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18/21

18.聖女

 神殿の奥へと続く廊下はとても静かです。

 途中何人かの女性とすれ違いましたが、互いに会釈をするのみで誰も声を発しません。

 そういうルールがあるのでしょうか。

「着きました。こちらへお入りください」

 一つの部屋の前に立ち止まりました。他の部屋と特に違いのない部屋のように見えます。

「こちらで判定を行います」

 緊張しながら中へ入ります。

「では、オールブライト夫人。魔力を行使してください」

 え!? いきなりそんなこと言われましても。

「あの、わたくしは魔力なしでして……魔力の行使と言っても何もできないのですが」

「あぁ、確かに報告ではそうでしたね。魔力を与えるものがいればよいのでしょう? こちらへ」

 女性が一人、わたくしの近くへやって参ります。

「夫人は既婚者でいらっしゃいますから、配慮して女性から魔力を与えることとします」

 そうでした。密着しなければいけないのでした。

「ご配慮痛み入ります」

「では、魔力を注ぎますね」

 わたくしより少し背の高い女性は旦那様の時と同じように、背後からわたくしを抱きしめる形になります。

 魔力は流れてくるのですが、おそらくわたくしの器からは漏れてしまっております。

 旦那様のように、洪水のごとく流れ込んでくるならまだしも。このように優しくゆるりと流し込まれますと、器には一瞬も溜まりません。

「――っ。カマラ様。もう、限界でございます」

 女性はばたりと倒れてしまわれました。

「大丈夫でございますか!」

 慌てて膝をつきお顔をのぞき込めば、顔面蒼白でいらっしゃいます。

「夫人、彼女のことはこちらで対応いたしますので。それより、本当に魔力を感じなかったのですか?」

「魔力を注がれている感覚はあったのですが、わたくしが魔法を使えるほどには器に溜まっていないというか。魔力が漏れ出してしまって。わたくしのような人間に聖女など務まるはずもございません」

「彼女は神殿の中でも高い魔力量の持ち主。あの子を以てしても魔力が溜まらないというのなら、致し方ありませんね」

 カマラ様と呼ばれた女性はため息を吐きました。

「神殿はあなたを保護いたしません」

 それは、つまり。

「わたくしは北部に帰ることができるのですか……?」

「えぇ。神殿としては残念な結果でしたが、夫人にとっては幸いなことでしょう。オールブライト公爵様とお幸せに」

「ありがとうございます……!」

 これで憂いなく旦那様の元へ帰ることができます!

 部屋まで案内してくださった女性に、来た道を再び付き添っていただきます。

 来るときは緊張で何も目に入っていなかった回廊の壁画が見事です。

 早く。早く、旦那様のお顔が見たいです。


「旦那様!」

「ヴィオラ! 結果はどうでしたか……?」

 旦那様はとても不安そうなお顔をされています。

「神殿はわたくしを保護しないと。わたくしは旦那様とともに北部へ帰ることができます!」

――!

 旦那様はわたくしを強く抱きしめました。

 少々痛いくらいに。

「良かった……ヴィオラまで失えば私はきっと神を呪うところでした」

 神殿の前でそのようなことを言ってはいけないのでは!?

「旦那様。わたくしは旦那様のお傍におりますよ」

「えぇ。決して離しません」

 旦那様がわたくしを抱きしめる強さがもう一段階上がりました。

 これは流石に痛いです。

「旦那様? その、お力が少々強くて……」

「あぁ、申し訳ありません。安心して思わず。ですが本当に良かった。ヴィンセントには世話になりましたから、結果だけ伝えて明日にでも北部へ帰りましょうか」

「もう帰ってもよろしいのですか?」

「夜会にはあらかた出ましたし、伯父上にも挨拶ができました。シーズンもそろそろ終わるころですし、早くヴィオラと屋敷へ戻りたいというのが本音です」

「わたくしも北部が恋しくなっておりました。北部の夏は涼しくて良いですね。まだ季節を一つしか知りませんから、これからが楽しみです」

「北部に帰ったらヴィオラの冬服をいくつか仕立てなければなりませんね。持参した冬服では北部の秋も堪えるでしょうから」

 流石は北部。これは冬が楽しみですね。


 神殿からその足で魔法管理局へ参ります。

「ヴィンセントを」

 いつものようにアクステル侯爵令息様をお呼びになりました。

「はいはい。どうだった……って聞かなくてもわかるか。奥さん、神殿に取られなくてよかったね、イライアス」

「あなたには世話をかけた。北部に戻って落ち着いたら何か礼をさせてくれ」

「そんなの別にいいよ。それよりもう北部に帰るの? 少し早くない?」

「丁度頃合いかと思ってな」

「そっかそっか。早く奥さんを自分の巣に閉じ込めたいよね~」

「余計なことを言うな」

 旦那様は表情を変えませんがお耳が少し赤くなっています。

 旦那様でも照れることがあるのですね。

 新発見です。

 これからわたくしたちは北部へ帰ります。

 ギルバートたちは元気でしょうか。

 知りたいことも備えなければならないこともたくさんあります。

 そう。帰るのです。北部がわたくしの帰る場所なのです。

 帰る場所がある。こんなに温かいことはありませんね。



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