してしまった。
執事系イケメンは当然として、オレ様系もショタ王子も、めちゃくちゃサマになっている。特にショタ王子の半ズボンとサスペンダーの組み合わせは、国宝に指定すべき破壊力だ。
『どうかな? 動きにくくない?』
『ええ、お嬢様。最高の着心地です』
執事系イケメンが優雅に一礼した、その時だった。
ビリィッ!!
『……え?』
オレ様系イケメンが『ちっ、肩周りが窮屈だな』と軽く腕を回した瞬間、彼の分厚い胸板を覆っていたシャツのボタンが、機関銃のように弾け飛んだ。
さらに、執事系イケメンが『お怪我はありませんか』としゃがみ込んだ途端、彼のズボンの股間部分が『パーン!』と景気良く破裂した。
『ちょっ、ちょっと!? なんで!?』
初期装備とはいえ、そんな紙装甲なことある!?
いや、冷静に考えろ。彼らの筋肉(と色んな部位)がデカすぎるから、規格サイズの服が耐えきれなかったのか?
……だとしたら、これは神の采配だ。ありがとう世界。
『ボクのも破けちゃった……姫、ごめんね』
ショタ王子が涙目でこちらを見る。なぜか彼の服だけは、誰かに鋭い爪で引き裂かれたように、あちこちが「都合よく」破れて、腹チラと太ももチラの絶妙なダメージルックになっていた。
『いいの! 全然いいの! むしろそのままの方が風通し良くて健康的だよね!』
『そう? 姫がそういうならボク、このままでいいや!』
よっしゃあああ!! 言質取りました!!
神様仏様、そして目の前で弁当食い終わった女神様。これぞ運! これぞ「ご都合主義」の真骨頂!
前世の不幸なんて全部チャラだ。これからの異世界ライフ、彼らの「すぐ破れる服」を見守るだけで生きていける。
……ズキッ。
『痛っ』
突然、右手の薬指に鋭い痛みが走った。
見ると、女神にはめられたあの大ぶりのダイヤモンドの指輪が、ほんの一瞬だけ、チリッと熱を持った気がした。
『どうしたんじゃ? 豚よ』
『誰が豚よ。……いや、なんでもない』
気のせいか。指輪のサイズが少し合ってないのかもしれない。
痛いというか、なんだろう。誰かが指輪を通して、遠くからペチッと叩いてきたような……謎の感覚。
『姫、大丈夫?』
半裸のショタ王子が心配そうに覗き込んでくる。
その純真無垢な瞳と、絶妙なダメージルックの太ももを見た瞬間、指輪の違和感なんて宇宙の彼方へ吹き飛んだ。
『全然平気! さあ、服も決まったし、いざダンジョンへ出発しよう!』
わたしは高らかに宣言し、イケメン三人を引き連れて歩き出そうとしたその時だった──
『お主』
女神の呼び止める声。
『なによ。これから逆ハーレムパーティ組んで、魔王を倒しに行くの。さっさと、異世界に転送してよ』
『その前に、その指輪について一つだけタダで教えてやろう。対価はいらぬ』
『え……』
『その指輪はな。持ち主の望んだことを叶えて現実化するという効果がある。それが幸運の正体じゃ』
すると、イケメン三人が『え……』と雁首そろえて言った。
まずい……。
『お嬢様。そんな破廉恥なことを』
『大胆なお姫様だな……誘ってんのか』
『姫の……えっち……』
『え! いや、別に三人が裸になることを望んでなんかいないし。やだなー。女神様ったら〜』
ほんと、この女神──ガチでなんなん?
わたしが心臓をバクバクさせ、あたふたと手をぶんぶん振って否定すると女神は
『まあ良い。そこの突き当たりを右に曲がったら異世界へ行ける』と、
それ以上は言及せず、道を案内してくれた。
ま、まあ、いっか。色々気になることはあるけど、全部自分の都合通りになれば、このイケメン三人だって、わたしにドン引きすることなんてないし。
その思いが天にも指輪にも通じたのかイケメン三人は三者三様でわたしを褒め称えた。
『姫のそういうところも好き』
『破廉恥ですが、お嬢様もお年頃なので仕方ありません。わたくしもお嬢様から熱烈に思われるのはやぶさかではございませんし……』
『おもしれー女』
わたしは三人と共に、女神の言われた通り、この極彩色の通路の突き当たりを右に曲がった。
背後で、女神が指輪をじっと見つめながら、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべていたことには、この時のわたしは全く気づいていなかった。
※※※
ゆり子が去ったあと──
女神は、口角をつり上げ、満足そうに言う。
『だから豚なんじゃよ……』




