255話 戦の神アレス
「はい、そこまでですよ」
私が冷や汗をかきながらオーガへと最大限警戒を強めていたのですが、そのタイミングで突如クロノスさんの声が聞こえたと思ったら、いきなり目の前にいたオーガの動きがピタッと止まりました。
…もしかして、やっとクリア条件である五分間が経過したのでしょうか?それなら、いきなりオーガの動きが止まってクロノスさんが声をかけてきたのにも納得ですけど…?というか、クロノスさんはこのオーガが生まれてしまった原因を探っていたはずですが、そちらもすでに終わったのですかね?
なんにせよ、クロノスさんの様子からしてクエストである儀式は完了みたいですし、一度武器は下げておきますか。…一応まだ続く可能性はあるのですから、インベントリに仕舞いはしませんけどね。
「…クロノスさん、これで儀式は終わりなのですか?」
「はい、それはもう完璧でしたよ。あ、このモンスターの生まれた原因もわかったのですから、これは消しておきますね」
私のかけた言葉にクロノスさんはそう返してくれた後、そのまま指をパチンと鳴らすことで、先程まで私たちが苦戦をして戦っていたオーガが一瞬にしてポリゴンへと変化しました。
…あんなに頑張って戦っていたのに、クロノスさんの手にかかればこうも容易いのですね。まあ神様であるのですから私たちと比べるのは烏滸がましいのかもしれませんけど、それでもそう思ってしまうの仕方ないのですよ…!
だって、私たちが全力を出してなんとかくらいつけるか否かくらいの敵だったのですし、そこまで格を見せつけられると私だって自信をなくしちゃいます…!そもそも、そんな容易に倒せるのならクロノスさんがあのオーガの相手をして欲しかったとも思ってしまいますよ…!…ですが、今回は戦の神であるアレスさんの回復のための儀式でもあったから、私たちが戦ったのでしょうけど。
「とりあえず、これにて儀式は完了しましたね。アレスの容態はどうですか、アグニ?」
「そうですね、お二人の力もあってか結構回復することが出来たみたいですよ」
そんなクロノスさんの言葉に、いつのまにか消えていた青い炎の塊であるアグニさんが再びこの空間内に現れ、そう言葉を交わしています。
ふむふむ、今回の儀式は変化してしまったので少しだけ大丈夫か心配していましたが、どうやら問題なく終わらせることが出来たようですね?それにアレスさんの力も回復することが出来たみたいですし、これでクエストもクリアしたとみて間違いないですね!
「それで、原因はなんだったのですか?」
「ああ、それについても教えておきますね」
私はこれにて終わりと確信してインベントリへと手に持っていた武器を仕舞っていると、そのタイミングでアリエスさんがクロノスさんとアグニさんに対してそう問いかけていました。
私もそれについては気になるので、出来れば聞いてみたいですね…!あのオーガはおそらく事故として生まれたのですから、そうなったのは私も気になってしまいます!それさえなければ普通に儀式を出来たのでしょうし、次があるかはわからないとはいえ聞いておいて損はないですしね!
すでにクロノスさんたちは知っているみたいですが、一体何故こうなったのでしょうか?もしかして、邪神の仕業だったり…?…いえ、なんでもその神様のせいにするのは良くないですね。悪いことをしている神様とはいえ、流石にそんな扱いをされていると知れば怒りますよね。
「原因は非常に簡単で、アグニが魔物を生み出す時に偶然他の魔力が混じってしまったせいらしいのです」
「他の魔力、ですか?」
「そうです。具体的に言うと、アレスの魔力ですね。それが混じったせいで、あそこまで強くなってしまったようです」
なるほど、やはり原因は邪神ではなかったみたいですね。つい疑ってしまって申し訳ありませんでした!っと、それはいいとして、今は原因についてですね。クロノスさんが言うには、アレスさんの魔力が混じったことによってあんなに強い敵と私たちは戦うことになった、とのことです。
アレスさんは戦の神と聞きましたし、それによってあのオーガは強さが凄まじかったのかもしれませんね?普通のモンスターなら、私たちがあそこまで手こずることもなかったでしょうし。加えてアグニさんはその神様の眷属みたいなので、それでつい魔力が混じったのだとも容易に想像がつきます。神様とはいえ、私たち人間と同じように失敗はするのですね。まあ種族的なものは違うとしても同じくこの世界に生きている存在なんですし、そのくらいは普通なのかもしれませんが。
「なるほど、それでですか」
「本当にすみません…」
「いえいえ、このくらいは別に大丈夫ですよ!なんとか生き残ることも出来たのですから、気にしないでください!」
「そうですよ!私たちはやられていないのですし、そこまで申し訳なさそうにしなくても良いですよ!」
申し訳なさそうにしているアグニさんの言葉に私とアオイさんはそう返しましたが、アグニさんは"ありがとうございます"と言っているので、少しはその気持ちを拭えたでしょうか?
