1周年記念「小さな想い」
10話と11話の間のお話となります。
高校1年生で、俊也と俺が失恋してちょうど1ヶ月が経った頃だった。
俺と俊也は名前で呼びあうのが、やっと慣れてきた日の出来事。
「健斗、何処へ遊びに行く?水族館がいいなぁ~」
テストの最終日。半日で終わるので俊也は遊びに行こうと誘ってきた。
俊也の言葉に、俺は苦笑する。
「どこに行くって聞いておいて、自分で答えてる」
真吾と平井は逆に俊也の言場に納得したようだ。
「それが、有泉なんだからしょうがないんじゃないか?なぁ、タツ」
「俊也らしいよな」
そんな言葉を聞けば本人は黙ってるはずもなく、頬をハムスターのように膨らませて拗ねている俊也がいた。
「僕らしいってどういうこと!?」
慌てる姿が可愛くて、つい笑ってしまったのだが、それも俊也が気に入らなかったらしい。
俊也は、またも拗ねて、俺達から顔を背けてしまった。
真吾と平井二人は意外に意地悪だったらしく、俊也の行動を面白がっているようだ。
そのことに関しては、俺的には全然といっていいほど面白くないのだが……。
言い方は恥ずかしいが恋をして半年以上がたった今。
俊也と話しても緊張しないぐらい話すことに慣れてきた。ちょっとした仕草にドキッとしたり、俊也の一言一言が気になったりする。こんな経験初めてだった。
これが恋なのか自覚したときは、恋した相手が同性ということは自分自身驚いたし、最初はどうすればいいのか戸惑ったけど、真吾に大丈夫だと言われて少しずつだけど、進展しようと頑張っていた。
「水族館か……俺はいいけど、真吾と平井は……?」
どうするか真吾と平井の方を振り向くと、二人なぜか神妙に考え込んでいた。
何をそこまで考え込む必要があるのか分からないと、首をかしげると。
「二人で行ってこいよ、なぁ?」
真吾はしらっと言って見せた。平井はというと、うんと頷いただけだった。
「二人は用事があるのか?」
「そうだけど?」
嘘くさい返事で、二人が意図しての言動と分かった。
要するに二人で行って来いと言ってるのだろう。
「それだったら4人でいける日にしないか?」
健斗はさりげなく二人の思惑から外れようとするが、なにも知らない俊也はとんでもないことを言ってくれる。
「今日がいいんだ……。二人がいけないのは残念だけど、今日は二人で遊びに行ってくるね!」
えぇ………?
俺は驚きを隠せず、目を大きく見開いたまま呆然としていた。
平井に駄々をこねるのかと思っていた。一緒に言って欲しいって。
予想外の反応に俺の頭には疑問符だらけだ。
「じゃあ俺達、教室にもどる。二人で楽しんでこいよ」
真吾はふざけながら笑っていて、平井何か複雑な表情をしていた。
「うんっ」
俊也は、楽しそうに頷いていた。
* * *
今日は学校から近くの水族館に来た。日本でも有名の水族館でとても館内は広い。
「わぁーい、お魚がいっぱい!!見てみて健斗!!お魚がいっぱいだよ」
俊也の小学生みたいに楽しんではしゃぐ様子を見るのは俺としても楽しいのだが、あっちに行こう、こっちに行こうと腕を引っ張られ少々疲れ気味だ。
「そうだな」
返事が平凡すぎたらしく、俊也は楽しくないの?と問いかけるように俺に目を向けてきた。
「あの大きなサメ凄いよね!水槽とかどうやって掃除するのかな?サメ食べられないよう掃除する方法とかあるのかな?」
頭がいいと言われる俺でも、さすがにそこまでわからない。
「どうなんだろうな……」
だが、そんなことは俊也はどうでもよかったらしく、あっちには面白いのがいるとぐいぐいと腕を引っ張られた。
そこには俺が知っている。日本人がよく知っているお魚がいた。
