5.決闘することになりまして
「奥様、お茶会はいかがでしたか」
お屋敷に帰宅すると、ギルバートが出迎えてくださいました。
「それが……」
「何かございましたか?」
「旦那様をお慕いするご令嬢方と剣を交えることになりまして」
「……はい?」
「ですから、決闘をして負けたら離縁すると啖呵を切ってしまいました……!」
我ながら軽率な行動でした……。これは利害関係の上にある婚姻。わたくしが勝手に離縁を賭けてはいけないというのに。
「お茶会に行って何がどうして決闘などと……。ですがまぁ、奥様が負けることはございませんから問題ないでしょう」
ギルバートに腕を信用されているようでよかったです。
「申し訳ございません……。勝手な真似をして……」
流石に反省しなくてはなりませんね。
「して、日程はいかがなさいますか?」
「旦那様にばれないようにしたいので、不在の時に……」
「承知いたしました。旦那様なら明後日は終日不在でございます。その日程でご令嬢方に招待状をお送りしましょうか?」
「えぇお願い」
招待状というより果たし状ですが。
来る日。決闘日和の晴天ですね。
「私たちは4人、あなたは1人。随分と不利だけどいいわよね?」
「はい、問題ありません」
「いちいち鼻につくわね」
決闘をするということで、皆さん動きやすい乗馬服です。わたくしは乗馬服の仕立てが間に合いませんでしたので、持っているドレスの中で一番動きやすいものを選びました。
「これから決闘だというのにドレスだなんて、随分と余裕みたいね」
「確かに少々動きは鈍りますが、ご心配には及びません」
「あなたの心配などしていないわよ!」
どうやらわたくしはお若い女性の神経を逆なでする才能があるようです。
「では、始めましょうか。どなたから手合わせいたしましょう? ちなみに安全に配慮して模造刀で行いますが異議はありませんか?」
「誰が真剣で勝負するのよ。危ないじゃない」
「申し訳ございません。わたくし真剣しか扱ったことがないものでして」
「……! へ、へぇ。しかし所詮中央のご令嬢。私たちに勝てるはずがありませんわ。まずは私が相手になります。負けたら公爵様と別れてもらいますからね」
「えぇ。では参りましょう」
模造刀は軽いので、なかなか力の込め方が難しいですね。いつものように振り回したら折れてしまいそうです。
ご令嬢が剣を振りかざしますが、動きがあまりにも遅いです。実戦向きではありませんね。剣筋は美しいのですが。
背後に回って首筋に剣を当てます。
「はい、わたくしの勝ちです」
「あなた今、何をなさったの! いつの間に背後に」
「企業秘密です!」
まぁ、ただ死角をついて動いただけですが。
「お次はどなたで?」
いやぁ、模造刀とはいえ久しぶりに剣を振ることができて楽しかったです。
「これでわたくしはこれからも公爵夫人、ということでよろしいですね?」
「~~! わかったわよ。手加減なんてされて屈辱だわ」
「ご令嬢の剣筋は美しかったですよ」
「お世辞はいらないわ。私は負けたのだから」
お世辞などではありませんのに。
「わたくしたち、剣を交えた身。お友達になれると思いませんか?」
「どういう理屈よ! あなたと友達になんてごめんだわ。さ、皆様帰りましょう」
残念です。わたくしにもお友達ができると期待してしまいました。
しかし、勝ちは勝ち。これからも公爵夫人として務めましょう。
「奥様、お見事でございました。流石魔物を倒したお方。我が領地の騎士団にも劣らぬ剣筋でございましたよ」
「ありがとうございます、ギルバート。ですが褒めすぎですよ」
「そのようなことはございません。奥様が喧嘩を売ったご令嬢方は北部でも剣の腕が良いと評判のお方ばかり。そのような方たちを赤子の手をひねるかの如く倒していく様はお見事でございました」
「そうだったのですか? 確かに美しい剣筋でした。わたくしのは実戦特化といいますか、あまり綺麗なものではないので……」
「何を仰います。いくら綺麗に剣が扱えようとも死んでしまってはお終いでございます。奥様の剣はまさに生きるための剣。生命力に満ちた美しい剣と存じます」
そう言ってもらえると嬉しいですね。わたくしの少々野蛮な剣の扱い方を気にしておりましたから。
「そうでした、ギルバート。わたくし、旦那様の基本情報を何一つとして知らないのです。これでは社交界でぼろが出てしまいます! 旦那様に直接聞くこともできませんし、ギルバートに頼んでもよいかしら」
「確かにそれは問題でございますね。私にお任せください」
それからギルバートに旦那様の情報を教えていただきました。
旦那様は27歳、誕生日は冬。爵位を継いだのは19歳の秋。つまり先代公爵様が亡くなられたのが8年前。先代公爵様は現国王陛下の2番目の弟君。この国には王太子殿下がいらっしゃいますから、王位継承権は3番目。旦那様にも継承権があるとのこと。ただ、あまりにも魔力が強いためこのオールブライト領にて国防の要を任されているそうです。先代公爵夫人は夫である先代公爵様が亡くなられてから気を病んでご実家で静養中。これまで山ほど縁談があり、何度もお見合いをしたが皆魔力酔いを起こしてしまい破談になったらしいです。
それで北部だけでなく中央まで花嫁募集の話が出たのですね。
「奥様が嫁いでくださったのは僥倖でした。叶うのなら、旦那様のお心を射止めてくださると有難いのですが」
「ギルバート、それは難しい相談です……」
接近禁止命令が出ている身。お心を射止めるだなんて天と地がひっくり返っても無理というものです。
「そうでございますね。失礼しました。奥様がいらっしゃることに大きな意味があるのです。これ以上望んでは罰が当たりますね」
せめて、公爵邸の女主人として旦那様に認識していただけるように頑張りたいところです。




