280話 邪悪なる欠片
「…まさか、邪悪なる欠片が森の中にいるとは思わなかったのです…!」
「私も同じです。呑気に探索をしている場合ではなかったみたいですね」
「ま、これまでの調査でもまだそれを見かけはしてないかラ、そう警戒を強めなくても大丈夫だとは思うゾ?」
ホフマンさんから教えられたその情報を聞き、私たちは二人して真剣そうな表情を浮かべてしまいましたが、当人であるホフマンさんはカラカラと笑いながらそう声に出しています。
警戒を強めなくても良いとは言ってますが、どう考えてもそれを聞いてリラックスなんて出来ませんよ…!?ホフマンさんはその存在を見つけてはいないみたいですが、それでも、です!なにせ、この世界は決まったストーリーのように進んでいる訳ではないのですし、いつそれが襲ってくるかもわからないのですからね!
「これでオレ様の目的は伝えたシ、そろそろお前たちはここから去るといイ。この森は危険なんだからナ」
ホフマンさんはそう言って私たちを帰そうとしてきますが、流石にそれを聞いてはいさよなら、とはいきませんよ…!ホフマンさんの実力はかなりなものだとはわかりますが、それでも敵は邪神に関する存在なんですし、少しでも力になれるように私たちも参加した方が良いはずです…!
確かに、私とアリスさんでは力不足なのかもしれませんけど、そうだとしてもこの状況でさっさと去るわけにはいきません!味方となる数は一人よりも二人、二人よりも三人と数が多くなれば心強くなるのですしね!なので、それを聞いても力添えはさせてもらいます…!
「いえ、私たちに出来ることはお手伝いしますよ!」
「私も同じなのです!流石にそれを聞いたのに逃げるわけにはいかないのですよ!」
「…うーム、これは失言だったカ?」
ふんすと気合いを入れてホフマンさんに向けて声をあげた私たちを見て、兎のぬいぐるみの竿顔に少しだけ苦笑を漏らしつつホフマンさんはそのように呟いています。
ホフマンさんのような人からすれば、危ないから逃げて欲しいのかもしれませんが、私たちはこれでもプレイヤー…もとい異邦人なんですよ?それなら、多少の危険は承知の上です!
それに、こんな特殊なイベントを見逃すのもあり得ませんし、このまま放置しておくのも危険だと思えますからね!未だにその存在のいる場所といった情報は集められていないようですけど、何かあってからでは遅いので!…まあ今のところは何も被害などは出ていないようですけど、それでも警戒をするのは間違ってはいないはずです…!
「はぁ、仕方ないカ。なら、お前たちは自分のことを第一に考えろヨ?オレ様が守り切れるかはわからないからナ」
「わかってますよ!こちらは任せてください!」
「足は引っ張らないようにするのです!」
私とアリスさんの言葉を聞いてホフマンさんは一応納得したのか、兎のぬいぐるみの首を縦に振って私たちが協力するのを認めてくれました。
よし、これで私たちも参加出来ますし、きちんと働いてホフマンの手助けになれるよう頑張りましょう!まあホフマンさんは自分のことを第一に考えろと言ってますが、何かピンチがあった場合はそれは破るかもしれませんが…!
だって、私たちはこの世界においては死んでも生き返ることが出来ますけど、ホフマンさんは死んだらそれっきりなのですから、どう考えても一番優先するのはホフマンさんですからね!そうは言っても基本的にはホフマンからの指示を守りはしますが、もしもの時は動かせてもらいます…!
「よし、では早速調査に行きますか!」
「なのです!頑張りますよー!」
「あー、お前らだけではなんとなく心配だシ、オレ様もついて行くカ」
私とアリスさんはそう口にしながら気合を入れて外に出ると、何やらホフマンさんもそのように言葉にしながら私たちの後を追うように外へ出てきました。
私たちのことを心配しているみたいですけど、そんなに頼りないのでしょうか…?これでも私たちはそれなりの実力はあるはずですが、ホフマンさんから見るとそれでも足りない、ということですかね?
…いえ、ホフマンさんの様子を見る限りはそれだけではなさそうです。多分、私たちの見た目が幼なげな少女であり、尚且つ二人だけなので心配になった、とかもありそうです。…うーむ、別に私たちだってこの森を攻略出来るくらいには腕前があるとは思うのですけど、流石にそれを見ていないホフマンさんではそう思うのも仕方ない……のかもしれませんね?
なんにせよ、私たちの調査にホフマンさんも着いてくるとのことなので、今回は一緒に行動をするとしますか。なら、ちょうどいいのでこの森の調査はどこまで進んでいるのかも聞いてみましょう。すでに調べたところに向かっても意味がないのですからね!
