339話 欲するは貪欲なる静寂3
「…どうやら、ここからは近接戦闘がメインのようですね」
私はそんな無数の触手の先に生えている武器をチラリと見て思わずそう呟きますが、それも仕方ないと言えるでしょう。
何故なら、静海は先程の一瞬にて周囲に浮かんでいた無数の武器を取り込んだらしく、その身体から生えている触手の先に多数の武器が姿を現していたからです。
なので、私が口にした通りこの後の戦闘からはそれらの武器を活かされた戦闘になること間違いなしです。とはいえ、これは逆に戦いやすい可能性もありますけどね。
何せ、ついさっきまでは距離を取って武器を射出してくるスタイルだったのですから、今の状況なら逆に攻撃を加えやすくもなっています。
だとしても、敵の強さが落ちているわけではないので最大側の警戒をしておく必要は十分にありますが。
「…なんにせよ、近接スタイルならもってこいです!その命、刈り取らせてもらいます!」
「ガアアアッ!」
そう口にしながら動きを加速させる武技を自身に使用した私は、そのまま両手に持つ双銃を正面に構えて弾丸を乱射しながら肉薄していきます。
敵である静海も先程とは違ってあちらからも近づいてきているので、さっきまでと変わらずに私が回避盾としてタンクの役割をこなしますよ!そうすれば、少しはマリアナさんたちの攻撃も加えられますよね!
「グォオオッ!」
「ふふん、甘いです!私に当てるのならばもっと数を揃えて……って、本当に数が迫ってきてますー!?」
「何やってんのさ、レア…」
私は近づくなり飛んできた鋭い刃の生えて触手をゆらりとした動きで躱し、そのまま右手に持つ長銃を構えて弾丸を撃ち込みます。
が、そのタイミングであげた私の言葉に反応したのか、静海は私の言葉通りにまるで嵐の如く様々な武器が生えて触手を振るってきました。
た、確かに数を揃わなければ当たることも出来ないとは言いましたが、流石にそれをすぐさま実行してくるとは思いませんでしたよ…!?
というか、静海ってもしかしなくても私たちの言葉を理解しています…?言葉を発しこそしませんが、前にも戦った世喰などと同様にワールドモンスターなんですし、間違いなく理解しているのでしょうね。
なら、自分で撒いてしまった種なんですし、これはきちんと捌いて攻撃に移らなくては…!
「… 〈第七の時〉!けど、キツイことには変わりませんよ…!〈第二の時〉!」
そのため、私はすぐさま分身を生み出す武技を自身に使用した後、分身と共に加速した動きを存分に活かして次から次へと飛んでくる静海による攻撃を捌いていきます。
剣による袈裟斬りは姿勢をずらして避け、槍による刺突は短剣に変えた左手にて受け流し、斧による兜割はフェイントを混ぜた細かい足捌きで触手スレスレを通り過ぎていくことで回避します。
そんなこんなで、そこからも次々と放たれる攻撃をゆらゆらとした不規則な動きでその全てを避けていきますが、やはり相手はワールドモンスターだからなのか、結構ヒヤリとするタイミングが時々生まれているのですよね。
…とまあそういった感じで私目掛けて放たれる無数の攻撃を避けたり逸らしたりしつつ、タイミングを見計らって分身と一緒に双銃や細剣、短剣によって攻撃を加えていた私でしたが、あと少しで静海の二本目のHPゲージを削り切れるところまでいけています。あ、もちろんここにマリアナさんたちの攻撃も混じって、ですけどね!
…しかし、ここが正念場となることはこれまでの経験でわかっています。
私が以前倒したことのある"天災のゾムファレーズ"もそうでしたが、HPゲージがなくなったタイミングにてそれぞれが持つ特殊能力を発動させるので、HPゲージを削り切った瞬間が一番注意を向けておくべきところです…!
「皆さん、そろそろです!」
「あいよ!」
「了解した!」
「ガルルゥ、グラアアアッ!!」
そうして私が皆へと警戒を促して攻撃を加えた直後、静海の二本目のHPゲージが底をつき、ついに三本目のHPゲージへと突入します。
そして、そのタイミングで私たちが揃って警戒していた通りに静海が雄叫びをあげながら空中へと優雅に泳いでいき、おそらくは【領域解放】と思われる能力を発動させました。
すると次の瞬間、私たちが立っていた地面が激しく揺れたと思ったら、徐々に周りの壁や柱などが崩れ始めてどんどん今いるお城の最上部である空間が広がっていきます。
使用する能力が【領域解放】だと前に戦った天災との経験で予想は出来ていましたが、流石にフィールドがいきなり変わるとは思わなかったですよ…!?そうは言っても、地面が崩れていないのが唯一の救いですね。
もし地面まで崩れていたとしたら、今頃は瓦礫に飲まれて死んでいたのに違いはありませんからね。静海の能力を決めたと思われるゲームスタッフも、そこだけは感謝しておきます!
