267話 肉塊
「うおっ、これは…」
「うぷっ…」
警戒心を最大まで強めながら一番奥にあった部屋へと扉を開けて足を踏み入れた私たちでしたが、入るや否や広がっていた公開を見て私は思わず吐き気を覚えてしまいました。
ですが、それも仕方ないのです!何故かというと、この広々とした空間の一番奥に縛り上げられている巨大な肉塊の全身から無数に生えている瘤が破裂したと思ったら、そこから人くらいはありそうなほど大きい様々な姿形をしたモンスターが生まれているからです。
しかも、そんな瘤は破裂しても次から次へと新しいのが生えてきているため、その見た目からもかなりの気持ち悪さが伺えます。そのうえ次々と生まれたモンスターたちはそのまま周りにいた他のモンスターと争うように攻撃をして喰らいあってもおり、まさにこの世の地獄とでも言わんばかりの光景がこの空間内には広がっていました。
…私、グロいのは別に苦手ではありませんが、流石にこれには吐き気を覚えてしまいますよ…!なんですかこれ!?明らかにヤバすぎませんか…!?次々と瘤から生まれているモンスターもそうですけど、一番は無数の瘤が生えている肉塊についてです。
あの肉塊、明らかにただのモンスターではないですよね…?ここにいるのもそうですけど、行っていることが普通のモンスターとしては有り得ないですし、あの肉塊はここに囚われている何か……ですかね?このエリアは名前からするに監獄とのことですし、尚且つ一番奥にてしっかりと閉じ込められていた存在でもあるのですから、これは起こしてはいけなさそうだと推測出来ます。…なら、ここは気づかれないうちに逃げるのが得策でしょうか…?
「お姉さんとお兄さん、聞こえてますか?」
「聞こえていたら、反応を返してくれますか?」
「誰だっ!」
そう考えた私と兄様は直ちに扉をそっと開けて外に出て一息ついたのですが、そのタイミングで私たちに向けて唐突に二人の少年と少女らしき声がかけられました。
その声がした背後へと兄様の声と共に同時に視線を向けると、そこには黒髪の少年と白髪の少女の二人がこちらへと視線を向けながら、心配そうに見つめてきているところでした。
…この二人、何者でしょうか?先程までは私の感知系のスキルにも反応が一切なかったですし、突如現れたこの二人は明らかに只者ではないと確信が持てます。…もしかして、私たち狙いである暗殺者、とかですかね?姿からは子供のように見えますが、そう思ってしまうほどにはこの二人を強く警戒してしまうのは仕方ありません。別に敵意や殺意などは特に感じませんが、それでも、です!
知らない人を初対面で信じることが出来ないのは人として当然ですし、私の横にいる兄様だって警戒心を露わにしているのですから、これが普通ですよね?ともかく、この二人組は誰かを聞いてみますか。おそらくは敵ではなさそうですけど、名前を聞かなくては警戒心は解けないので!
「…貴方たちは誰ですか?」
「僕と」
「私は」
「「十二星座の一人、ジェミニ。よろしくね、二人とも?」」
続いての私の問答に対してそう答えてくれた少年と少女でしたが、なんとこの二人の正体は暗殺者ではなく十二星座の一人だったみたいです。名前からして、双子座ですね?なるほど、それでそのポジションに二人もいるのですか。
それにしても、こんなところに現れるなんて、もしかして何か私たちに用があって来たのでしょうか?あ、もしかして先程のモンスターについてですかね?それならわざわざ私たちの前に現れたのには理解出来ますし、それかもしれませんね。まあとりあえず、素直に聞けばいいですか。別に隠しているわけでもなさそうなので。
「ジェミニさん、ですね。いったい私たちに何のようですか?」
「それはね」
「そこにいる存在を」
「「倒して欲しくて頼みに来たの」」
少年と少女の二人は私たちへとそう述べてきましたが、やはり私の予想通り先程のモンスターに関してのようでした。しかし、それを倒してほしいと言ってますけど、あれは一体何なのでしょうか?いえ、別に倒すのが嫌でも頼みを断るわけでもないのですけど、そんな疑問が湧いてしまうのは仕方ないのです。
明らかにあれはただのモンスターではなさそうですし、どう見てもここに封じられていた存在だとも予測がつきます。そのため、そう易々とその頼みを受けるわけにはいかないのですよね。何も考えずにそのお願いを受け、討伐に行って逆にやられてしまっては元も子もないので!