「ホフマンさん、調査はどこまで進んでいるのですか?」
「あア、それは…」
私の投げかけた疑問に対してホフマンさんが答えようとした瞬間、突如激しい音と共に地面が大きく揺れ、私たちは思わずタタラを踏んでしまいました。
い、一体何事ですか…!?いきなり地面が揺れたうえに激しい音が私たちの耳まで届きましたけど……何かが起きたのですかね…?…この森にはこのようなことを起こせるモンスターもいなかったはずですし、もしかしてホフマンさんの狙いである邪悪なる欠片、とか…?
私はそのモンスターの姿形はわからないのでなんともいえませんが、この予想は当たっている気はします…!そうでなくてはこのようなことを起こすのは不可能だと思いますし、邪神が関わっているのならここまでの現象も当然だと思えるので!
「…どうやら、オレ様が探していた邪悪なる欠片が現れたみたいだナ」
むむ、ホフマンさんは先程の揺れと音の発生した理由がわかるのですか?私もそうだとは思ってましたけど、何故そう断言できるのでしょうか?ホフマンさんは遠隔からこのぬいぐるみを操作しているとはいえ、流石に本体が近くにいる訳ではないですよね…?
ですが、自信満々に言っている様子からしてそれは正しいのでしょうね。ということは、それを知ることが出来る何かがある、ということでもありそうです…!
「あれ、わかるのです?」
「あア、周囲には監視用の結界を張っていたかラ、それでナ。それにしても、お前らがここに来たタイミングで見つかるとハ、偶然にしては出来すぎているナ?」
アリスさんも私と同じような疑問を抱いたのかそう聞いていますが、どうやら先程私が思った通り知るための何かがあったみたいです。
そしてその何かとは、結界だったみたいです。ホフマンさんは自分のことを魔女と言っていたのですから、そういったものはお手の物なのかもしれませんね?…そういえば、ホフマンさんと会った時に"あの結界をスルーした"とも言ってましたし、最初から答えが出てましたか。
しかし、ホフマンさんはこのタイミングの良さを見て私たちを疑うかのように声に出していますが、本当に私たちは知りませんよ…!?ここに来たのは偶然ですし、何かをしたわけでもないですからね!加えて、もし私たちのせいだとするなら、何かはしているはずなので…!
「…そう言われても、私たちは何もしてませんよ…?」
「あア、責めてるわけではないゾ?むしろ感謝してるくらいだゼ。なにせ、オレ様の調査では未だに見つけられてなかったしナ」
ホフマンさんはカラカラと笑いながら疑っているわけではないと伝えてくれましたが、まさか逆に感謝をされるとは思いませんでした…!
普通に考えて、私たちと同時にいきなり狙っていたらしい邪悪なる欠片が現れたのですから、疑うのが当然ですからね。それなのにも関わらずホフマンさんは私たちへと感謝を伝えてきたのですし、やはりこの人は優しい人みたいですね…!私たちのことを一番に思ってくれているみたいでもあるので、この人の手助けを出来るよう頑張らないと…!
ひとまず、今はホフマンさんが見つけたという邪悪なる欠片の方に意識を向けるとしますか。このまま放置していても意味がないうえ、早めに倒さなくては被害が出る可能性もありますしね!
「しかシ、なんダ。タイミングがいいのも確かなんだシ、ちょうどいいからここで倒すカ。それト、これは邪魔だから一旦仕舞っておくとしテ…」
「わっ、突然消えたのです!」
「もしかして、それも何かのスキルですか?」
現れたらしい邪悪なる欠片に向けて私が気合を入れ直していると、そのタイミングで突如ホフマンさんが先程まで私たちがいたログハウスを綺麗さっぱり跡も残らずに消し去りました。
ですが、そんなホフマンさんの手……というよりも、兎のぬいぐるみの短い腕に先程のログハウスと同じ形をしたフィギュアらしきものを持っているので、おそらくはなんらかのスキルで家を小さくしたのかもしれません。
いきなり家が消えたのですし、どこからどう見てもホフマンさんの仕業だとわかりますからね。そのうえこの家はホフマンさんが建てたと言っていたので、それにちなんだスキルだと私は推測します…!
「そうダ。オレ様のユニークスキルで一時的に家を仕舞えるようにしたんダ。さて、では片付けも済んだシ、討伐に向かうゾ」
「あ、わかりました!」
「私もお供するのです!」
そう言ってホフマンさんは先程から激しい音がする方向へと足を動かし出したので、私とアリスさんもそれに遅れないように着いていきます。
…それにしても、ホフマンさんのユニークスキルはそのようなことも出来るのですか。私の予想ではアリスさんと似たようなユニークスキルなのかもとは思っていましたが、もしかすると違ったりするのでしょうか?ぬいぐるみを操作しているのでそうかと思ってましたが、一体どんなスキルなのでしょうね?
まあホフマンさんのスキルについては気にしてもわからないのですから置いておくとして、今はまず邪悪なる欠片の相手をしなくては…!このモンスターはホフマンさんがしていた調査の目的らしいですが、はてさて、どんなモンスターなのか…