「俊也。あの魚の名前知ってるか?」
その魚を指差すと、俊也は分からないと首を傾げる。
「アジ。食べれるアジ」
俊也は驚愕といった感じで、アジを凝視した。
「アジって焼き魚にすると美味しいアジだよね……?今日食べちゃったんだけど、朝ごはんで……」
何とも複雑だと、俊也は言う。
水族館の中は薄暗くて、俊也の表情が見えにくいけど寂しそうに瞼を伏せたのが雰囲気が分かった。
俊也は本当に純粋だ。
いまどきの小学生でもこんなにも純粋な人はいないと思う。
肩をちょんと突いてみると俊也はピクッと跳ねて、口を尖らせた。
「ほら、行くぞ。イルカ―ショーを見るじゃないのか?そろそろ時間だぞ」
俊也の頭ポンポンと自然と撫でてしまったのは、本人気付かず。
「えっ?うん!」
* * *
「あぁ~楽しかった!有難う、健斗」
グーッと空に向かって手を伸ばす俊也は、恥ずかしそうに言った。
「そうか、それはよかった」
俊也が楽しければ、俺はそれでよかった。
平井の失恋からもう何ヶ月もたっているけど、きっとそんなに簡単に傷は癒えるものじゃない。実際、俺はまだ俊也のことが好きだ。諦めていないと言う言葉にすると、頷けるか分からないが。少しでも俊也の気持ちが楽になってくれると嬉しい。
俺の気持ちはただ苦しくなるだけだけど。俊也が隣に居てくれるから大丈夫だ。
俊也と同じように俺も空を見上げた。空は真っ赤に染まっている。
「あのね、健斗ちょっと公園寄っていこ?」
突然の申し出だが、断るわけもなく、ただ俺は頷いた。俊也が俺の腕の裾を引っ張るので、それについて行くように歩いていた。
背は同じぐらいなので、歩幅は同じくらいなはずだ。だが今は俊也の一歩一歩の歩幅が大きく、ついていく俺は軽く早歩きだ。
何処の公園行くのだと思ったら、いつも行くデカザクラのある公園だった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、ねぇ……」
俊也は眉を下げて笑って、デカザクラの前に立った。そして何かを思うかのようにそっとデカザクラに触れた。
夕日に照らされてる俊也。そっと吹く風が桜の木を揺らし、木蔭が優しく俊也を包む。
───綺麗だ……
俺は感嘆した。
幻想的でとても綺麗だと思った。
俊也にはどちらかというと可愛いという感情が占めていて、綺麗ということはあまりにも不似合いだった。
だけど今は「綺麗」と一言しか浮かばない。
「知ってた?」
俊也は空から視線を外し、俺に向けた。
「えぇ……?」
何を聞かれたのか分からない俺は何をと促す。
「今日、実は僕の誕生日なんだ」
「そうなの……か?知らなかった。言ってくれればよかった」
俺は少なからず、ショックを受けていた。
好きな人の誕生日を知らなかった。
真吾か平井が教えてくれればよかったのにと思う反面、自分から聞けばよかったのだと自己嫌悪に陥る。
「プレゼント、遅くなるかもしれないけど待ってくれるか?」
今日渡したかった。だけど、今急いで渡したものでは俊也には失礼だと思う。
せめて時間をかけて俊也のプレゼントを選びたい。自分の勝手だけど。
だけど、俊也は首を横に振った。
「いらないよ。健斗と遊びに来れてよかった」
「でも……」
「本当に何もいらないんだ」
きっぱりと俺の目を射抜くように。俺はそんな俊也の目を見て何も言えなくなってしまう。
強い意志がそこにはあって、有無を言わせてくれはしなかった。
「健斗知ってる?この木の前で告白すると恋が叶うんだって」
気についている手に俊也は目をやり小さく笑った。
今、俊也は誰を思っている?
