10.王都へ
「王都ですか?」
「えぇ。社交シーズンが来ましたからね」
旦那様との食事中、王都行きの話が持ち上がりました。
「そういえば、わたくしは魔力酔いしないので忘れておりましたが先日の夜会はどのようにしたのですか? 誰も酔っていなかったと思うのですが」
「それにはからくりがありまして。といっても簡単な話、魔道具を使っていたのです」
「魔道具……」
「えぇ。単純に魔力を吸い込むという代物ですね。ただ、吸い込みすぎたらやはり使えなくなってしまうので時間制限はありますが」
「今回の王都行きでも同じように?」
「えぇ。いくつか持っていきます」
改めて、大変な体質なのですね。
「ただ、先日の夜会では腕輪の魔力吸収がゆっくりだった気がします。いつもなら2つは使うというのに」
「そうなんですか?」
「えぇ。王都に行った際に魔法管理局で確認してみます」
魔法管理局……。
「魔力量を測ったり暴走が起きないように管理・研究している機関です」
「そうなんですね。確か妹の魔力を測るときにいらしてたのを見た気がいたします。4歳のころでしたので記憶は曖昧ですが」
「……そうでしたか。魔法管理局に行っている間、ヴィオラは王都を巡ってみると良いでしょう。中央や北部にはない店が多く出ています」
「良いのですか! ありがとうございます、旦那様!」
初めての王都、楽しみです!
「それと。あなたがそこらの暴漢より強いのは承知しておりますが、護衛はしっかりとつけるように」
旦那様はお優しいです。
父は魔物の出る道中も護衛をつけてはくださらなかったというのに。
「感謝します」
「感謝されることでは……いえ、なんでもありません」
旦那様は何かを言いかけて飲み込みました。
最近、このように言いかけては飲み込んだりわたくしが話すと悲しい顔をなさります。
何かいけないことでもしたのでしょうか?
それならば改善いたしませんと!
「旦那様。わたくしが何か失礼をしてしまっているのなら、おっしゃってください。改善いたします」
「そのようなことはありませんが、なぜ急に?」
「旦那様が近頃、わたくしが話すと悲しいお顔をされるので……」
「――!」
旦那様が息をのみました。
「すみません、そういうつもりはなかったのです。私の方が気をつけねばなりませんね。とにかく、ヴィオラに非はありませんので、これまで通りで結構ですよ」
旦那様がそうおっしゃるのなら……。どういう事情があるのか気になりますが、言う通りにいたします。といってもこれまで通りで良いとのことですが。
王都に着きました。中央とも北部とも違って街並みが豪華です。平民の皆様も充実したお顔をされています。
「しばらくしたら、魔法管理局です。……。やはりおかしい。北部からの移動なのに腕輪一つも消費していない……」
旦那様は難しいお顔をされています。
憂いが晴れると良いのですが……。
「着きました。では私はここで降ります。きちんと護衛をつけて行動するように」
「はい、わかりました。では旦那様、また後ほど」
旦那様と別れて、馬車で王都の街を走ります。
「奥様、気になる店はありましたか?」
本日護衛を務めてくださるのは、以前剣を交えたレオ。レオがついてくださるのなら安心です。
「そうですねぇ。このように街に出るのは初めてなので、何が何のお店なんだか……」
「では、歩いて見てみましょうか」
「はい! ありがとうございます!」
レオの提案で街を散策することになりました。
興味深いお店ばかりです。
「レオ、あのお店に入ってみても良いですか?」
「もちろんです、奥様」
入ったのは所謂雑貨屋さん。
「これ、旦那様に似合うと思いませんか?」
手に取ったのは旦那様の瞳と同じ色の髪紐。
「いいですね。プレゼントなさるので?」
「喜んでくださるでしょうか?」
「もちろんですよ。奥様からもらえるなら道端の石だって喜びますって」
レオは自信満々に仰います。
「それは言いすぎですが……でも、うん。これにします」
きっと旦那様に似合うはずです。
「ちょっとお会計してきますね」
「奥様、一人にならないように。私も一緒に行きます」
「あ、そうでした。つい、忘れてしまって」
危ない危ない。旦那様との約束を破ってしまうところでした。
髪紐も無事に買えましたし、もう少し街を見て回ることにします。
「レオ、あのお店に入ってみたいです」
「ですが奥様……」
レオが困ったような顔をします。
「やはりわたくしが魔導書のお店に入るのは変よね……」
「そんなことは! 入りましょう!」
レオは慌てた様子で店まで連れて行ってくれます。
「初めて見るわ……てっきり知らない言語で書かれているものだと思っていたけれど、読めるのですね。不思議です」
「え、奥様。魔導書が読めるのですか?」
「えぇ。内容はよくわからないけれど」
レオはなんだか驚いている様子です。
「何か問題がありましたでしょうか?」
「いえ! なんでもないです……旦那様に報告しなくては」
何か独り言ちているようだけれど、よく聞き取れませんでした。
まぁ、レオが問題ないと言っているのだから大丈夫ですよね!




