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ほんの香る、夏のしおり。  作者: もふもふ博士


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4話 真夏の陰法師

 秋と話す回数は、自然と増えていった。

 約束をしたわけじゃない。

 でも気づけば、同じ時間に同じ場所にいる。

 書店だったり、公園だったり。

 たまに、帰り道が重なることもあった。

「また短編?」

 秋は俺の原稿をめくりながら言う。

「悪いかよ」

「悪くない」

 ぱらり、とページを閉じる。

「でも、逃げてる」

「……は?」

 思わず顔を上げる。

 秋はいつもの調子で続けた。

「終わらせてるんじゃなくて、終わらせてることにしてる」

 胸の奥を、指でなぞられたみたいだった。

「長く書くのが怖いんでしょ」

 否定できなかった。

 言葉にされると、逃げ場がない。

「関係が続くのが怖い」

 秋は淡々と言う。

「だがら、物語も短いまま終わる」

 風が吹いた。

 蝉の声が、少し遠くなる。

「……うるせえな」

 やっとそれだけ返す。

 秋は少しだけ笑った。

「でもさ――」

 ベンチに座ったまま、空を見上げる。

「音が長編書いたら、面白いと思う」

 その言葉は、妙に重かった。


 ――その日の帰り道だった。

「音」

 珍しく、秋の方から呼び止めた。

「なに?」

 振り返る。

 夕焼けが、やけに赤かった。

「もしさ……」

 少しだけ、間があった。

「私がいなくなったら、どうする?」

「は?」

 あまりにも唐突だった。

「どうした急に」

「いいから」

 秋はこっちを見ている。

 真剣な目だった。

「……別に」

 軽く答えるつもりだったのに、言葉が引っかかる。

「……困るだろ」

 結局、そんなことしか言えなかった。

 秋は、ほんの少しだけ笑った。

「そっか」

 それだけ言って、前を向いた。


 ――その三日後。

 秋は死んだ。

 

 事故だった。

 そういうことになっている。

 横断歩道。

 信号無視の車。

 ありふれた、よくある話。

 ニュースにもならない程度の。

 あまりにも、あっけなかった。

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