345話 水中神殿
「…ちっ、これでもダメか」
俺は実験に使った無数の魂の結果を見てそう呟く。しかし、それも仕方ないだろう。何故なら、それらですらまともな成果が出ないのだから、不満を抱くのも当然だ。
…しかし、これはどうするべきか。俺の望みはただ一つ、恋人を生き返らせること。そしてその恋人と共に生きていたいだけのシンプルな欲望だ。
が、それですらまともに出来ないのだから、やはりここはモンスターの魂だけではなく人の魂を使うべきだろう。俺の欲は、他の神や人類にとっては邪悪とも呼べるものであるとは認識している。
しかし、そうだとしても俺はここで止まるわけにはいかないのだ。この望みは、あいつは、絶対に生き返らせると誓ったのだから。
「…なら、まずは悪人の魂でも刈り取ってから使ってみるとするか」
いくら自身の欲望や望みのままに邪悪なることに手を染めようとも、俺はこれでも神の一人なのだ。であれば、そう簡単に人の魂に触れるのはやめておくべきだろう。
それに、そんなことをしてしまえば間違いなく俺を倒すために神やその配下、人類が襲ってくることに違いはないともわかるのでな。
今ここで、止められるわけにはいかないのだ。俺は、必ずあいつを生き返らせると決めたのだ。であれば、これを達成するまでは意地でも抗ってみせるぞ。
「…だが、魂を使うのはやはりあっていたみたいだな」
俺は成果が出ないことに不満を感じつつも、それによって生まれた結果を見て再度そう呟く。なにせ、モンスターのものとはいえ魂を使えばそれだけ力が生まれるみたいなのだ。
であれば、人の魂を使えば今回の結果よりもいい結果が生まれるのに間違いはないだろう。
「…待っていてくれ、ーー。必ずお前を…」
「…っと、戻ってきましたね」
〈第四の時〉によって見ていたその記憶を最後に、私の視点は元の世界へと戻ってきました。
…読み取った記憶からして、今回見ることが出来た記憶も前と同じでその邪神の願いという恋人の蘇生を目指していた時の場面のようですね。
そして、今回は前回とは少々違って様々な魂を素材として使っていた実験の経過の最中、と。前に見た天災の本ではモンスターの素材などで実験を繰り返していたところでしたけど、今回はその先である魂の成果だったみたいです。
…けど、見た限りではそれでも満足な結果は得られなかったようで、ついに人の魂にまで手を伸ばそうとしたところのようでした。やはり、そう簡単には蘇生をさせることは出来ないのでしょう。
まあそれは当たり前だとは思いますけどね。普通、人は一度死んでしまえばそれで終わりなのです。そのため、その結果を捻じ曲げて生き返らせるなんて、どう考えても楽なものではありません。
「…とはいえ、邪神は何が何でも生き返らせようとしているみたいですが」
だとしても、その気持ちも多少ならわからなくもないですが。だって、私もその邪神と同じ立場であり、かつ私の一番大切な人である悠斗が死んでしまえば間違いなく同じことをすると確信が持てるので。
しかし、それが人の魂を使って実験するのを許すことにはなりませんが!いくら大事な相手だからといって、人を殺してまでやるのはダメなことです…!
「…とりあえず、報酬に関してはこんなところですね。では、この後はどうしましょうか…」
私は確認を済ませた魔本をインベントリに仕舞った後、顎に指を当てて思考します。
…やろうと思っていたワールドモンスターである静海の討伐も終わり、ルルリシアさんに報告も済ませてます。そして、今すぐにやらなくてはいけないことも特にないですけど……そうですね、夜ご飯までの時間はあそこを目指してみますか!
…私が目指してみようと思った場所、ですか?ふふん、それはですね、前に住人から聞いていたスレン湖畔森にある巨大湖の底に存在するという水中神殿なのです!
そこは前に聞いてからずっと行く機会がなかったですし、今みたいな早急にやらなくてはいけないことが特にないこの時間にするのがベストですよね!前々から行きたいとも思っていたのですから、そこなら探索と洒落込みますっ!
「では、早速行きますかっ!」
私はルンルンとした様子で精霊都市から元の場所である港町ルーイまで戻った後、そのまま転移も行って白湖都市ユーリに移動してからスレン湖畔森を目指して歩き始めます。
「…よし、着きましたね!」
そうしてそこから歩き続けること数十分でスレン湖畔森に存在する巨大な湖の前までやってきた私でしたが、その湖を見て少しだけ考えます。
住人から聞いた情報によると、この巨大湖の底に水中神殿があるとのことでしたが……どうやって向かうのが良いでしょうか?湖の底ということですし、普通に泳ぐだけでは息が続かない可能性もなくはないですが…
…あ、それなら前に作ったっきりで放置していたあのアイテムの出番ですね!あれを使えば、調べる時間くらいなら余裕で息が持つようになるはずです…!
