3.住環境を整えましょう
「これは何というか……懐かしいメニューですね」
目の前にあるのは蒸かしたジャガイモ一つと硬いパンにミルク。パンはカビていませんし、ミルクがついているので実家の食事よりはだいぶ豪華ですが。
「早速侮られていますねぇ。わたくしはこのままでもよいのですが。公爵夫人として振舞わなければなりませんから」
調理場へ向かいましょうか。いえ、この場合は自ら赴くより呼び出すほうが女主人らしいでしょうか。
「すみません、料理を配膳したメイドと調理した者をこちらへ呼んでくださる?」
部屋に控えていたメイドに言付けると、舌打ちをしながら部屋を出て行ってしまいました。
「これは、大仕事になりそうですね」
公爵邸で働かれている皆さんに主人だと認めてもらわなければ!
「なんでしょうか、奥様」
配膳をしてくださったメイドと料理長らしき男性。
おそらく料理長である男性はお顔は強面ですが、職人然としています。この方がこのような料理を出されるとは思えないのですが。
メイドの方は明らかに不機嫌そうです。
「このお料理、あなたが作られたのかしら?」
「いいえ、奥様。私は決してそのような仕事は致しません」
「ではどうしてこちらに? お呼びしたのはこの料理を作った方です」
「屋敷で作られる料理の責任は私にあります。奥様には大変な失礼を致しました。申し訳ございません」
「料理長! どうしてその女に頭を下げるんですか。魔力も使えないなんて、私たち平民と何が違うんですか。そんな人に仕える義理なんてありませんよ」
なるほど。魔力が扱えるから貴族、というのは常識ですものね。それなのに魔力は使えないけど貴族です、さらには公爵夫人ですなんて言われても納得できませんよね。
「あなたの言うこともわかります。確かにわたくしは魔力がありません。しかし正式に籍を入れ公爵夫人となった身。使用人に侮られてよい立場ではないのです」
「よくもぬけぬけと。聞いたわよ。魔力が使えなくて実家を追い出されたって。家族にすら欠陥品扱いされている人間に誰が喜んで仕えるというの?」
「おい、ナンシー! 奥様に向かってなんて口の利き方を……!」
彼女はナンシーというのですね。なかなかに威勢の良い方です。
「ナンシー、こんな品のないことは言いたくないのだけれど、欠陥品であってもわたくしに流れているのは紛れもなく貴族の血よ」
「魔法も使えないくせに! 旦那様に相応しくないわ!」
忠誠心の強い方なのかしら。確かに欠陥品では魔力の抜きんでた旦那様の横に並び立つのも烏滸がましいのかもしれませんが。
「でもナンシー、わたくし以外の貴族のご令嬢が旦那様の伴侶になることは不可能なのよ。魔力がない。その事実がわたくしを公爵夫人たらしめているのよ」
「どういう意味よ」
「魔力のお強い旦那様のそばに魔力のあるご令嬢がいると魔力酔いを起こすのですって。ですからわたくしでないといけないのです」
これは非常に幸いな事実。欠陥が利点になるとはわたくしも思いませんでしたから。
「~~! それでも! 私はあんたが気に食わない。社交界にも出たことがないんでしょう? 社交もできなくて血だけで貴族? 傲慢にもほどがあるわ」
「すみません、奥様。今すぐナンシーを下がらせます」
「よいのです。こういうことは吐ききることが大事ですから。それに社交ならこれからしていくつもりですよ。公爵夫人としての務めはきっちり務めさせていただきます。今すぐに証明することは難しいですけれど、これからわかってもらえたらと思います」
「奥様、仕置きはきちんとなさったほうが。ここまで言われてペナルティがなければ、また同じようなことが起きかねません」
「そうですね……ではこうしましょう! ナンシーの食事をわたくしの実家での食事内容にしてみましょうか。食べ物の恨みは食べ物で返します」
「そんなことでよろしいのですか? ちなみにメニューは」
「カビたパンと腐りかけのジャガイモです。ちなみにミルクはついていませんでしたよ。ナンシーはお優しいですね。わたくしにミルクまでくださるなんて」
「そんなの食事じゃないじゃない!」
「わたくしは食べておりましたよ。まぁ十分な罰になりそうで安心いたしました」
「奥様。これからは私が腕によりをかけてお食事をご用意させていただきます。食事は私にお任せください」
頼もしい限りです。それにジャガイモとパン以外のものを食べられる日が来るなんて、夢のようです。
「料理長、あなたのお名前をお聞きしても?」
「これは失礼しました。私はダニエルと申します」
「ダニエル。これからもよろしくお願いしますね。お料理、期待しています」
「お任せください。ナンシーへの罰の方もしっかり遂行いたしますので」
「なんで私がそんなネズミの餌みたいな食事を——」
「口を慎め。お前の態度に対して寛大すぎる罰だ」
ダニエル、頼もしすぎますね。ギルバートほかにも味方ができたようで何よりです。
「わたくしも公爵夫人としてこれから精進しますので、ナンシーも1週間頑張ってください」
「1週間もネズミの餌を食えって?」
「わたくしは18年と3か月食べておりました。死にはしませんよ、安心してください」
「そういう問題じゃ——」
「行くぞナンシー。では奥様、我々はこれで失礼します」
ナンシーはダニエルに引きずられて部屋を出ていきました。
「食事問題はこれで解決ですね。もったいないのでこのパンとジャガイモは食べてしまいましょう」
流石公爵邸。ただの蒸かしたジャガイモも、パンもふかふかで美味しいです。
これ以上のものが食べれるなんて、放逐してくださったお父様に感謝ですね。




