40日目:配給戦線異常あり
「こうなっちまうなんてな、委員長。」
夕暮れの教室に、男女が二人きり。これだけを見れば告白をする直前のロマンチックな情景だが、なにやら二人の間の空気は緊迫していた。
部屋の隅に追い詰められた芥は、美月に銃口を向けられていたのだ。
「これでおしまいね、芥君。あなたとの時間、楽しかったわ。」
美月はためらうことなく引き金を引いた。
・・・
さかのぼること数時間前。
学園前哨基地は未曽有の危機にさらされていた。
「今日の配給が届かない!?」
弓波の大声が司令室にとどろいた。
「落ち着いてちょうだい。再配給のめどはついているわ。ただ今日の分の食料が不足してしまうのよ。」
「えっと、後方で混乱があったんですよね?」
「暴徒が暴れたせいね。それで配給車が襲われたのよ。」
「うわ、マジ最悪だし。」
「他の人に怪我はなかったのですの?」
「幸いなことにけが人は数人程度でいずれも軽症。小規模な暴動だったそうよ。すでに鎮圧されているわ。」
「怪我をされた方の無事をお祈りいたしますわ。」
「も~、お嬢優し~。」
うりうり~。と、向坂は西園寺に抱き着いた。
「もう!くすぐったいですわ!やめてくださいませ。」
そう言いつつも西園寺は笑っていた。互いにじゃれているのだろう。
「話を元に戻すわよ。本日の配給がない以上、今日の夕飯は探索の成果にかかっているわ。今日の勉強会は無しにして、その分探索に時間を当てましょう。保存食を優先的に探してきてちょうだい。総員出撃!」
了解!とパイロット4人の声がそろう。とくに弓波は勉強会がなくなったおかげか、声が弾んでいた。
・・・
場所は変わって、大型スーパー跡。
4機で周囲の警戒をこなしながら、一行は今日の夕飯を探していた。
「う~ん、なあ芥、ペットフードって食えるのかな?」
「おい待てやめろ、人間をやめるな。」
「って、おいおい冗談だよ。」
「一瞬マジかと思ったじゃねえか・・・。」
「なかなか見つかりませんわね・・・。」
「こういう時は、お嬢!お嬢の豪運にあやかろう!」
「どういうことだ?」
「お嬢は幸運の星の下で生まれたんだよ。昔から運だけはいいんだよね。」
「えっへん、ですわ!」
「うわー、うさんくせー。」
「まあ見てなって、お嬢、なんかいいなってところに行ってみてください!」
「任されましたわ!」
え~と、と西園寺の乗る零林が移動する。
「ここでもない・・・、ここでもない・・・、ここ?」
「よっし、みんな!ここ掘れわんわんタイムっしょ!」
「ほんとに大丈夫なのか?」
「まあいいだろ、一回ぐらい付き合ったって。」
4機は西園寺が指定した場所を掘り出した。すると・・・。
「おい見ろ!缶詰だぜ!しかも大量にある!」
「ウソだろ・・・!」
「見たか!お嬢の豪運を!」
「えっへん、ですわ!」
「モンスターが来る前に早く回収しよう。」
「だな、コンテナに詰め込んじまえ。」
こうして大戦果を挙げた一行は、ウキウキ気分で基地に帰投した。
・・・
「まさかそんなことがあったなんて・・・。」
司令室で報告を聞いた美月は、一瞬驚いたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「まあいいわ。西園寺さんの活躍のおかげで、今日の夕飯は心配しなくていいわね。」
「それが、その~。」
「どうしたのかしら、元宮さん。何でも言ってくれて大丈夫よ。」
「その、パイロットの皆さんが揉めていて・・・。」
「・・・何ですって?」
・・・
格納庫、彼らは帰投したにもかかわらず、いまだにパイロットスーツを着ていた。
「だ~か~ら、公平にじゃんけんで決めようって言ってんじゃん!」
「いや、そしたら西園寺が勝つだろ。ここはひとつ模擬戦でだな。」
「弓波さんが有利すぎませんこと?ここはあみだくじで!」
「・・・みんなで仲良く分けるに一票。」
「「「それだと量が少ない(ですわ)!」」」
「ふえ~ん、女子たちがおっかないよ~。」
あまりにも残念なその惨状を見た美月は、脱力してしまった。