その笑顔はやっぱり……。
「知らなかった」
俺は嘘をついた。
平井に聞いたことがあるので、本当は知っている。
「ねぇ……健斗は好きな人…いる?」
その質問にひどく動揺する。
「突然な、なんだ?」
「うん?なんとなく訊いてみただけ」
俊也は特に気にした様子や俺を揶揄う様子は微塵もなく、本当にただ聞いてみただけなんだなと分かった。
「いるって言ったらどうする?」
どうしてこんなことを口にしたのか分かんないけど、言ってしまったものはしょうがない。俊也の答えを待った。
「そんなの分かんない。だけど寂しいかな?」
「寂しい?」
「うん、寂しい。だって、こうやって遊んでくれなくなるじゃん。彼女とかできたらきっと健斗は付きっきりだと思う。健斗は優しすぎるんだよ」
俊也の表情は、笑っているようにも見えるし、本当に寂しそうな表情をしているようにも見えるし、今の俺には分からなかった。
「俊也は、いるのか?好きな人」
俊也はもったえぶるように腕を組んでいる。
「うん?どうだろう?……秘密」
唇に人差し指を押しあててそう言った。子供っぽい仕草なのに、俺にはドキッとする仕草だった。
「また遊ぼうね」
いきなりな話の転換だったけど、気まずくなるよりはいいと思う。
「あぁ……そうだな」
「また」があるんだと思った瞬間、頬が緩んだけど。
俊也に見られていないといい………。カッコづけたいだけなのは自分がよく分かっている。
早く俊也の失恋の傷が癒えてくれますように。
────そして、いつか俊也の隣を俺に下さい……
「俺は俊也が好き」
それはきっと変わらないから
俊也の一番に今はなれなくてもいいから、ただ俺はそれを願おう。
* * *
「健斗ー!!起きてよ!!」
俺を揺らして起こそうとしているのだろう。だが寝起きの悪い俺はなかなか起きれない。
「無理……眠っ……」
「仕事遅刻するよ!!先生が遅刻してもいいのかな~?」
「えぇ!?」
起き上った瞬間に、目の前に俊也の顔があった。
「おはよう~健斗」
チュッと音を立てて頬にキスされた。一瞬にしてポッと顔が赤くなった気がする。
「おはよう……」
恥ずかしくて視線を逸らしてそういうと俊也は楽しそうに笑っている。
「ご飯できてるから食べてね」
最近は、俺の部屋にも来るようになって朝ごはんを用意していてくれる。
まるで『新婚夫婦』
「今日はね、オムレツを作ってみました」
「ありがとう」
二人恋人になった今、照れることも多々あるが緊張することはほとんどない。
喧嘩は少々あるがいつも仲直りするし、楽しくやっている。
「あっそういえば、健斗。さっき寝ながら優しく笑ってた」
「あっ?……高校の時の夢を見てな」
「どんな夢?聞かせてよ!!」
俊也はテーブルを乗り出して訊いてくる。
「俊也と水族館に行った夢」
「僕の誕生日のやつ?……懐かしいな……。あの時にはもう健斗のこと好きだったし」
「えっ!?」
初耳だ。
「驚いた?」
「驚いた。じゃあいつ俺のこと好きになったんだ?」
そう問いかけたら、俊也は思わせぶりに俺のくちびるに人差し指を押しあてた。
「うん?どうだろう……秘密!」
あの日と同じ台詞は俊也は覚えていたらしい。
「秘密が多いな」
「健斗には言われたくない」
「どういうことだ」
「さぁーどういうことでしょう?」
ニコニコ笑っている俊也は楽しそうで………。
もうどうでもよくなってしまった。
今は願うことだけじゃなくて、夢が叶った。
好きって思いもしっかり伝えることができた。
……じゃあ、あとは?
俊也と一緒に居ることが、俺の幸せだ。
夢を叶えておしまいじゃなくて、ずっとこの時間が続くと信じていたい。
そのために努力も必要で。
俊也も俺と同じ気持ちでいてくれることも大切だ。
────小さな想い。それは今も思い続けている。
こんにちは!彩瀬姫です。
こちらでは、お久しぶりです。
今日12月26日で「好き」と言ってもいいですか」シリーズ(いつの間にかシリーズ化)1周年です!!
記念ということで、健斗と俊也のお話をあげました。
ちょっと久しぶりに書いたので矛盾点もあるかもしれません。
バンバン指摘してください。
今日は私がネットで小説をかき始めて一年というの日でもあります。
「好き」と言ってもいいですか?が初作品なので。
一年振り返って、小説を書き始めて、漢字や意味を知ることができたなと思っています。調べて初めて意味を知った言葉も沢山あります。勉強になりました。
あと、少しは文章力が上がったかなと思いたいです。
沢山の感想いただけてとても嬉しいです。
有難うございます!
最近は忙しくて「手をつないでもいいですか?」月一更新になっていますが、時間があれば更新したいと思っています。
読んで頂き、有難うございます!
これからも彩瀬姫をよろしくお願いします。