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279話 傀儡の魔女

「それにしても、こんな辺鄙なとこに人が来るとは思わなかったゼ。お前らはなんの目的でここに来たんダ?」


 ぬいぐるみを操っているらしい女性は私たちに向けてそう問いかけてきますが、特にこれといった目的はなかったのですよね。


 強いていうなら、単に魔力の反応があったので辿ってきたらここを見つけたって感じですし、ここに来た深い理由などはありません。なので、目的を聞かれても答えることはできないのです。


 隠すことでもないので私はぬいぐるみを操作している女性へとそう返すと、女性は一瞬だけ驚いたような表情を兎のぬいぐるみにさせたと思ったら、何やらケラケラと笑い出しました。


「はっはっハ!まさか理由もなしでここに来たとはナ!」

「むぅ、何故笑うのですか?」


 私はその反応にそう返してしまいましたが、それも当然のことです。何故なら、プレイヤーとしては普通な行動ですからね。なので特に面白い要素もなかったとは思いますけど……今も笑っているところを見るに、この人の琴線に触れねしまったようですね?


 まあ何となくではありますが、馬鹿にしているわけでも見下しているわけでもなく、単に私たちに対して興味が湧いてきて感情が昂った、という風に見えますし、これであっているとは思いますが…


「くくクッ、いやぁ、悪い悪イ。まさかそれで来たとは思わなかったからナ。しかも魔力を辿ってきたということは、あの結界もスルーしたってことだロ?ますます面白いやつらだナ!お前ラ、名前ハ?」


 …色々と聞きたいことはありますけど、まずは自己紹介をしないとですね。お互いにまだ名乗っていませんでしたし、名前を聞かれたのですからキチンと答えますよ!別に隠さなくてはいけない理由もないですしね!


「私はレアと申します。で、こちらの女性が…」

「アリスと言うのです!」


 女性は笑いを抑えた後にそのように聞いてきたので、私たちは各々で女性に向けて自己紹介を済ませます。別に名乗るのがダメでもないですし、ここは教えるべきですからね。名前を知らなくてはお互いに呼ぶ時に困るので!


「でハ、オレ様も自己紹介といこうカ。オレ様はホフマン。グリム幻想国の童話騎士の一人であリ、【傀儡の魔女】でもあル。よろしくな、お前ラ?」

「魔女……なのです?」

「あ、アリスさんは知りませんでしたか。ならすごく簡単に説明すると、遥か昔に活躍していた魔法使いの女性の呼称、っといった感じですね」


 そう言って女性、もとい【傀儡の魔女】であるホフマンさんは自己紹介をしてくれましたが、それに疑問符を浮かべていたアリスさんに私はそのように魔女について教えました。アリスさんは知らなかったですようですが、まあ普通は知りあることがないので仕方ありませんか。


 そもそも、私もその自己紹介の言葉で聞きたいことがさらに増えてしまいましたしね。まさか、ホフマンさんもグリム幻想国とやらの童話騎士という存在だとは思いませんでしたので。


 国に関してはまだ行ったことも見たことがないので一度置いておきますが、童話騎士と自ら名乗っていますし、前にシスター服の時に出会ったメイジーさんと同じ立場の人物のようですね…?加えて、魔女でもあるらしいので【清流の魔女】と呼ばれているヴァーテルさんと同じ立場であるともわかります。


 つまり、この人はこの人で何か目的があってここにアトリエを構えていた、ということでしょうか?どう考えても、そうでなくてはこんな人が一切いない場所にお店を立てるはずがありませんしね。


「ほウ、そっちの白髪の少女はオレたちについて詳しいみたいだナ?」

「本で調べましたからね。ソロさんの図書館にはそういったものが置いてあったので」


 そうは言っても、私が知っていることが魔女の全てではないとは思いますが、それでも魔女の一人であるホフマンさんの言葉からすると、そこまで違ってはいなさそうです。何せ本人がそう言っているのですからね。


 …少しだけあの本の知識はあっているのかは不安になっていましたが、これなら大丈夫そうです…!まあソロさんの図書館にあった本なんですし、そこまで心配する必要がないように思えますが、どうしてもそう思ってしまうのは仕方ないのですよ…!


「ふム、ソロといえばあの若造カ。確かに、あいつならある程度の情報を知っていてもおかしくない、カ」

「むむ、ホフマンさんはソロさんのことを知っているのですか?」

「まあナ。これでも長くは生きているしナ」


 ソロさんはあの姿的にかなりの歳を召しているようには見えますが、それを若造と言うことは、ホフマンさんはもしかしなくてもかなりの年月を生きているみたいですね…?


 ぬいぐるみ越しなのでホフマンの姿はわからないですけど、声的には若そうに見えるのでホフマンさんは寿命が長い種族……とか?例えばエルフなんかはこの世界においても長命のようなので、もしかするとそういった種族なのかもしれませんね?人間の可能性もなくはないですが、流石にあり得ないとは思えるので。


「それについてはいいとしテ、ここに店を開いて初めての客なんダ。よかったら見ていかないカ?」

「…まあ、こんな森の中ではお客さんは来ませんよね。なら、軽く見てみますか。アリスさんもいいですか?」

「私も賛成なのです!ここは魔女と呼ばれる人のお店なんですし、きっとすごいものが置かれていそうですよね!」


 ホフマンさんからも提案されたのですから、ここのお店の中は見せてもらうとしますか!アリスさんも賛同してくれましたし、ひとまずエリアの攻略はやめてお店を見て回りましょう! 