そのアイテムとは、私が前に自身の持つ【錬金術】スキルによって作っていた"水中呼吸の魔法薬"というものであり、それを使えば二十分の間は水の中にずっといても息が続くというものなのです!
「やはり、もしもの時や備えは偉大ですねぇ…」
私はそう呟きながら、インベントリから取り出した魔法薬をぐいっと飲み切り、そのまま湖の中へと飛び込みます。
そして飛び込むとわかりましたが、この湖の中は想像以上に綺麗な見た目をしているらしく、まさに透き通る水晶のようで見惚れてしまいます。
しかも、魚やモンスターなどの姿を見つけることが出来ないため、それもあってここまで綺麗なのかもしれません。まあ私的にはモンスターなどに絡まれずに綺麗な湖を泳いでいくことが出来るため、ありがたくはありますが。
今の私が目指しているのはこの湖の底にあるという水中神殿なので、邪魔をされないでいけるのは好都合ともいえますね。
もしモンスターが妨害してきた場合は魔法薬の効果が切れた可能性があるので、何も障害がなく進められるのは楽チンです!
「(…むむっ、何か見つけました!)」
そんな思考をしつつも底を目指して私は泳ぎ続け、底に近づくに連れて暗くなっていく湖の中を泳ぎ出して数分が経つ頃に底へと到達したのですが、底に着くや否や私の視界に一つの建物らしきものを見つけました。
その建物とは、暗い底にあるのにも関わらずはっきりとわかるほどの真っ白な外観をして様々な装飾が施されており、その見た目的にもまさに神殿と呼べそうな建造物だったのです。
…どうやら、あの情報通りこの湖の底には水中神殿があったみたいですね!特殊そうな住人から聞いた情報なので単なる噂ではないとは思っていましたけど、それでも本当にあったのには安心しました…!
「(とりあえず、さっさと中に進んでますか)」
そう頭の中で考えた私は、"水中呼吸"のバフが付いている間にとその神殿の中へと泳いで進んでいきます。…さて、この水中神殿には何があるのでしょうか。
わざわざこんな湖の中に存在しているくらいなのですし、それ相応の何かがあるのだとは思いますが……流石に前情報が一切なくては予想も出来ませんね。
まあ何にせよ、ここを調べることには変わりないのですから、調べていけば自ずとわかりますよね!
「(…ふむ、中はやはり神殿といった感じなのですね)」
そんなことを考えつつも神殿内部を進んでいた私だったのですが、中は外観と同じで水中にあるのにも関わらず綺麗さとその神秘性を保っており、まさに荘厳な神殿と言わざるを得ない見た目をしていました。
…この神殿、何故水中にあるのにも関わらずここまで綺麗さを保っているのですかね?そのうえ、こんな水中の中なのにここまで立派な神殿があることにも謎が深まります。
どう考えても元からあった水中に神殿を建てた、というわけでもないはずですし、もしかすると神殿があった場所が後から湖になった、とか…?それならばこの状況には納得ですし、それがここに神殿がある理由なのかもしれないですね。
「ぷはっ……空気がありますね?」
そうしたことを思いながら神殿内部を確認しつつ進んでいた私でしたが、徐々に上方向へといっているのを確認してからもしばらく進んでいると、数分が経つ頃には何と空気が存在している場所まで辿り着きました。
…何故、こんな神殿の中に空気があるのでしょうか?見たところ上方向に進んでいたからこそだとはわかります。しかし、ここまでの道ではずっと水があったため、急になくなるのには少しだけ不思議に思ってしまいます。
普通なら水の中に空気なんて生まれるはずがないですし、何故なのかは疑問を浮かべてしまいますが……まあこちらとしては助かるので、別に気にしなくてもいいですね。ひとまず、空気があるのならここからはゆっくりでも問題なさそうです。
「…とりあえず、進んでいきますか」
私はそう口にした後、そのまま水がなくなった通路を足を動かすことで奥へ奥へと進んでいきます。
この先に水がなくなったおかげで進みやすくはあります。けど、この先には本当に何があるのですかね?泳いでいる時にも思いましたが、出来ることなら何かあると良いのですが…
「っと、ここが最奥……でしょうか」
そうして水がなくなった通路を変わらずに歩き続けて奥に向かって進んでいた私は、そこからしばらく時間が経過する頃で最奥に続くと思われる大きめな扉の目の前まで到着しました。
こんなところに扉があるのですから、まず間違いなくここがこの神殿の一番奥……ですよね?ここまでの道中ではこれといったものは見つけられなかったのですから、この奥には何があるのか……私、気になりますっ!
「それはともかくとして、早速開けて中に入ってみすか!」
私はそう声に出してワクワクした様子を隠さずに扉に手をつき、そのまま力を込めて扉を押し開きます。




