344話 記憶の本
「…とりあえず、この辺りで帰りませんか?」
「…そうだね。無事にワールドモンスターである静海も倒し終わったことだし、そろそろ帰るとするか」
私は聞こえてきたシステムアナウンスを頭の隅に追いやり、マリアナさんたちに向けてそう声をかけてみます。すると、マリアナさんはそのように言葉を返してきました。
…マリアナさんも言ってますが、静海も倒し終わったのでいつまでもここにいても意味がないですからね。なので、さっさと元のエリアに戻るべきなのは明白です。
それに、先程クリアしたワールドクエストについての報酬も確認したいのですから、さっさと戻りたいので!加えて、今の時刻もすでに九時半を超えているため、早めに戻ってログアウトもしなくては…!
明日には学校もあるので、明日に備えておく必要がありますからね!
「…ってか、どうやって元の場所に戻るんだい?船に乗ればいいのか…?」
「…そういえばそうだね?さて、どうしたものか…」
そうして元の街並みに戻ったエリアを通って私たちの船がある最初の場所まで戻ってきたわけですが、そこに着いてからふと気づいたのか、マリアナさんがそのように声をあげます。
…確かに、ここに引き摺り込まれた時は静海の仕業でしたが、どうすれば戻れますかね…?ここに連れてきた張本人はいないのですから……もしかして、戻れないとか…!?
さ、流石にそれはないですよね…?もしそうだとすると、もう一生ここで過ごす方になってしまうので、どうにかして戻る手段を探さなくては…!
「っ!?こ、今度は何ですか…!?」
「これは……船が動いている…?」
「もしかして、これで戻れるのだろうか?」
私がそんな不安を抱えてアワアワしていると、そのタイミングで突如乗っていた船が揺れ出しました。しかし、そこで声に出しているマリアナさんとカスピアンさんの言葉を聞いて私は一度落ち着きます。
…二人の発言を聞くに、どうやら船が勝手に動き出してどこかに向けて進んでいるみたいです。ということは、これでこのエリアから出て元の場所に戻れる……ということですよね…!…多分!
「…ふぅ、なんとか戻れたみたいだね」
「ですね。いやぁ、疲れましたよ…」
「それには同感かな。まさか海の中を突き進むとは…」
そんなこんなで勝手に動き出した船に乗って静海の領域から元のエリアまで戻ってきた私たちでしたが、視界に映る夜空の星を眺めつつ私はそう呟きます。
何故なら、カスピアンさんも口にしている通り、ここに戻ってくるまでの道中ではなんと海の中を通ってきたのですよ…!とはいえ、息が出来なくて苦しくなる、と言ったことではないですが。
だとしても、疲れたのには違いありません。海の中を進んでいたので振り落とされるんじゃないかと心配しましたよ…!幸いにも、振り落とされた人がいなかったのには安心でしたけど。
「まあなんにせよ、元の場所まで戻ってきたんだ。このまま港町へ向かうよ?」
「わかりました、お願いします!」
「頼むよ。流石に疲れたからね」
とまあそういったわけで海の上まで戻ってきた私たちは、そう言ってカスピアンさんに船の操作は任せて港町を目指してもらうことにしました。
とりあえず、今日は街に戻り次第ログアウトとしますか。明日には学校もあるのですから、きちんと睡眠はとっておかないといけませんからね!
「…へぇ、あのシステムアナウンスは美幸のせいだったんだな」
「流石です、月白さん!まさか二体目のワールドモンスターを倒したとは…!」
あの後からは特に何かが起きることもなく港町まで戻ってきた私は、そこでログアウトをして現実世界に戻ってログアウトを済ませ、就寝としました。
…が、そんな静海との激戦があった日からすでに時間が経過しており、今の日付は次の日である火曜日のお昼となっています。そして今は、午前中の授業も終わって私の元までやってきた悠斗と早乙女さんに昨日の出来事を伝えたと言うわけです。
…それにしても、ワールドモンスターが倒されたことはやはり知っていたのですね?まあプレイヤー全員にシステムアナウンスが流れていたのですから、それも当然と言えますか。
「…しかし、これでやっと二体目か」
「確か、全部で七体いるのでしたっけ?」
「そうですね。二体を倒すことが出来たので、残りは五体ですよ」
早乙女さんの言葉にそう返した私でしたが、ワールドモンスターはまだまだ数はいるのですよね。
私は一応全てのワールドモンスターについて知ってはいますが、その全てがどこに潜んでいるかなどはわかっていません。なので、討伐を目指すとするならこの世界の攻略を続けつつ探す必要があるでしょう。
けど、ワールドモンスターの一人、"深森のアビシルヴァ"に関してはすでに潜んでいると思われる場所は把握しているため、そちらを優先するのが良いかもしれませんね。
とはいえ、深森がいるであろう森のエリアも奥深くに行く必要があるので、結局は時間がかかることに違いはありませんか。
そして、唯一私がその姿を確認したことのない一人、"機械神エクスゼロ"については、まず始めにその存在の情報を掴む必要がありそうです。まあ攻略を続けていればいずれは知ることが出来るはずですし、おいおいに、ですね。
「っと、そろそろ時間か。んじゃ、また帰りにな」
「月白さん、また後で、です!」
「はい、二人もまた後で」
そこからもワールドモンスターなどに関して会話を続けていると、お昼が終わる時間が近づいてきていました。そのため、悠斗と早乙女さんはそう言って自分の席へと戻っていきます。
さて、この後はまた授業があるのですから、しっかりと集中して取り組むとしますか!私たち学生の本分は学ぶことなんですし、気合いを入れて勉強しますよー!
