21.告白
旦那様の前で子どものように泣いてしまいました。反省です。
公爵夫人にあるまじき行動でした。
「ヴィオラ、落ち着きましたか?」
「はい、申し訳ありませんでした」
「いいえ、あなたが安心してくれたのかと思うと私は嬉しいです」
あれは、安堵の涙だったのですね。
確かに、旦那様がレベッカ様を今はもうお慕いしていないと聞いて、安心いたしました。
……気づいてはいけないことに気づいてしまいました。
――わたくし、旦那様のことをお慕いしているのだわ。
夫婦であるし家族ではあるけれど、愛は求めぬようにと旦那様は初日に仰られましたのに。
この気持ちは隠しておかなければなりませんね。
わたくしが誰かを好きになるだなんて、特別に思うだなんて夢にも思っていませんでした。
隠しておくけれど、大事に持っておきましょう。
旦那様が下さった初めての感情ですから。
あれから旦那様との距離が近づいた気がいたします。
食事のほかに、ティータイムまでご一緒することが増えました。
わたくしとしては、嬉しい傍ら気持ちに気づかれてはどうしようかとハラハラする思いです。
ですがやはり、ともに過ごす時間が増えるのは喜ばしいことですね。
「最近は冬の香りがいたしますね。もうそこまで来ているのでしょうか」
「ヴィオラは感性が豊かですね。確かにあと2週間ほどで本格的な冬が来るでしょう」
北部で迎える初めての冬です。
ギルバートに手伝ってもらって越冬のための備蓄を用意いたしましたが、なにぶん初めてなものでこれで良かったのかと不安は残ります。
「旦那様はこれから増々お忙しくなられますよね?」
「そうですね。魔物は冬に活動的になるものも多いので。こうしてヴィオラとお茶を飲めるのも今のうちかもしれませんね」
旦那様の長いまつげが影を落とします。
旦那様も淋しいと思ってくれているのでしょうか。
いえ、余計な期待はやめましょう。隠しておくと決めたではないですか。
「留守の間は任せてください!」
「ふふっ。頼もしい妻がいてくれてよかったです」
旦那様が笑うと条件反射で顔が赤くなってしまうのが困ったところです。
いつかバレてしまったら、どうなるのでしょうか。
せっかく旦那様と家族になれましたのに、わたくしはまた一人になるのでしょうか。
それだけは避けませんと。
旦那様を見習ってポーカーフェイスで……わたくしには無理ですよね。
「ヴィオラを見ていると飽きませんね。百面相で」
「わたくし、そんなにわかりやすいですか……!?」
大ピンチ到来じゃないですか。
ですが旦那様は笑っておられます。気づかれたわけではないようです。
「えぇ。大変好ましいです」
旦那様とわたくしの間の空気が固まりました。
「それは……どういう?」
「つい口が滑ってしまいましたね。ヴィオラと話していると気持ちがほぐれてしまって」
旦那様はふぅとため息を吐いてカップをソーサーに戻します。
「勝機があると思って言う情けない私を許してほしいのですが……」
旦那様のエメラルドの瞳がわたくしを捉えます。
「ヴィオラ、あなたのことを愛しています。家族として、そして一人の女性として」
「――!」
思わずカップを落としそうになりました。
「返事をいただけませんか?」
「そんなこと……わたくしも旦那様をお慕いしております。他の誰よりも愛しております」
「触れても?」
「はい」
旦那様は立ち上がってわたくしの前に膝をつきました。
そしてわたくしの頬に手を添えました。
「あなたが北部に来てくれてよかった。あなたに出会えて、こんなに幸運なことはありません」
「わたくしもそうでございます。実家を出たときに、北部ではきっとうまくいくだろうと思っていましたが、まさか家族になっていただけるどころか」
愛してくださるなんて。
言葉に詰まるとはこういうことなのですね。
これは嬉し涙です。
旦那様の指が雫を拭ってくださいます。
「最近は私の前でよく泣いてくださいますね」
旦那様は目を細めて嬉しそうに仰いますが。
「お恥ずかしい姿ばかり見せてしまって申し訳ないです」
「いえ、あなたが鎧を脱いで安らげる場所が私なのだと思えて、嬉しいのです」
そう言われると余計に涙が止まりません。
旦那様は立ち上がってわたくしを抱きしめました。
「愛おしいという感情を私にくださってありがとうございます」
旦那様の胸に耳を当てると、心地よいリズムが聞こえてきます。
「旦那様が旦那様でよかったです」
「その、できれば名前で呼んでもらいたいのですが……」
な、名前で!? 旦那様を、名前で!?
「イ、イ、イライアス……様?」
「敬称は必要ありません」
そんな無理難題を……!
「まぁ、追々お願いします。今は様付けで我慢いたしましょう」
今日はわたくしの心臓が過活動です。
少々休息が必要な気がいたします。
「イ、イライアス様?」
「はい、なんでしょう。ヴィオラ」
わたくしを呼ぶ声の甘さにまたしても心臓が跳ねます。
「わたくしの心臓がもう限界です……」
「ふふっ。私にも聞こえていました。確かにこんなに脈打っていては疲れてしまいますね」
イライアス様はようやくわたくしを離してくださいました。
「これでようやく、本当の夫婦になれましたね」
イライアス様が幸せそうに微笑むので、わたくしも幸せを噛み締めるようにして。
これにて第一章はいったん完結となります。
第二章は話数が溜まり次第順次公開していこうと思いますので、しばしお待ちいただければと思います。