「…それにしても、前に戦った天災とは随分と違うのですね?」
私は今も発動されているらしき領域を見てそう感想を口にしますが、まあそのような感想を抱いてしまうのも当然のことでしょう。
だって、天災の場合は固有世界と呼ばれるところに引き込まれていたのですよ?であれば、今回の静海の動きを見ればそうも思ってしまいます。
まあここに来た時からすでに静海の領域だったので、それのせいではありそうですがね。
「っと、揺れが収まってきましたね」
そんなこんなで変化が完了したらしい領域内にて、揺れが収まったことを確認した私はすぐさま周囲の確認を始めます。
そして確認を始めた私の視界に即座に入ってきたのは、無数にある船の残骸や船そのものが至る所に確認出来る、まさに船の墓場とも呼べそうなほどの空間となっていました。
…見た感想として空間とは言っていますが、船で囲まれているくらいで壁や天井はないので少しだけ違う気がしなくもないですけどね。ま、ここが静海の領域なことに変わりはないはずです。
何故かというと、それを示すかのように先程まで空中を泳いでいた静海が地面の近くまで降りてきたため、この領域内における戦闘が始まるのだとわかったからです。
「…なら、ここからはもっと全力でいかないとですね…!すでに半ばまで来ているのですから、ここで負けるわけにはいきません!〈第一の時〉!」
「ガァアアッ!」
そう声に出して気合を入れ直した私は、再び動きを加速させる武技を自身に撃ち込んだ後に船の墓場とも言える真っ平らなフィールドを駆け抜け、そのまま静海に向けて接近していきます。
が、そのタイミングにて私の身体と周囲に前にも見たことのある、白い光が迸る現象が起こりました。しかも、それと同時に私の思考に一つのスキルの名前が浮かび上がります。
…なるほど、今ここで使え、ということですね。これは何者かに授けられたのか、はたまた自身の力で新たに獲得したスキルなのか。
理由は定かではありませんが、今の攻め込む状況にはピッタリではありますね。…なんとなく誘導されているみたいで少々尺ですが、ここでそれを使わせてもらいますか…!
「ふぅ……深淵より湧き出し時空の門よ、我が意志に従え」
私は〈第一の時〉によって加速した動きのまま静海に踏み込みつつ、同時に頭の中に浮かび上がったスキルを発動させるために詠唱を開始します。
「素は黒、反転するは終わりなき闇の過去。素は白、何者にも阻まれぬ光の未来」
「ガァアッ!」
「レアが作った隙だ、逃さないよ!はぁ!」
「今が攻め時だね!」
が、もちろんそんな私を静海が警戒しないはずがなく。そのうえ私自ら近づいてもいるのですから、意識を向けられるのは当然と言えます。
静海はそんな私に向けて身体中から生えている武器の姿を現している触手を連続して振るってきますが、私は一旦攻撃に移るのはやめ、回避に集中してそれらをフェイントを混ぜた不規則なステップを組み合わせて避け続けます。
そして、そんな私に警戒心が集中しているのを見てマリアナさんたちはそれぞれが自身に出来る限りの攻撃を静海へと喰らわしています。
詠唱をしているせいでタンクとしての役割は不安になっていましたが、とりあえずは問題なさそうに見えますね。私に静海の意識がハッキリと向けられているので、これはこれでいい動き……なのかもしれません。
「満ちる心の果ては顕現せし空想の刻…」
「グルアアッ!」
「ちっ、流石にこっちにも攻撃が…!」
「っと!ナイスだよ、レア!」
そんな詠唱を続けつつ静海の無数の攻撃をゆらゆらと避けていた私でしたが、攻撃を加えられている状況に煩わしくなったのか、静海はマリアナさんたちをも狙い始めます。
しかし、当然それを私が見過ごすはずがありません!今の私は詠唱をしていますが、タンクの役割を担っているのです。であれば、そんな攻撃を許しはしませんよ…!
なので、私は攻撃を避け続けながら両手に双銃を構えてマリアナさんたち狙いの多数の触手を撃ち抜いていきます。
すると、マリアナさんたちからの感謝を返されますが、それをするのなら攻撃を頼みます!とはいえ、次で詠唱も完了するみたいですし、これが終わり次第私も攻撃に移らせてもらいますが…!
「想いの力で世界に謳え!〈領域解放・時駆ける少女〉ッ!」
そうして詠唱を完了させて一つのスキル……【領域解放】を発動させた私でしたが、それが発動した次の瞬間。私を中心とした直径60mの範囲内が一気に白い光で覆われていき、さらにはそれによって私の【領域解放】スキルの持つ効果が感覚でわかりました。
どうやら、私の【領域解放】スキルは自分がその中にいる限り、与えるバフ・デバフ効果が二重に発動するようになり、自身が受けるデバフを無効化するという二つの効果を持つみたいです。
要するに、私のユニークスキルをさらに強化してくれるスキル、というわけですね。
これがあれば、私の使えるもう一つの切り札の【心力解放】スキルとはまた別の強化手段になるため、新たに覚えることが出来たのは嬉しくなってしまいます!