「…なるほど、二体目のワールドモンスターを倒してきたのですか」
「はい、これで残りはルルリシアさんも含めた五体のみです」
そうして学校での授業も無事に終わらせて家に帰ってきた私だったのですが、帰ってきてやることを済ませた私はそこからゲーム世界へとやってきました。
そして今の会話からもわかるかもしれませんが、今は精霊都市にいるワールドモンスターの一人の精霊王、ルルリシアさんと対面して話しているというわけです。
…ルルリシアさんも言ってますし、学校でも悠斗が口にしていましたが……これでやっと二体目です。流石にワールドモンスターというだけはあって、そう簡単に倒し続けることは難しいみたいですね。
加えてワールドモンスターたちが潜んでいる場所についても探る必要性があるため、どうしても時間がかかってしまうのも仕方ないことと言えますか。
…いや、それでもまだ早い方なのかもしれませんね?だって、まだこのゲームがサービスを開始してからおそよ三ヶ月近くしか経っていないのです。であれば、その短期間で二体ものワールドモンスターを倒せたのはむしろ早いと言える可能性が大いにあります。
「やはりレアは頼りになりますね。この調子で、是非とも倒してもらってもよいですか?」
「もちろんですよ!それが私たちの役割なんですからねっ!」
そう言ってこれからもワールドモンスターを倒すことをお願いされましたが、当然そのお願いは引き受けますよ!
私たちプレイヤーの最終目的はワールドモンスターを全て倒して邪神を眠らせることなんですし、わざわざ頼まれなくてもやりますからね!なので、ルルリシアさんから頼まれなくても自ずとやっていたこと間違いなしです!
「…では、報告もこれで終わりなので、私はそろそろいきますね!」
「わかりました。私の準備はおそらく三体目のワールドモンスターを倒した頃くらいに済むので、その時に私のことも頼みます」
「はい、その時まで待たせてもらいます…!」
…ふむ、ということはワールドモンスターの一人であるルルリシアさんを倒すのについても、そう遠くないのかもしれませんね。
ルルリシアさん自身も己を倒してもらうのを目指しているみたいですし、その時までにこちらも覚悟を決めておかなくては…!
こうして対面しておしゃべりを行い、様々な情報を教えてくれたこの人を倒すのは少々……というかかなり辛いですが、いずれは倒さなくてはいけないので腹をくくるしかありませんね。
「…なんにせよ、倒すのはまだ先なのでそれまでに決意を固めるしかありませんか」
その後の私はルルリシアさんと別れ、お城代わりである大樹から精霊都市の街まで戻りつつそう呟きます。
…まあルルリシアさんと戦うことになるのはまだまだ先ではあるはずなので、その時までに心を決めておけば良いでしょう。それよりかは、今確認しておくべきことがありますね。
その確認すべきものとは、ワールドモンスターである静海のリーブトスを倒した報酬として渡されたアイテムについてです。
私がワールドクエストの報酬として貰ったものは、前に倒したことがある天災のゾムファレーズの時と同様に何かが書かれている本であるため、やはり私のもらえる報酬は本に限定されているのかもしれません。
まあそれについては特に困ることでもないのでいいとして、その本を【鑑定】してみた結果がこちらとなります。
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深海に沈む強欲の魔本 ランク S レア度 固有品
静海に秘められていた邪神の欲望と望みの記憶について書かれた魔法の本。とある言語で書かれているらしいが、今の人類には読み取ることは出来ないだろう。
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これを見るに、静海の討伐として手に入れたこの本も前に見たものと同じで邪神が深く関わってきているみたいでした。
天災と同様に、邪神の使徒というだけはあってその記憶が引き継がれているのに違いはないのですね?
「…何はともあれ、この本についても〈第四の時〉で読み取ればいいですよね!」
そう決めた私は、早速精霊都市の広場にていつもの双銃をインベントリから手元に取り出し、そのまま左手の短銃でその本に向けて〈第四の時〉を撃ち込みます。




