278話 謎のぬいぐるみ
「…それにしても、こんな森の中に建物があるのですね?」
「ここまでに見つけた魔力反応を追いかけていると着いたのですし、物語でも定番である魔法使いが住んでいる家、とかじゃないですか?」
「確かに!ファンタジー系のゲームではお約束ですもんね!」
私とアリスさんはついさっき見つけたばかりであるログハウスの入り口に立ちながらそう言葉を交わしますが、アリスさんさんもそういった知識はあるのですね?
なんとなくアリスさんはゲームには詳しくなさそうとは思っていましたが、別にそのようなことはないみたいです。まあそれはいいとして、今はこのログハウスについてですね!
外から見た限りでは、ファンタジーで良くあるような焦茶色の木材で作られている見た目をしていますが、その他にもログハウスの至る所から魔力の反応を感じるので、これを見るに魔法的な何かも組み込まれているのだとは想像がつきます。私がさっき口にした通り、やはりこの建物には魔法使いが住んでたりするのですかね?
というか、そもそもこんな森の中にログハウスがあるのかが一番の謎ですけど、それについては何故でしょうか?普通に暮らすのならば街の方が過ごしやすいはずですし……もしかすると、このログハウスの持ち主も前に出会った【清流の魔女】と呼ばれているヴァーテルさんと同じように人目を気にしてここに家を立てた、とか…?
まあ単なる想像でしかないのですし、これが当たっているかはわかりませんがね。別に私は探偵でもないので!
「すみませーん、誰かいますかー?」
「ちょっ、アリスさん!?」
私がそのような思考を巡らせていると、いつのまにかログハウスの扉付近に近づいてノックをしながらアリスさんがあげた声を聞き、私はギョッとしながらそんな声を漏らしてしまいました。ですが、それも仕方ありません!
明らかに単なる家ではないのですから、普通にノックしても反応が返ってくるわけがないじゃないですか!それに、このログハウスにいるのがどういった人物がいるのかもわかっていないのですし、そう気軽な行動を避けて欲しいのですよ…!
もし何かが起きてからでは遅いのですし、もう少し警戒は強めてほしかったです…!まあすでに行動に移った後なので、何があってもいいように私が警戒をしておきます!
「…うーん、反応が返って来ませんね?」
「当たり前じゃないですか!それよりもアリスさん、軽率な動きは控えてください!」
「あ、すみません、レアさん」
そんなアリスさんのとった行動は、結局なんの反応も返ってこないという結果になったみたいです。とりあえずは何も起きなかったのでよかったですけど、流石に少しだけヒヤリとしましたよ…!
まさかアリスさんがあんなことをするとは思わなかったですし、少しだけ意外でしたね。これまでに一緒に行動をしてきた経験的に、アリスさんはもう少し大人しい人だと思っていたのですが、それは間違いだったのでしょうか?
まあこんな建物を目の前にして興奮してしまってそんな行動をした、という可能性もありますが。アリスさんはログハウスを見るのは初めてのようなので、おそらくはそれのせいかもしれませんね。私も初めてゲーム内で見た時はワクワクしましたし、それと同じ、ですかね?
「あ、レアさん!鍵はかかっていないみたいですよ!」
「…アリスさん、人の話聞いてましたか?」
私がそんな思考に没頭していると、再びアリスさんが軽率な行動を取りました。考えごとに夢中になっていた私が悪いとはいえ、そんな軽率な動きはやめてほしいのですが…?別にここはゲーム世界なので現実になんらかの影響が出ることはないとはいえ、警戒を怠るのは危険なんですけどっ!
…なんというか、今日のアリスさんは少しだけ興奮気味ですね?いつもよりも警戒心が弱いうえに注意力が散漫しているようにも感じれますし、やはりログハウスを見て気持ちが昂っているのかもしれませんね。
「レアさんレアさん、入ってみませんか!?」
「…うーむ、確かに気になりますが、人様の家と思われる場所に勝手に入るのはどうなんでしょうか?」
「うっ、それを言われるとダメな気がするのです…!」
私たちにとってこの世界はゲームとはいえ、NPCである住人たちはこの世界で生きているのですし、勝手に家に入るなどの行動をすれば好感度が落ちること間違い無いので少しだけ気が引けますが……いえ、ここはログハウスの調査として行ってみますか。
もし怒られたのならその時に謝ればいいですし、こんな特殊なエリアらしき場所を見つけたのに探索しないのはプレイヤーとして見ると勿体無いのですから、ここはアリスさんの意思を汲んで中に入るとしましょうか!…まあ何かあればすぐに逃げますが、中に入らなくては何も起きないですしね。
「…いえ、そうですね。ここは中に入って散策でもしてみますか」
「いいのです?」
「こんなところで突っ立っていてもここがどういった場所なのかはわからないのですし、これでは仕方ないですからね」
それに、特殊そうなログハウスを見つけたのにその手前で帰るなんて、流石にプレイヤーとしてはありえないですからね。加えてアリスさんもそうですが、私だってこれでも気になっているのですよ?明らかに単なる家ではないのですから、好奇心が刺激されるので!
