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ほんの香る、夏のしおり。  作者: もふもふ博士


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3話 夢現つ彷徨う

 秋に小説を読ませたのは、それから三日後だった。

 近くの公園のベンチ。

 蝉の声が、やけにうるさい。

「――読み終わった」

 秋はそう言って、原稿を閉じた。

 少しだけ、間が空く。

 心臓が、嫌にうるさい。

「面白いよ」

 最初に出たのはその言葉だった。

 安堵が一気に押し寄せる。

「ただ」

 続いた一言で、息が止まる。

「短い」

「……ああ」

 わかっていたことだった。

「もっと読みたくなるのに、終わる」

 秋は俺を見た。

「それ、勿体無い」

 その言葉、不思議と刺さった。

「あと……」

 秋は少しだけ考えるように視線を落とす。

「内面、足りない」

「……内面?」

「このキャラ、何考えてるか分かり切る前に終わる」

 図星だった。

「怖がってるのか、怒ってるのか、迷ってるのか――」

 秋は淡々と続ける。

「もう少しだけ潜れば、もっと良くなる」

 そのもう少しが、一番遠いことを俺は知っている。

「……なんでわかるんだよ」

 思わず、そんな言葉が出た。

 秋は少しだけ首を傾げる。

「だって、そう書いてあるから」

 当たり前みたいに言った。

 その瞬間、妙な違和感が走る。

「……書いてある?」

 俺はそんなつもりで書いていない。

 なのに、秋はそこにあるものみたいに言う。

「音はさ――」

 名前を呼ばれて、顔を上げる。

「なんで小説書いてるの?」

 直球だった。

 少しだけ考えて、答える。

「……最初は、嫌いだったんだよ。本とか」

「へえ」

「文字ばっかで、意味わかんねえし」

 秋は静かに聞いてる。

「でも、ある人がさ、小説の話してて」

「うん」

「なんとなく読んでみたら――ハマった」

 あのときの感覚は、今でも覚えている。

「で、書いてみたくなった」

 秋は小さく頷いた。

「じゃあさ――」

 少しだけ、楽しそうに言う。

「音は声が好きなんだね」

「……声?」

「小説って、声だから」

 サラッと言った。

 その言葉が、妙に残った。

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