「…あれは、一体何なのですか?」
「あれはね」
「遥か昔に」
「邪神によって生み出された」
「邪悪なる欠片と呼べる」
「「モンスターなの」」
「そしてここは」
「それを封じるために」
「「神に作られた箱庭とも呼べるものでもあるよ。そして私たちは、ここを管理する者でもあるんだ」」
二人が互いに喋っているせいで少しだけ聞き取りづらいですが、とりあえず聞けた内容によると先程のモンスターは邪神によって生み出された生命体だったみたいです。そしてこの監獄に対しても教えてくれましたが、そちらに関しては神によってその存在を封じるための場所でもあったみたいであり、二人はそこの管理者とのことでした。
ふむ、おそらくはあのモンスターが凶悪すぎたのでここに封じている、ということですかね?まあそう思うくらいにはあのモンスターはやばそうに見えましたし、それも納得です。加えてここのエリア名には"ジェミニ"とも付いていましたし、それが二人が管理する証でもあったのかもしれませんね。
というか、そんなモンスターの相手を私たちに頼んでいるみたいですけど、流石に私たちだけでは無理じゃないですか…?神がここに封じるくらいですし、どう考えてもそれを倒すのは難しそうですけど…
「ああ、ここに封じられている原因は」
「単にその生命力が強すぎて倒し切ることが出来なかっただけだから」
「「そこまで心配しなくても大丈夫だよ?」」
「…顔に出てましたか?」
「「うん、それはもうありありと」」
そのように思考をしていた私の考えが顔に出ていたのか、そう声をかけてきたジェミニさんたちでしたが……なるほど、凶悪だから封じられていたのではなく、強靭な生命力のせいでやむなく封印することになった、という理由でしたか。ということは、実力的にはそこまで強すぎる相手ではないのかもしれませんね。そしてこれでこの監獄に他のモンスター的存在がいないことも、複数の部屋があったのにも、このエリアが隠されていたことにも理解が出来ました。
モンスターがいないのは、ジェミニさんが管理しているから。複数の部屋があるのは、もしもの時の避難や防衛のため、でしょうか。そして隠されていた理由については、封じられているらしいアレが邪神などに見つけられないようにするため、ですね。まあ何はともあれ、私たちでもあれの相手は出来るとジェミニさんたちは考えているみたいですし、ここはその頼みを受けるのがよいですかね?
ひとまずは兄様と相談はしますが、おそらくは兄様も引き受けるとは思えます。なんたって、特殊なクエストみたいな感じですしね!ここでわざわざ手を引いても意味がないのですから、そう考えてしまうのも無理はありません!
「…兄様、どうしますか?私は受けても良いとは思いますが…」
「俺も同じ考えだ。だが、二人だけで何とかなるものなのか?」
「わかりません。ですが、ここで引いてもいずれは倒さないといけないのですから、今がベストではないですかね?」
私と兄様はジェミニさんたちに聞こえないようにコソコソと相談をしていますが、やはり兄様は私たちでも相手を出来るのかを心配しているみたいです。
まあそう思うのも当然ですし、私だって同じ意見です。それでも私の口にした通り、ここに封じられているということはいずれは倒さなくてはいけない存在でもあるのですから、今が一番タイミングがいいはずです…!
そのうえ、おそらくは私たちが受けなくても後から来た他のプレイヤーたちが受けることになってしまうと思えるので、結局は私たちで何とかするのが状況的にもあっていると私は考えています。
「…確かに、それもそうか。…なら、ここは俺たちで倒すのを目指すとするか。あの二人からの頼みでもあるみたいだしな」
私が考えていたことをそう述べると、兄様は難しい表情を浮かばせながらもそう口にしてジェミニさんたちの頼みを受けることにしたみたいです。よし、これで兄様も納得したみたいですし、二人の頼みは受けることにしますか!
一応ジェミニさんたちが言うには私たちでも相手を出来るようですし、あのモンスターの相手は私たち二人で頑張るとしますか!ここで逃げても結局は倒さなくてはいけないのに変わりはないのですから、その頼みは達成してみせます…!
「…では、その頼みは受けさせてもらうとします」
「「ありがとう、二人とも!じゃあ早速アレについて私たちが知っている情報をここで共有しておくから、まずは作戦会議といこっか。とりあえず、あそこで休みながら、ね?」」
『ユニーククエスト【真なる鼓動の眠り姫】が発生しました』
私の返事を聞いた二人はそう口にしながら喜んでいるらしく、続けてアレについての情報も教えてくれるみたいです。加えてクエスト発生のシステムメッセージも流れたので、やはり特殊なイベントだったようでした。
そんな発生したクエストからしてもこれから私たちは特殊そうなモンスターの相手をするみたいなので、先にそれについての情報を聞いておくのは大事ですし、きちんと聞いておかないとですね!ここで聞き逃して後で困るのは自分なうえ、敵である存在の貴重な情報でもあるのですから、聞き逃したらいけません…!
とりあえず、ジェミニさんたちは作戦会議の場として一つの部屋に案内してくれていますし、まずはそこに向かってから、です!ここで倒すためにも、作戦はきちんと考えておく必要がありますね…!




