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7.バレる

 アイリス様のご厚意で、シャワーを頂きました。これで魔物の血と匂いは消えましたね。

「シャワーありがとうございました!」

「ヴィオラ、イライアス。そこに座りなさい」

 いつの間にか客間に来ていた旦那様とともにソファーを勧められました。

「? はい」

 旦那様は難しい顔をしていらっしゃいます。

「あなたたち、まさか契約結婚などではないわよね」

 おっと。どこで気づかれたのでしょう。先ほどの旦那様はむしろとてもお優しかったのに。

「契約ではありません。利害関係が一致したので籍を入れました」

「それを契約結婚というのではなくて?」

 旦那様が圧されています。

「ヴィオラ。あなたも私に嘘をつきましたね。イライアスとは仲良くやっているのではなかったの?」

 こちらにまで矢が飛んできました。

「な、仲良く過ごしていますよ。ね、旦那様」

「……」

 なぜ無言なのですか。バレてしまうではないですか!

「ならなぜ、あの状況でイライアスはヴィオラの名すら呼ばなかったの?」

 先ほどの魔物襲撃のことでしょうか。あの時に何かバレる要素ありましたでしょうか?

「夫なら妻の危機に必死になるわ。私の夫のようにね。ですがイライアス。魔物がヴィオラに近づいたとき、ヴィオラの名すら呼びませんでしたね。そもそもヴィオラの方を見ていなかったのではなくて?」

「私はオールブライト公爵です。魔物を狩るのが仕事です。会場の魔物を狩らなければならなかった、それだけです。それに」

「それに、何かしら」

「ヴィオラは魔物ごときに殺られはしないとわかっておりました」

 旦那様! 信頼してくださっていたのですね!

「それとこれとは話が別よ。信頼は結構。心配はなかったのかしらと聞いているの」

「……」

「あなた達には会話と時間が必要だわ」

「失礼ですがブレアム夫人。あなた様に我々夫婦のあり方について口を出される筋合いはないのですが」

「イライアス。これは叔母として言っているの。甥に幸せになってほしいと思う気持ち、わからないあなたではないでしょう」

「……善処します」

「ヴィオラ、あなたもよ。イライアスの顔色ばかり窺ってはいけません。利害が一致したということはあなた方は対等な関係なのだから」

「わかりました、アイリス様」

 旦那様と対等だなんてそれこそ烏滸がましいのですが。これを機に旦那様との距離が近づけば嬉しいですね。ギルバートもきっと喜びますし。わたくしにも家族ができるかもしれませんし。

「あなた達はきっと良い夫婦になれるわ」

 アイリス様はそう言ってくださるけれど。

 まず、接近禁止命令の解除からですかねぇ。


「……先ほどは申し訳ありませんでした」

 帰りの馬車の中で旦那様が頭を下げています。

「いえいえ! 信頼されているのだと思うと嬉しかったです!」

「信頼はしていました。ただ、思考停止だったのかもしれません。あなたが怪我をする可能性、最悪命を落としてしまう可能性を考えていませんでした。叔母様の言う通りです。私はあの時、あなたの方を見ているべきでした」

「いいえ、旦那様。それは違います。旦那様はご自分のお仕事を完遂なさった。私は私のできることをやった。その結果私が命を落としても、旦那様の責任にはなり得ません」

「父なら……きっともっと上手く立ち回れた。自分の本分と妻を守ること、どちらも諦めることはなかったはずです」

「旦那様のお父様」

「えぇ。そう、あなたに少し似ていましたね」

「アイリス様にも言われました。光栄です」

「私は父には遠く及びません。あなたへの態度も、どうしたらよいのかわからないのです」

「わたくしへの態度なら、思うがままに接していただいて大丈夫でございます。旦那様はわたくしを傷つけはしないではないですか。それだけでわたくしは心が安らぐのです。接近禁止命令も、できることなら解いてほしいですが、旦那様に必要な距離ならそれでも構いません。きっと色々な夫婦の形があるのだと思います」

 旦那様は静かにエメラルドの瞳でわたくしを見つめます。

 いつ見ても綺麗な瞳です。

「あなたを知りたいと思っています。どうしてそんなに明るくいられるのか。どうしてそんなに強いのか。何があなたを傷つけてきたのか」

「わたくしも旦那様を知りたいです。何がお好きなのか、苦手なものは何か。どうしたら旦那様と家族になれるのか」

 旦那様は優しいお方です。接近禁止命令もきっとわたくしを傷つけまいとしてくれたのではないでしょうか。

 もし、距離を縮めてよいのなら。

「旦那様、一緒に食事を摂りませんか」

「それは、構いませんが」

「ありがとうございます。誰かと食事するのは、きっととても楽しいことなのでしょうね」

 わたくしには家族という家族はいない。食事は使用人部屋で一人で摂るもの。誰かと食事をすることに内心憧れていたのかもしれません。

「いつもそうなのですか」

「? 何がでしょう?」

「淋しいことを笑って話す」

 旦那様の言葉の意味をかみ砕きますけれど、よくわかりません。

「これからあなたには淋しい思いはさせません」

「淋しかったことなど記憶する限りありませんが……」

「それは認知できていないだけです。ですが、そのことがあなたを守っていたのでしょうね」

 旦那様の仰る意味がよくわかりません。

「あなたが鎧を脱いでもよい場所に、私がなれるよう精進します」

 わたくしの理解が追い付かないまま、旦那様は何かを決意されたようです。

 旦那様がわたくしのために何かを頑張ってくださるというのなら、わたくしも旦那様の幸せのために精一杯務めなければなりませんね!


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