確かに、今回の件はそれのせいで大変だったとはいえ、別に私たちは誰もやられていないのですから特に問題はありません!それに、儀式も無事に終えることが出来たのですし、いつまでも気にしなくても大丈夫ですよ!今回の件は次に活かすために覚えておくくらいですしね!
「…貴様らが、私を回復してくれた者たちか」
私は軽い笑みを浮かべながらそんな思考をしていると、そこに聞きなれない男性の声が聞こえてきました。この声、クロノスさんやアグニさん、アリエスさんでもない気がしますけど、一体誰の声でしょうか?
というか、頭の中に直接響くように聞こえていますし、ここにいる人でないのは確実ですが……もしかして、戦の神であるアレスさんですか!?
アレスさんはクロノスさんから聞いた限り、神代期の時よりも力を失っているとこことでしたが、今回の儀式で話したり出来るくらいには回復した、ということでしょうか?そうだとすると頑張った甲斐があるというものですけど、この予想は当たっていますかね…?
「アレス様!お身体は大丈夫なのですか?」
「ああ、少し話すくらいなら問題はない。それで、そこの二人の少女が私の力を回復した者か?」
アグニさんもそう言ってますし、やはりこの声の主は戦の方であるアレスさんであっていたみたいです。そしてアレスさんは自身の力が回復したのが私たちのおかげだと把握しているみたいで、そのように問いかけてきました。
まあ儀式というだけはあって捧げられる立場にいるアレスさんもある程度の情報は把握していた、ということですね。そうでなくても、アレスさんの眷属であるアグニさんが伝えているでしょうし、それについての疑問はありません。
というか、アレスさんの力も回復出来たようですし、今回の儀式はアレスさんの力になれたようでよかったです!それと話せるくらいには回復しているみたいですし、あそこまで苦戦した私たちの活躍は無駄ではなかったみたいですね!
「そうです。そちらの時空神様が連れてきてくれた者であり、今回の儀式をした者たちでもあります」
「久しぶりですね、アレス」
「ふむ、クロノスか。なるほど、今回の儀式は貴様のおかげか」
っと、考え事はいいとして、まずはアレスさんたちに意識を向けないとですね。今は神様である三人がお互いに情報交換のついでに会話をしていますが、それでも今回の件には私たちも関わっているのですから、きちんと話は聞いておかなくては…!
アレスさんはクロノスさんのおかげで回復出来たと瞬時に把握したみたいですが、やはり古くからの友人だからすぐにわかったのでしょうか?なんとなく気心が知れた関係のようにも見えるので、それでですかね?まあ仲が良いのはいいことなんですし、気にしなくてもいいですね。
「まあそちらはいいとして、今はこちらだな。貴様ら、名はなんという?」
おっと、考え事をしている間に会話は終わっていたらしく、名を問われましたね?確かに、私たちはまだ自己紹介をしてなかったのですし、キチンと名乗りますか!別に隠すことでもないですしね!
「私はレアと申します!」
「私はアオイです!」
「レアとアオイか。貴様ら、今回の儀式は感謝させてもらおう。そして、儀式をしてくれたのにも関わらず何も与えないのは私の立場が許さないので、貴様らにはこれを渡そう」
アレスさんがそう言ったタイミングで、突如私とアオイさんの目の前に何やらアイテムらしきものが出てきました。
アオイさんの前には雪のように白い純白の長槍が、対して私の目の前には私と同じくらいの大きさはある巨大な漆黒色の大剣が出現しましたが……これらが私たちに渡すもの、ですか…?
それらの武器からは凄まじい魔力を感じるので明らかに単なる武器には見えませんし、これがこの儀式の報酬ということなのでしょうね。ですが、アオイさんはともかく、私、大剣なんて使ったことがないのですけど…?まあ貰えるものは貰いますが、これは使いこなせますかね…?
「よし、これで私の目的は済んだ。では、まだ本調子ではないため、この辺で失礼させてもらうぞ」
「あ、ありがとうございました、アレスさん!」
「私からもありがとうございます!この槍、大切に使わせてもらいますね!」
「ふっ、ではな」
『称号〈戦神の加護〉を獲得しました』
そうしてその言葉を最後に、アレスさんの反応は消えてしまいました。…儀式は無事に成功しましたが、アレスさんはどうやらまだ本調子ではないらしいので、すぐに戻ってしまったのだとわかります。というか、そんな中でも私たちに声をかけてくれるなんて、やはり神様はいい神様ばかりなのですね!邪神に関しても本来は優しい人だったみたいですし、神様は皆そうなんでしょうね。
しかも、報酬として私には大剣と加護まで貰えたのですから、これはとても嬉しくなってしまいます!私、一応クロノスさんからの祝福は受けていましたが、そこに加える形で加護が他に入るとは思わなかったですよ…!まあ悪いことではないのでいいですけど、少しだけ驚いてしまいました。




