11.魔法管理局
ヴィオラと別れて魔法管理局へ向かう。
体質のせいもあって、幼いころから魔法管理局にはよく通っていた。
常用している腕輪の開発もここで行われている。
「ヴィンセントはいるか」
「はいはい、公爵様」
「公爵様はやめろと言っているだろう」
「わかってるって、イライアス。今日は何の用で?」
ヴィンセントは侯爵令息でありながら、ここ魔法管理局の研究員である。
「あなたの作った腕輪のことで」
「あれ? なんか不具合があった?」
「いや、不具合というか……いつもより魔力を吸わないんだ。その割に周囲に影響が出ない」
「何それ。ちょっと見せてもらえる?」
ここには貴族の令息ばかりであるから、腕輪を外すことはなくそのまま腕を差し出す。
「んー。確かにいつもより若干力が弱まってるね。何か心当たりは? いつもと違ったことが起きたとか」
そう言われても。特に変わったことは……。
「あ」
「何? なんか身に覚えでもあった?」
「最近結婚したんだが」
「待って、その話聞いてない」
「今はそんなことはよくて」
「よくはないだろ」
確かに結婚したことは北部の人間しか知らないからな。ヴィンセントにはあとで説明しなくては。
「まぁ一度置いておいてだな。その結婚相手の女性が魔力なしなんだ」
「平民と結婚したのか!?」
「いや、伯爵令嬢だ」
「それで魔力なしか……一度その子も連れてきてくれないか?」
「やはり関係あると思うか」
「これまでなかったことが起きているということは、何かしらの関係があるだろうね」
彼女をこのようなところに連れてくるのは些か抵抗があるのだが。
ヴィオラにも関係することならば致し方あるまい。
「わかった。王都に滞在している間に連れてくる」
「そうしてくれ」
一度魔法管理局を後にする。
「旦那様! おかえりなさいませ!」
ヴィオラが笑って迎えてくれる。
この明るさがどれだけ私の心を溶かしてくれているのか。
今までの日々を忘れてしまいそうになる。
「ヴィオラ。街は楽しかったですか?」
「はい! あの……」
もじもじとしている姿も愛おしい。
「もしよろしければ、これを」
差し出されたのはラッピングされた小さな袋。
「開けてみても?」
「はい」
開くと、私の瞳に合わせたであろう髪紐。
「私のために選んでくださってありがとうございます。大事に使わせていただきますね」
ほっとしたように肩を下す。
そうか。彼女はきっと初めて人に物を贈ったのだろう。初めてが私ということがたまらなく嬉しい。
「よかったです!」
頬を染めて笑う姿も愛おしく思う。
「旦那様、少しよろしいでしょうか」
レオが耳打ちしてくる。
何か問題が起きたのだろうかと身構える。
「ヴィオラ、馬車に乗って少し待っていてもらえますか?」
「? わかりました、旦那様」
ヴィオラを馬車に乗せ、レオの話を聞く。
「どうした、レオ」
「実は……奥様と魔術書の店に入ったのですが」
「それはヴィオラの提案か」
「もちろんです! そこで奥様が、魔術書の文字が読めると」
「何?」
魔術書は魔力のあるものにしか読むことができない。
故にヴィオラが読めるはずがないのだが。
やはりヴィオラを魔法管理局に連れて行かなくてはならない。
「わかった。このことは内密に」
「承知いたしました」
原因が判明するまでは、このことを知るものは少ないほうが良い。
ヴィオラに何事もないと良いのだが。
彼女が傷つくことなど、あってはならない。私が許しはしない。
もし、検査の結果が彼女に負担をかけるようならば、そのことは私の胸の内に留めよう。
「旦那様? もうよろしいのですか?」
「えぇ。屋敷へ向かいましょうか」
「屋敷……あぁ! セカンドハウスがあるのですよね。宿に泊まる気満々でございました」
ヴィオラは恥ずかしそうに俯く。
ヴィオラが望むのなら宿に泊まってもよいのだが。
いや、やはり屋敷に帰ろう。同じ部屋で寝泊まりするのは私たちにはまだ早い。
「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」
セカンドハウスを任せているオリバーに迎え入れられる。
使用人たちの様子がおかしい。
「どうした。何か問題があったか」
「その……奥様には魔力がないと伺ったのですが」
なるほど。こちらでも同じことが起きるか。夜会での出来事を知らない分、偏見があるのだろう。
「だから、どうした?」
「いえ、その……」
「旦那様には相応しくないかと!」
声を荒げたのは私の乳母であったマリーだ。
「マリー、何のつもりだ」
「私は旦那様が赤ん坊のころからそばにおりました。旦那様は立派になられたというのに、その妻が中央の欠陥品などと!」
「黙れ!」
私の怒号に場が静まる。
「ヴィオラを軽視するものを私は許しはしない。マリー、お前には暇を出す」
「どうしてですか、旦那様! このマリーがいままでどれだけ坊ちゃんを思ってきたか!」
「私のヴィオラを傷つけるものをそばに置くことなどありえない。何人たりともだ」
マリーは長らく私に仕えてきたが、私の大事な存在に牙をむくのであればいくらでも冷徹になろう。
マリーを解雇することで、屋敷内の空気が締まった。
そう。ヴィオラを侮辱するなど私が許しはしない。




