15.嫉妬
王城で開かれる夜会にヴィオラと参加し、初めて彼女とダンスをした。
何度か足を踏まれたが、その度にあわあわとする彼女が可愛らしくてそれだけで幸せな気持ちになれた。
だが、すぐにほかの令嬢に囲まれてしまう。
ヴィオラの傍にいたいのだが、ダンスの誘いを断るのはマナー違反。
仕方がなくダンスホールへと戻るしかない。
それからしばらくダンスの誘いはやまなかった。
――早くヴィオラの元へ戻りたい。ヴィオラはどうしているだろうか。
踊りながら会場内を見渡す。ヴィオラの姿が見えた。
安心したのも束の間、アルヴィン・エインズワースが彼女にダンスを申し込んでいるではないか。
ヴィオラは躊躇いつつもその手を取っていた。
――あぁ腹が立つ。エインズワース。私のヴィオラに。
さらに腹が立つのは、私よりリードがうまいこと。私がゆっくり教えていこうと思っていたところを掻っ攫われた気分だ。
ヴィオラが楽しくなさそうなのが救いであるが、今日の彼女はどこか元気がない。
いつも底抜けに明るいからか、それが際立っている。
今すぐにでも彼女の元に行きたいのだが、令嬢たちの列がそうさせてはくれない。
あぁ貴族というのは本当に面倒くさい。
妻の元へ向かうのにこんなにも時間がかかるなんて。
そうこうしているうちにヴィオラとエインズワースのダンスが終わったようだ。
しかし、エインズワースはなかなかヴィオラの傍から離れようとしない。
――どういうつもりだ。
よもや口説いているわけではなかろうな。
やきもきしているうちにヴィオラがバルコニーへ出た。
ちょうど令嬢の列も落ち着きだした。
――ようやくヴィオラの元へ行ける。元気がないのが気になる。
「……」
ヴィオラの後ろ姿が震えているように見えた。
「ヴィオラっ!」
ヴィオラが振り向く。泣きそうな顔で。
「ヴィオラ、何があったのです。エインズワースに何かされましたか……!?」
「いいえ、何もされておりません」
ヴィオラはそう答えたが。
「ではどうして、泣きそうなんです……?」
「それは……どうしてでしょう?」
自分でも戸惑っているように見受けられる。
何が彼女を不安にさせているのだろうか。
すると、彼女の菫色の瞳から雫が零れた。
「――!」
「す、すみませ――」
思わずヴィオラを抱きしめる。
泣いて良いのだと、きっと涙を流すこともなかった彼女の泣ける場所でありたいと。
「旦那様?」
胸元からヴィオラの声が響く。
「はい、なんでしょう」
抱きしめたまま応えれば。
「びっくりしすぎて、涙が止まりました」
あぁ、いつもの彼女だ。
安心して笑いが零れてしまった。
あなたに泣いてほしいとも思う。けれどやはり、笑っていてほしい。なんの憂いもなく。
今、ヴィオラが私の腕の中にいる。
少しの間だけでいい。抱きしめていたい。
腕の力を強めると、ヴィオラの体が強張るのを感じる。
「だ、旦那様?」
「はい、なんでしょう?」
「あ、あの。なんで先ほどより力が強くなっているのです……!」
あぁ。どぎまぎしている彼女も愛おしいが、流石に解放してあげないと。
腕の中から解き放たれたヴィオラは耳まで赤くしている。
――恋情とはこういう気持ちなのだろうか。
妻を娶るとも思っていなかったし、妻に恋をするなどとは夢にも思わなかった。
「国王陛下に謁見して帰りましょうか」
「はい……!」
ヴィオラは緊張の面持ちで私の腕を取る。
「そこまで気負わずにいてよいですよ。挨拶するだけですから」
国王陛下に謁見する。
「国王陛下に挨拶申し上げます」
「国王陛下に挨拶申し上げます」
国王陛下と言っても伯父上である。私にとっては親戚と会うだけなのだが、ヴィオラは緊張してしまっている。
少しでもほぐれるようにと、手を握ってみた。
びくり、とした後に肩の力が抜けたようだった。
「貴殿がイライアスの妻か」
「はい。ヴィオラ・オールブライトと申します」
「貴殿のおかげのようだな。イライアスのそのような顔は初めて見る。伯父として感謝する」
「そんな、恐れ多いことでございます」
「そんなことはない。これからもイライアスともに息災に過ごしてほしい」
「もったいないお言葉、感謝いたします」
緊張していた割に受け答えは堂々としていて、やはり肝が据わっているのだと惚れ直してしまった。
「お疲れさまでした」
「緊張しました……今どっと疲れが……」
「今、飲み物をお持ちしますね」
「ありがとうございます、旦那様」
飲み物を取りに席を外す。
アルコールの入っていないものを選んで戻る途中。
「お姉さまのくせに――!」
エバンス伯爵令嬢がヴィオラに果物ナイフを振り上げるのが見えた。
ヴィオラの背後だ。ここからだと間に合わない――!
「フェリシテ、ナイフの持ち方がなってませんね」
背後を取られたはずなのに、ヴィオラはエバンス伯爵令嬢の腕をひねり上げて床に伏せた。
「ナイフはこう持つのですよ」
令嬢の手からナイフを抜き取り、持ち直して令嬢の首筋にすっと当てた。
令嬢は青ざめている。
「は、放しなさいよ。魔力なしの分際で私に触れないで!」
暴れる令嬢を片手で制している。
「ヴィオラ、大丈夫か!」
「はい、旦那様」
「衛兵を呼べ」
令嬢を取り押さえる役を代わる。
「何の騒ぎだ」
人だかりができてしまった。
この騒ぎでエバンス伯爵家は評判を落とすだろう。最悪取りつぶしか。
ヴィオラの実家とはいえ、彼女を虐げた家門だ。どうなろうが構いはしない。
「お姉さまの分際で……!」
まだ言うか。
「お前ごときがヴィオラに近づくなと言ったはずだ。沙汰は追って知らせる」
これ以上ヴィオラをこの場に居させたくはない。
「屋敷に帰りましょう、ヴィオラ」
屋敷でヴィオラに私の魔法を見せよう。
無性に彼女の笑顔を見たい。




