9.手合わせ
午後。
約束通り、騎士団の皆様の訓練に参加させていただくことになりました!
「皆様、どうぞよろしくお願いいたします!」
皆様がざわついております。やはり場違いでしたでしょうか。
「皆、今日はヴィオラも訓練に参加する。そこらの令嬢とは違って剣の腕は確かだ。手加減などせぬように」
「しかし、旦那様。あの細腕です。うっかり折ってしまったら我々の首が飛びます」
彼は確か騎士団長様。
「団長様、ご心配には及びません。腕の一本や二本、折れても構いません。くっつくのですから。切り落とすのだけご容赦いただければと」
微笑めば、再び場がざわつきます。
「奥様がそこまで仰るのなら……おい、お前ら! いつも通り訓練するように!」
だいぶ気を遣わせてしまったけれど、これで腕試しができます。
まずは基礎体力作りからですよね。
「奥様、これから場内を10周走りこみますが、ついてこられますか?」
「はい、ご心配なく! 体力には自信がございます」
団長さんにはそう言いましたが、走り込みは初めてですので少々緊張いたします。
「では、行きます」
騎士団の皆さんについて走ります。
1周、2周,3周……団員さんの足取りが重くなっているのがわかります。
走れば走るほど、呼吸は苦しくなりますが楽しくなってきます。どこまで走れるのかしらと、好奇心さえ湧いてきます。
「お前ら! 奥様に後れを取るなど追加で5周走らせるぞ!」
団長さんの一声に皆様の速度が再び上がります。
10周走りこんだ後、ようやく剣を握ります。
「真剣ですがよろしいですか?」
「もちろんです! そのほうが手に馴染みます」
手合わせの一人目は入団間もないといった然の青年。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、参ります」
地を蹴る。右手の剣の重み分、体を左へ傾け下から振り上げます。
相手が避けた隙を見逃してはなりません。ここが勝機です。
足を払って尻もちをついたところで剣をのど元に向けます。
「ま、参りました……」
「何ということだ……」
三度場がざわめきます。いえ、これは歓声ですね。
「奥様! 次は私と!」
「いや、私が先だ!」
皆様が我先にとわたくしの前に列をなします。
「お前ら、いい加減にしないか。奥様が困っていらっしゃる」
流石は団長様。鶴の一声ですね。
「実力順で何人か私がピックアップする」
選ばれた騎士様たちと手合わせをしていきます。
手順は大体同じですが、皆様体格はそれぞれなのでそれに合わせて戦い方を少し変えていきます。
「全滅じゃねぇか」
団長さんは頭を抱えていらっしゃいます。
「わがままを訊いていただけるのなら、団長様と旦那様ともお手合わせ願いたいです」
「それは構いませんが……」
やりました。自分がどこまでやれるのか、確かめてみたかったのです。
「では、行きますよ」
ざん……!
流石団長様、一撃が重いです。
わたくしは身軽さを武器にして間合いに入りますが、簡単に剣を押し返されてしまいます。
ならばと死角をついて背後に迫りますが、団長さんには死角がないようです。
不意を突けません。
あっという間に間合いに入られてのど元に剣を突き付けられます。
「降参です……」
流石団長様、お強い。
「まじかよ。あの団長に食らいついていたぞ。旦那様の次に強い団長に」
「奥様、失礼ですが剣はどなたに師事されていたのですか」
「? 完全独学でございます!」
「――!」
団長様が息をのみます。
「旦那様! 奥様には天賦の才がございます!」
「だから手加減無用と言っただろう」
旦那様はどこか得意げです。少し可愛いと思ってしまいました。
「では旦那様! お約束通り、わたくしと手合わせ願います」
「あぁ。だがその前に休憩を挟みましょう。一度も休んでいないでしょう」
旦那様がタオルでわたくしの額を拭ってくださいます。
今更ながら、旦那様の前で汗だくなのが恥ずかしくなってしまいます。
耳が熱いです。
「頬が赤いようですが、大丈夫ですか? 今日はもうやめておきますか?」
「いえ! これは少し恥ずかしかっただけなので! お手合わせお願いします!」
「恥ずかしいとは?」
わたくしの馬鹿! 何を馬鹿正直に口を滑らせているのですか――!
「こ、こちらの話です」
「? そうですか」
よかったです。旦那様に深く突っ込まれずに済みました。
「十分休めました! 旦那様、お願いします」
「わかりました。手加減はなしですからね」
「はい!」
旦那様が剣を構える姿はとても美しいです。芸術品のような雰囲気があります。
ス――。
旦那様は団長さんと違って静かに間合いを詰めます。
避けつつ姿勢を屈めて下から剣を振り上げます。わたくしの得意なパターンです。
ですが、完全に見切られておりました。
「足はもう一歩踏み込んでください」
旦那様の指示が飛んできます。
ぐっ――。
旦那様を信じて一歩踏み出します。
「そう、上手ですね。剣は下からばかりでなく横から切り裂くように」
ブン――。
言う通りに剣を振ると旦那様が距離を取りました。
「では、お望み通り本気で行きますよ」
旦那様は言うや否やわたくしの背後を取りました。
振り返る間もなく首筋には剣が当てられておりました。
「参りました」
あぁ、楽しかった!
「皆様のおかげで少し強くなれた気がいたします!」
「これ以上強くなられたら……」
「俺たちの立場とは……」
騎士様たちが何かぼやいておられましたが、今はこの高揚感に浸っていたいです。
「旦那様は剣に加えて魔法もお使いになるのでしょう? 良ければ今度見せていただけますか?」
「……はい。わかりました。今度時間を取ってお見せしますね」
旦那様は少しの間の後、少々お辛そうに微笑まれました。




