4.初めてのお茶会
ついに来ました。お茶会のお手紙が。
「ギルバート、こちらのお茶会に参加します。バセット伯爵夫人は穏やかな方だと言っていましたよね」
「よく覚えていらっしゃいました。ただ、ご友人であらせられるブレアム侯爵夫人がなかなか気難しいお方で。年頃の令嬢泣かせでいらっしゃいますのでご注意ください」
「侯爵夫人は確か国王陛下の末の妹君でいらっしゃいましたよね。つまり旦那様の叔母様にあたるお方! 失礼のないようにしなくてはなりませんね。オールブライトの名を背負っていますので」
「その通りでございますね。ですがあまり気負いせず、楽しんでいらしてください」
初めてのお茶会、緊張ももちろん大きいのですが、高揚もしています。フェリシテはよくご友人方を招いてお茶会を開いていました。内心羨ましかったのです。今回のお茶会でお友達ができるとさらに嬉しいのですが。
あまり欲張らずに参りましょう。
「今回はお招きいただきありがとうございます。バセット夫人」
「イライアスがお嫁さんを迎えたと聞いて、ぜひお会いしたいと思っていたのよ。イライアスは子供のころから知っていてね。先代の公爵様が早くに亡くなられて奥様もご実家で静養されて早くに跡を継いだでしょう? だから心配していたのよ」
し、知りませんでした……! 確かに爵位を継ぐにはお若いですものね。というかわたくし、旦那様のご年齢も知りません! 干渉しないという約束があるので直接は聞けませんし。帰ったらギルバートに旦那様の基本情報を教えてもらわなくては。
「あなた、魔力がないのですって?」
ブレアム夫人の凛とした声に背筋が伸びます。
「はい。全くありません」
「そう。だからあの子の隣にいられるというわけね。それだけで公爵夫人になれたのかしら」
は、始まった。これは2次面接のようなもの。旦那様の親族の方です。少し緊張いたします。
「確かに条件は揃っていると旦那様は仰られました。公爵夫人としての資質はこれから証明したく存じます」
「北部の女性は貴族といえど中央のお嬢様のように守られてばかりではいけません。例え王族であっても自分の身くらい守れなければなりませんよ」
「その点はご心配には及ばないかと。野盗も倒せますし、魔物との戦闘経験もございます」
「なんですって? あなた、剣の心得があるの?」
「はい。魔法が使えない分、身一つで戦えます。令嬢としては好ましくないのかもしれませんが。あ、一応刺繍なども嗜みます」
流石に取ってつけたような返しだったかしら。
「好ましくないどころか、あなたにはすでに北部の女性としての資質はあるわ。公爵夫人としての振る舞いとしてはまだまだ改善の余地があるようだけれど」
ブレアム夫人の二次面接はどうにか通ったようで安心いたしました。
「アイリス、オールブライト夫人をいじめるのはそのくらいにして、お茶にしましょう」
バセット夫人が柔らかい声で場を和ませてくださいます。
淹れていただいた紅茶はどれも美味しいです。正直公爵邸に来るまで水しか飲んだことがなかったので、紅茶をいただくたびに心がほっとします。
「とても美味しいです」
「あら、それはよかった。もしよかったら茶葉を少し分けて差し上げるわ」
「それは嬉しいです!」
公爵邸でもこの味がいただけるのは嬉しいです。お屋敷で飲む紅茶も美味しいですが、バセット夫人の淹れて下さる紅茶はまた格別に美味しいのです。
「可愛らしいお嬢さんで。あなたがイライアスの伴侶でよかったわ。あの子、不愛想なところがあるから、あなたのように明るく和ませるような方がそばにいてくれると安心ね」
バセット夫人には申し訳ないのですが、ほぼ接近禁止命令が出ているのですよね……。このことはお屋敷の外には漏らさないようにしなくてはなりませんね。
「さぁオールブライト夫人、いえヴィオラと呼んでもよいかしら」
「もちろんです、バセット夫人」
「私のことはエリナと呼んで頂戴」
「私のことはアイリスと」
「ありがとうございます。エリナ様、アイリス様」
「そう、ヴィオラ。向こうのテーブルにも顔を出してらっしゃい。年の近い令嬢が集まっているから」
確かに今座っている席は既婚者ばかりのテーブル。ご友人を作るには恐れ多い歴戦のご婦人方ばかりです。
「では、お言葉に甘えて。お話しできて楽しかったです」
「またご招待するわ」
エリナ様とアイリス様に断って、テーブルを移動する。
実は少し緊張していたりします。先ほどの2次面接とは違う緊張感。
フェリシテ以外、同じ年頃のご令嬢と話したことがないのです。フェリシテは何というか、なかなかに苛烈な性格でしたから……。今日はどんな方たちにお会いできるのでしょうか。
「失礼します。ヴィオラ・オールブライトと申します。よろしくお願いいたします」
「あなたがあの?」
「魔力もないのに公爵邸に押しかけて無理やり婚姻を迫ったのでしょう?」
「イライアス様が本当にお気の毒」
まぁ。全く歓迎されておりません! エリナ様とアイリス様とは和やかに歓談できたので気を抜いておりました。
「あなたごときがあのお方の隣に立つだなんて。鏡をご覧になったことはあって?」
もしかして。いや、あの美貌の旦那様のことです。ファンがたくさんいらっしゃるはず。
それに、魔力の関係で「誰も」旦那様の伴侶になりえない故に平和だったところに、ぽっと出の中央出身が掻っ攫っていったらそれはもう。大顰蹙を買うのは必至ですね。
「北部のレディは美しい花、それだけではいけないのだと伺いました」
「えぇそうよ。中央のご令嬢にはわからないでしょうけど」
「剣の一つも握ったことなんてないのでしょう?」
「では皆さま。わたくしと手合わせいたしませんか?」
「なんですって?」
「中央貴族ごときが私たちに勝負を挑むというの?」
「えぇそうです。わたくしがもし負けるようなことがあったら、旦那様とは離縁いたします」
大見得を切りすぎたかしら。ですがこれくらいでないと、わたくしが公爵夫人に相応しいと証明できませんものね。
「言ったわね? 後になって撤回なんて認めませんから」
「わたくしに二言はありません」
あ。エリナ様の主催するお茶会で大暴れする約束をしてしまいました。
「ですが今はお茶会の最中。また後日、剣を交える機会を設けましょう」
「逃げる気じゃないでしょうね」
「言いましたでしょう? わたくしに二言はありません」
あぁギルバートになんて説明いたしましょう。お茶会に出向いて決闘することになったなんて。