まあ人様の家に勝手に入るのはアレかもしれませんが、一応私は……というかアリスさんがノックはしたのですから、コソコソと入るわけではないのです!…とは言っても、怒られたら素直に謝りはしますが。だって、不法侵入と変わりはないのですしね。
「よし、では行きますよ、レアさん!」
「ふふ、そうですね」
そうして私とアリスさんはそれぞれが"お邪魔します!"と口にしながらログハウスの内部へと足を踏み入れましたが、どうやらこの建物はただのログハウスではないようで、こぢんまりとしたお店のような内装をしているようでした。
…この様子を見る限り、どうやら今はここの店主はいなさそうですね?それに加えて、ここはただの家ではなくお店だったみたいです。なら、不法侵入という訳でない、ということでもありますね。…まあそれはともかくとして、お店と思われるこのログハウスの奥の空間には魔女が使うかのような大釜や調薬道具、錬金セットやぬいぐるみなどが置かれているみたいです。そしてカウンターの手前側には、様々な薬や謎のアイテムらしきものが多数陳列されている部屋となっており、まさに魔法薬のお店と呼ぶに相応しい空間のようになっていました。
この部屋に置かれている道具的に、このログハウスのようなお店を開いているのは予想通り魔法使いなのかもしれませんね…!ここが魔法使いの家だという予想は外れたみたいですが、そちらの予想は当たっていそうです…!そのうえ大釜まで存在していますが、まさかアレを使って何かを作ったりするのですかね?なんというか、随分と古風な人なのですね…?
「お、ここに人が来るなんテ、珍しいナ」
そんな空間を見渡していた私とアリスさんでしたが、そのタイミングで突如幼なげな女の子らしき人の声が空間内に響き渡ります。
それを聞いて私たちは即座に警戒を強めて声のした方に視線を向けると、カウンターの上であるそこには全長30cmくらいの兎のぬいぐるみが二本足で立ち、こちらへと視線を返してきていました。…いきなり聞こえて来た声の方角的に、おそらくはこの兎のぬいぐるみが喋った……のですよね?
「ぬいぐるみ、なのです…?」
「可愛い…!」
そのぬいぐるみを見て、アリスさんと私は思わずそう声に漏らしてしまいましたが、それは仕方ないのですよ!だってあんな小さな足で頑張って立っているようにも見えるため、その姿が可愛くないわけがありません!
アリスさん的にはぬいぐるみなどは自身のユニークスキルもあってか見慣れているのかもしれませんが、私はアリスさんとは違ってぬいぐるみなどは集めていないので、こうして喋ったりするのを見るのはとても新鮮です!…まあそれはアリスさんも同じかもしれませんが。アリスさんだって喋らせたりするのは出来ませんからね。
っと、それはいいとして、今の状況的にこのぬいぐるみが喋ったのは間違いなさそうですね?ぬいぐるみなのに動いて喋るということは、ゴーレムか、はたまた本物の兎なのか……いえ、見た目は完全にぬいぐるみの姿ですし、それは違うはずですけど……流石に見ただけではわかりませんか。
だとしても、明らかにただのぬいぐるみではなさそうですし、一体誰なのでしょうか?ぬいぐるみの姿をして喋っていますし、そういった種族……だったり?私は種族には詳しくありませんが、そんな種族もいるのでしょうか?
「驚いているところ悪いガ、オレ様は遠くからこのぬいぐるみを操っているだけだゼ」
「つまり、本体は別にあると?」
「そんなところダ」
私とアリスさんが兎のぬいぐるみを見て困惑していると、兎のぬいぐるみはその反応がわかっていたのか、そう口にして自身のことを教えてくれました。ふむふむ、つまりアリスさんと似たようなユニークスキル持ち、というのが正解のようでしたか。そして、このぬいぐるみは遠隔操作で動かしている、と。なら、この人がこのアトリエらしきログハウスの持ち主で間違いなさそうですね。
現にこうしてこのログハウス内の部屋にいましたし、この予想が間違っていることはないとは思います。しかし、すでに家に主人がいるとすると、勝手に入ったのはダメでしたね。いえ、いなくても入るのはダメですが、気分の問題がですね。
っと、それはともかくとして、このぬいぐるみからはかなりの力強さを感じますし、強さに関しても私たち以上でもありそうです。…可愛い見た目なのにそんな強さを持っているなんて、なんて罪深いのでしょう…!
…とりあえず、敵意はありませんし武器は出さなくていいですね。出したままでは危ないですし、敵でもないのに武器を向ける趣味は私にはないので!そのうえここはお店のようですし、危険もなさそうですよね!