 さて、ここのお店はどういった物があるのですかね?一応中に入ってすぐの時に様々な薬や謎のアイテムなどを見かけましたが、どういった物なのかはまだ見てないので少しだけワクワクしてしまいます…!


 それにアリスさんも言っていた通り、このお店は【傀儡の魔女】と呼ばれているホフマンさんが開いているのですから、きっと何かしら気になるものはあるはずです!


「…ふむふむ、やっぱり魔法薬が主な商品なのですね」

「これでも魔女だからナ。それが普通だロ」

「確かに、それもそうですね」


 私は置かれている一つのポーションを手に取ってそう呟きましたが、そこにカウンターの上にいたホフマンさんからそのように返されました。


 しかし、やはり魔女という人物は皆がこうした魔法薬作りの腕前があるのでしょうか?前にも出会ったヴァーテルさんさんもそうでしたし、これが【九星魔女】の基本、とか?…そうすると、魔女が遥か昔に活躍していたのにも頷けます。このような生産も出来るのなら、大いに力になったでしょうしね。


「魔女の皆さんは全員がこうしたことが出来るのです?」

「んにゃ、全員が全員魔法薬作りが出来たわけではないゾ。まあオレ様もこの【傀儡の魔女】という称号は受け継いだ者だから昔のことは知らんガ、今の魔女たちはそれぞれが違う生産を得意としてたゼ。例えば、鍛冶だったり木工だったりナ」


 アリスさんからの質問を受けて淡々とそう返してきたホフマンさんでしたが、結構気になることを口にしていましたね?魔女の全員が魔法薬作りを出来ないのもそうですが、一番はホフマンさんが【傀儡の魔女】という称号を受け継いだというところです。


 確かに、【九星魔女】と呼ばれる人たちが活躍したのは遥か昔とのことでしたが、まさか襲名制とは思わなかったですよ…!ということは、他の魔女の人たちも皆がホフマンさんと同じような状況、なのかもしれませんね。つまり、ヴァーテルさんもそうなのでしょうか?まあ別にそれで何かが変わる訳ではないですし、別に気にしなくてもいいのかもしれませんけど。


 しかし、なるほど。魔女の皆がポーション作りなどが得意というわけではないのですね。それにしたって鍛冶や木工は意外としか言えませんが、まあ人それぞれですしね。突っ込むのも野暮というものですか。


「…そういえば気になっていたのですが、ホフマンさんは何故こんなところでお店を開いているのですか?」


 そんな商品たちを手に取って確認しながらお店の中を色々と見物をしていた私でしたが、そのタイミングでふと気になったことが出来たので私はホフマンさんに向けてそのように問いかけます。


 先程も思いましたが、ホフマンさんは何か目的があってここにアトリエを構えていたと思えるので、その理由がふと気になってしまったのですよ。普通にお店を開くのならばこんな森の奥で行うわけがないのですから、一体どんな理由でここにこのログハウスを建てたのでしょうか?


「あ、それは私も気になっていたのです!どう考えてもこんなところにお客さんはこないですよね?」

「あア、それはとても簡単で、単にとある目的のためにここにオレ様が拠点を構えタ、ってだけだナ」


 ふむふむ、やはりなんらかの理由があってここにお店を開いたのですか。しかし、とある目的、と…?うーん、こんなところに拠点を構えているということは、それだけ重要な目的なのでしょうか?


 流石にその言葉だけでは予想すらつきませんし、一体どのような目的なのか……私、気になります!アリスさんも気になっている様子ですし、よければ教えて欲しいです…!あ、でも教えるのが無理なのならば構いませんけどね!


「…知りたいようだから伝えるガ、他言無用で頼むゾ?…その目的とは、この地に潜んでいるという邪悪なる欠片でナ。オレ様はそれの調査をするためにここでついでとして店という体で拠点を建てたってわけダ」


 私とアリスさんからの期待を込めた視線を受けたからか、ホフマンさんは器用に兎のぬいぐるみの顔に苦笑を浮かばせた後、そのようにその目的について教えてくれました。


 なるほど、この地にいる邪悪なる欠片の調査のためでしたか。それならここに拠点を構えての行動には納得が出来ますが、まさかこの森の中に邪悪なる欠片がいるとは思いませんでしたよ…!そうすると、私たちが呑気に森の中を歩いていた最中にも何かしらの危険があった、ということですか…!?


 流石にそれは予想外でしたけど、そんな理由があるからこそ、ここにホフマンさんがいた、というわけですか。…まあホフマンさんも本体ではなくぬいぐるみ越しではありますが、それでも実力はあるので大丈夫なのかもしれませんね。

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