「何をしているの、あなたたち・・・?」
「あ、委員長、聞いておくれよ。みんなが牛缶を巡って争ってるの。やめて、牛缶のために争わないで!」
牛缶、牛肉のしぐれ煮は、甘さとうまさ、その二つを兼ね備えた今のご時世では手に入りにくい超高級品だ。お嬢様の西園寺でもめったに食べられないほどだ。
「・・・状況は理解したわ。もう、じゃんけんでいいんじゃないかしら?」
「なんとなくで大量の缶詰を見つけた西園寺相手に、運の勝負をしたくねえよ!」
弓波が吠える。すると美月は、少し考えてから代案を提示した。
「なら運も実力も必要とされるもので決着をつけましょう。それは・・・。」
「「「「それは?」」」」
・・・
「まさかのサバゲーかよ・・・。」
ゴーグルをつけた芥はひとり呟いた。スタート地点の校庭の端で、開始時刻を待っていた。
「使用するものは、ペイント弾の入ったハンドガンのみ。まあ、これなら安全か。」
ゲーム開始の鐘が鳴る。芥はさっそく校舎に向かって姿勢を低くして走り出す。
訓練学校時代の訓練が実を結んでいた。
「こんな遮蔽物のないところじゃな・・・。」
さっそく校舎内に入り、索敵を開始する。廊下を慎重に移動し、人の気配がないかを探る。
・・・人はいない。サバゲーの範囲は、校庭と校舎内だけだ。格納庫は含まれていない。
「いや、結構広いよな?」
「マジそれな。」
「うわっ!」
急いで振り向くと、向坂に背後を取られていた。芥はあわてて銃口を向ける。
「ちょちょ、ちょい待ち!一っち、あたしと組まない?」
「俺と?」
「そ。奈保っちと美月っちを倒すまでの共闘関係。悪い話じゃないと思うんだけどな~。」
「・・・この同盟に意味はあるのか?」
「うん。一っちはみんなで分ける派でしょ?あーしはお嬢の口に牛缶が入ればいいから同じく分ける派。でも奈保っちは独占派で、美月っちはわからない。だから組むことができない。」
「西園寺と組めばいいんじゃないか?」
「あははー、それがさ、三十六計逃げるに如かずですわ!っていって、今お嬢がどこにいるかわからないんだよね。」
「おいおい・・・。」
「てなわけで安牌な一っちと組みたいな~って、美少女ギャルのあーしは考えたわけですよ。」
「自分で美少女とか言ってるよ。」
「ん?かわいかろ?」
きゅるん、と擬音が聞こえてきそうなあざといポーズをとる向坂。
元の素材の良さもあり、ドキッとしてしまった芥。ごまかすように話を逸らす。
「ん、ごほん!まあいい、同盟成立だ。それで、これからどうする?」
「まずは、索敵からだね~。先に見つければ有利だし。基本に忠実に行こうよ。」
「了解。」
「おっと、そうは問屋が卸さねえぜ!」
瞬時にその場を離れる芥と向坂。そのすぐ後にペイント弾がさっきまで二人がいた場所に撃たれた。
階段の踊り場には、仁王立ちの弓波と頭を抱えた美月がいた。
「弓波さん、今の場面は黙っていればどちらかを撃破できたわよ。」
「あっ。」
「・・・今気づいたのね。」
考えうる限り、最悪の二人が組んでいた。一人はフィジカルお化けの弓波、壁を走ることや、立体機動ができる。もう一人は指揮官の美月。頭脳・身体能力、ともに高水準。訓練学校首席になっただけはあるスペックの持ち主だ。芥たちは小声で話し合う。
「一っち、二手に分かれよう。さすがにあの二人を同時に相手にするのはマズい。」
「同感だ。二人に追われても恨むなよ?」
「わかってるって、せーの。」
ドン!芥と向坂は二手に分かれた。
「あっ、くそ、待て!」
「弓波さんは、向坂さんを、私は芥君を追いかけるわ。」
「わかった!」
こうして美月たちも二手に分かれ、芥たちを追うことになった。
・・・
「待ちなさい!」
「へへっ、捕まえてみろってんだ、とっつぁん!て、うわ、はやっ!」
芥と美月は追いかけっこをしていた。時に階段を駆け上がり、時に窓から飛び降り、時には掃除用具入れのロッカーに隠れたりした。その最中、けん制のためにペイント弾を討つことも忘れていなかった。ただし、脚力は美月に軍配が上がっている。このままでは捕まる、そう考えた芥は空き教室に入った。
