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6

夜、野営地の天幕で眠りについた私は、いつもの夢の庭園へと落ちていった。


でも。

今夜の庭園は、いつもと少し様子が違った。


彼の顔が、いつもより険しい。テーブルの上には、広げた地図のようなものがあり、彼はそれを私が来るまで見ていたらしかった。


「どうしたの?」

「……君が心配で眠れなかった」

「眠れなかったって、ここは夢の中なのに」

「揚げ足を取るな。今日はどうも落ち着かなかったんだ」

「私が前線に行ったから?」

「……情報が入る立場にある」と彼は歯切れ悪く言った。

「アルベニアの聖女が、国境付近の野営地に向かったと。それを聞いて妙に胸が騒いだ」


私は、彼と何度も夢で会う中で、自分が訳あって神殿で働いていることを伝えていた。

私はぽかんとして、彼の顔を見つめた。


「……情報が入る立場? あなた、そんなに偉い人なの?」

「さあな」

彼は視線を逸らした。

その仕草が、珍しく子どもっぽくて、私は思わず笑ってしまった。


「笑うな」

「ごめんなさい。でも、あなたがそんな態度を取るのが珍しくて」

「……がっかりしたか」

「いいえ?」

「…………」


彼はしばらく黙って、それから小さく息を吐いた。

「……無事でよかった」


その一言が、すとんと胸に落ちた。


「うん。今日はちょっとしんどかったけど……頑張れた」

「頑張りすぎるな、と言いたいが——君がそういう性格だということは、もうわかっているから、言っても無駄だろうな」

「知ってるじゃない」

「君のことなら、だいぶわかってきた」


彼は苦笑して、私のカップに紅茶を注いだ。

「今夜は、ゆっくりしていくといい。君は今日、よく働いた」

「……ありがとう」


私はカップを両手で包むように持ち、湯気の向こうにいる彼を見つめた。


銀の髪が、月明かりの中で白く輝いている。

(この人は、いったい何者なんだろう)

その問いは、毎晩のように胸に浮かぶ。

でも聞けない。聞いたら、私も自分のことを話さなければならなくなる。


——私が「偽の聖女」だとわかったら、彼はどう思うだろう。


「どうした?」

「……え?」

「今、何を考えていた? 難しい顔をして」

「……秘密」

「私に秘密か」

「あなただって、いっぱい秘密があるでしょ」

「……それはそうだが」


彼は少し複雑そうな顔をして、それから静かに言った。

「いつか、全部話せる日が来るといいな」

「——うん」

私は頷いた。


いつか。

その「いつか」が、本当に来るといいと思いながら。

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