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16.旦那様の魔法

「ヴィオラ、あなたに私の魔法を見せたいのですが」

「いいのですか!」

  王城での夜会のあと、屋敷に戻ると旦那様が魔法を見せてくださると仰ってくださいました。

 魔法管理局で少し拝見しましたが、やはり旦那様の魔法が見たいです。

「今日はもう遅いので、明日にしましょう。待てますか?」

 旦那様はいたずらっぽく笑います。

 初めて見る表情に心臓が跳ねました。不意打ちは危険です。

「はい、楽しみにしております!」

 今日はなんだか眠れる気がいたしません。

 色々なことがありましたから、脳が覚醒状態ということもあるのでしょうが。

 旦那様の魔法はどのような魔法なのでしょうか。どのような魔法でも、きっととても美しいのでしょう。

 ベッドに入り目を閉じます。

 そういえばいつの間にか胸のもやもやが晴れています。

 あのもやもやは何だったのでしょう? 

 そんなことを考えているうちに眠気はやって来るのでした。


「訓練場で見せることにしますが、良いですか?」

「はい! 楽しみにしておりました!」

 とうとう旦那様の魔法が見られます。

「では」

 指の先から雪の道が空へと伸びていきます。

 それは形を変えてウサギになったり鹿になったりオオカミになったりします。

 とても綺麗で、楽しいです。

「旦那様の魔法は氷魔法だったのですね」

「えぇ。ただでさえ寒い土地なのにこのような魔法で。火属性の魔法なら幾分か役に立ったと思うのですが」

「そんな! 旦那様は北部をないしはこの国を魔物から守っているではありませんか。とても役に立って、そしてとても美しい魔法です」

「私の魔法が美しいと?」

「? とても綺麗ではありませんか」

「騎士団のものにしか魔法は見せたことがありませんでしたし、戦闘用ですので。そのように言っていただいたのは初めてです」

 胸がきゅうとなりました。

 旦那様のこの美しい魔法を見たのは、わたくしが初めて……。

 こんなに嬉しいことはありません。

「王都を雪だらけにするわけにはいきませんから、北部に戻ってからもっと大きな魔法を見せますね」

「楽しみがまた増えました!」

 北部でも旦那様の魔法が見られるなんて。

 とても贅沢をしている気がいたします。

「そうだ、ヴィオラ。ヴィンセントの言う通りなら、あなたも一時的に魔法を使えるはずですよ」

 魔法管理局の。

 ですがわたくしの器にはひびが入っているという話でしたよね?

「私が意図的にあなたに魔力を送れば、一時的ですが魔法が使えるはずです。やってみますか?」

 わたくしが魔法を……!

「はい! 是非お願いします!」

「それに伴って大変言いにくいのですが、ヴィオラの器に魔力を入れるにはより接近する必要があるといいますか」

「構いませんよ?」

「その……体を密着させる必要が」

 そ、れは。恥ずかしいなんてものではありません……!

 ですが魔法を使ってみたいのも事実です。

 恥ずかしいけれどやってみたいが数回頭を巡って。

「旦那様がよろしいのなら、お願いします!」

 やってみたいが勝ちました。

「いいのですね? では」

 旦那様はわたくしの背後に回りました。

 そうして後ろから抱きしめるようにして、わたくしの右手を取りました。

「今、魔力を流し込んでいます。体はつらくありませんか?」

「はい、何ともありません」

「流石ヴィオラですね。では、魔法を使ってみてください。そうですね、ヴィオラは初めて魔法を使うのですからイメージがあったほうが良いかもしれません」

 なるほど。確かに魔法を使うといっても何をどうしたらよいのか全く分かりません。

「そうですね。先ほど私が作ったようにウサギの形をイメージしてみましょうか」

 あの綺麗な雪ウサギ。それならイメージできそうです。

「やってみます」

 旦那様がやっていたように指先から道を作るようなイメージで。

 シュル――。

 金色の光が指先から走り出して、ウサギが跳ねます。

「ヴィオラ、あなた……」

「旦那様! できました! ウサギです!」

 嬉しくて旦那様を見上げると、驚いた顔をした旦那様と目が合いました。

「どうかされましたか? 何か良くないことでも……?」

「いえ、魔力を送っても私の魔法が使えるということはないのです。属性が違う可能性がありますからね。ヴィオラの属性は何かと思っていたら……」

 魔力なしにも属性ってあるのでしょうか。

「あなたはこの国に数人しか存在しない光属性のようです」

 旦那様は難しいお顔をされています。

「光属性は何か良くないことでもあるのですか?」

「何しろ数が少ない上に治癒魔法が使えるので、国に登録しなければならないのです」

「ですがわたくしはそもそも魔力なしですから。今日までわからなかったことですし、登録しなくてよいのでは?」

 誰も知り得なかったことですし。これからも知る人はいないでしょうし。

「そうもいきません。ひとまず、王都にいる間にもう一度魔法管理局へ行きましょう。ヴィンセントに相談してから後のことは考えましょう」

 魔法を使ってみたかっただけでしたのに、なんだか大事になりそうです。

 

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