「追い詰めたわよっ!」
ペイント弾が教室に入ってきたばかりの美月のほうへ飛んでくる。美月は身をよじることで何とか回避した。
「これも避けるとか、委員長も大概だよな・・・。」
芥が引き金を引く。
しかし玉は出てこない。
「また玉切れかよ・・・。」
「撃った弾数は、ちゃんと覚えておきなさい。」
確実に当てるために、美月は芥のほうへ距離を詰める。
「ああ、ちゃんと覚えているぜ。あと一発残ってるってこともな!」
その瞬間、芥は引き金を引いた。最後のペイント弾が駆け抜ける。
「言った側が、実行できてないと思ったのかしら?」
美月は難なく最後のペイント弾を避けた。
「・・・マジか。」
「あなたが撃った弾数も、私は数えていたのよ。さっきの引き金を引いたのがブラフだということもすぐにわかったわ。」
芥は、それでもあきらめないというまなざしで、美月を見つめる。
「こうなっちまうなんてな、委員長。」
夕暮れの教室に、男女が二人きり。これだけを見れば告白をする直前のロマンチックな情景だ。しかし、二人の間の空気は緊迫していた。
「これでおしまいね、芥君。あなたとの時間、楽しかったわ。」
実際、彼女は久しぶりに本気を出して走ったのだ。何かに追われるわけでもない。ただ純粋な競技でだ。楽しかったのは本心だろう。
美月はためらうことなく引き金を引いた。
・・・
「うっ~す、お疲れ~。」
「おっつー!」
「お疲れ様ですわ。」
芥たちのいた教室にペイント弾のペイントが付着した弓波と向坂、そしておなかと背中にペイントが付着した西園寺が入ってくる。胴体にペイントが付着した芥が、悔しそうにうなだれていた。
誰が勝者で、誰が敗者かは一目瞭然だった。その様子を見た弓波と向坂は感想を漏らした。
「まあ、こうなるわな。」
「賭けになんなかったね~。」
「みんな、お疲れ様。どうやら勝者は私のよう」
美月が言い切る前に、彼女の背中にペイント弾が当たった。
撃ったのは西園寺だった。
「えっと、お嬢?負けたからって、そういうのは無しっしょ?」
「おいおい西園寺、スポーツマンシップに反するぜ。」
西園寺が勝ち誇った顔で言い放った。
「ふっ、ふっ、ふっ。私は誰にも撃たれていませんわ!」
全員の頭に疑問符が浮かぶ。
「私を撃ったという方、挙手してくださいませ。」
誰も手を上げない。美月と向坂の顔が驚きに染まる。
「まさか、この時のためにわざと自分で自分を撃ったというの・・・?」
「お嬢がその作戦を思いついたの!?」
「ちょうど昨日見たサバゲーのマンガのパクリですわ!」
「「いや、マンガかよ!」」
芥と弓波の声がはもる。
「今度から、偽装するのはなしというルールを設けたほうがよさそうね・・・。」
勝者は決まった。あとはお楽しみの時間だ。
・・・
夕食時、食堂。そこには数々の料理が並べられていた。今日発見した缶詰を使った料理の数々だ。
皆が向坂の料理に舌鼓をうつ中、西園寺は一人、牛缶と白米とで悦にひたっていた。
「ご飯が、ご飯が止まりませんの!これは新手のスタンド攻撃ですわ!」
「お嬢~、お野菜も食べてね。それだけだと栄養バランスが偏っちゃうから。」
「なんか、すっげー敗北感。」
「言うな、弓波。悲しくなるだろ。」
「ほかのお料理もおいしいわよ。楽しみましょう。」
こうして配給トラブルからのひと騒動は幕を閉じた。
後日カニ缶が発見されたとき、再びサバゲーが開催されたが、西園寺は真っ先に狙われたという。
ペイントまみれのお嬢様が、そこにはいた。
・・・
次回予告!
ついに第三世代機体が学園前哨基地に配備される!浮かれるパイロットたち。はたしてその真価は!?模擬戦の幕が上がる!
次回、サバイバル・ロボットマーチ 50日目 第三世代機体配備
新しいものはいつも人の目を引きますね、ご友人。
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