17.光属性
「魔法管理局へ行きましょう」
やはり難しいお顔をされて、旦那様は仰いました。
またしてもわたくしのことで旦那様を困らせてしまっています。
「申し訳ございません」
「何がです?」
「お手数ばかりおかけして……」
「何を言っているのです。夫婦なのですから当然のことです。それにヴィオラには救われましたから」
わたくしが旦那様を?
「あなたのおかげで、忌まわしかった己の魔力がましに思えるようになりました」
「それは大変光栄なことです」
「ですから今度は私がヴィオラの力になりたい」
旦那様のエメラルドの瞳に吸い込まれそうです。
「で、では参りましょうか! 魔法管理局へ!」
動悸をごまかすように声を出します。
これは気の迷いというものです。
「ヴィンセントを出してくれ」
魔法管理局へ着くと、旦那様はやはりヴィンセント様をお呼びになりました。
「旦那様、ヴィンセント様はどこの家門の方なのですか」
「あぁ、ヴィオラにはしっかり紹介していませんでしたね。彼はアクステル侯爵家の次男です」
「いえ、わたくしの勉強不足でございます」
「ギルバートは覚えが早いと言っていました。これからですよ」
ヴィンセント様のことはこれからアクステル侯爵令息様とお呼びしましょう。
「どうしたんだい、イライアス。それに奥さんも」
「ここでは少し話しづらいことだ。人払いをしてくれないか」
「わかった」
アクステル侯爵令息様は奥の個室へと案内してくださいました。
「それで? 一体何があったの。また腕輪に異変でも?」
「いや、腕輪に問題はないのだが……」
旦那様が言い淀んでおられます。
「この前ヴィオラに魔法を使わせたのだ。あなたの話では私の魔力を注げばヴィオラにも魔法が使えるとのことだったから。そうすると」
「待って。あんまり聞きたくないかも」
「まずはあなたに聞いて判断してもらいたい」
アクステル侯爵令息様は耳に手を当てて聞きたくないアピールをしますが、観念して旦那様と向かい合いました。
「大体の想像はつくけど、どうしたって?」
「光属性の魔力だった」
「だと思った! またややこしい話を持ってきてさぁ」
「申し訳ございません、アクステル侯爵令息様」
「いや、奥さんは悪くないんだけどね? ちょ~っと僕のやることが増えちゃうだけなんだけどね」
「あなたに聞きたい。この場合、国に報告義務があるのかどうか」
「いやぁ、難しいところだよね。何しろ普段の奥さんは魔力なし。イライアスの魔力を注いで初めて発覚したわけだから。報告して保護したところで務めである治癒魔法は使えない。そりゃ報告するだけ無駄って思うよねぇ。でも」
アクステル侯爵令息様は真剣な顔をしてわたくしたちを見つめます。
「光属性の人間が存在することは報告しなければならないよ。例え魔法が使えなかったとしても」
「……そうか。わかった。すまなかったな、ヴィンセント」
旦那様は少々うな垂れて見えます。
国に報告するということがそんなに重要なことなのでしょうか。
「イライアス、まだ決まったわけではない」
決まるとは一体どういうことなのでしょうか。
「ヴィオラ、あなたにはこれから神殿へ向かってもらわなければいけません。そこで……判断をしてもらいます」
「判断とは?」
「あなたが国に保護される聖女であるのかどうか」
聖女。光属性の癒し手である女性たちのことだと本で読みました。
「わたくしが? その、保護されるというのは……」
なんだか嫌な予感がいたします。
「神殿に常駐し、人々に癒しを与えることになるということです」
「その、北部へ帰ることは」
「……できなくなります」
「嫌です。旦那様、わたくし神殿になど行きたくありません」
あぁわがままを言って旦那様を困らせてしまっています。
ですが嫌なのです。これからだって旦那様と北部で暮らしていきたいのに。
「私も、行かせたくはありません。ですが、規則です。光属性のものは……」
旦那様が唇をかみます。
そうしてわたくしを抱きしめました。
「どうしてヴィオラなのですか。また、私から奪おうというのですか」
震えていらっしゃいます。
わたくしを抱きしめる力が一層強くなりました。
「判断、してもらうのですよね? まだ、わからないのですよね。それなら希望はまだあります」
「希望……」
「そうです、旦那様。なんて言ったってわたくし、魔力なしで実家を追い出された女なのですから!」
半ば自分を鼓舞するようにそう言うと、ようやく旦那様はわたくしを離しました。
「あなたのその強さに、私は何度救われるのでしょうね」
旦那様は決心されたようです。
「神殿へ向かいましょう。そうして証明いたしましょう。私たちが離れることはないと」
ここが、神殿。荘厳な建物です。救いを求める方々の救済所だというのに、わたくしは戦いに向かう気分でございます。
「アクステル侯爵令息様からお話は伺っております。オールブライト公爵夫人はこちらへ」
「私も一緒に」
「なりません。聖女判定の儀に参加できるのは夫人のみです」
神殿で出迎えてくださった女性はぴしゃりと旦那様を拒絶しました。
「さぁ公爵夫人、参りましょう」
「旦那様、行って参ります」
「……信じています」
旦那様の迷子になったようなお顔を見ると、後ろ髪を引かれる思いですが。
証明して見せます。
わたくしはもう、北部の人間なのです。
魔力なしにできることはないと、はっきりそう言うのです!




