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夜、野営地の天幕で眠りについた私は、いつもの夢の庭園へと落ちていった。
でも。
今夜の庭園は、いつもと少し様子が違った。
彼の顔が、いつもより険しい。テーブルの上には、広げた地図のようなものがあり、彼はそれを私が来るまで見ていたらしかった。
「どうしたの?」
「……君が心配で眠れなかった」
「眠れなかったって、ここは夢の中なのに」
「揚げ足を取るな。今日はどうも落ち着かなかったんだ」
「私が前線に行ったから?」
「……情報が入る立場にある」と彼は歯切れ悪く言った。
「アルベニアの聖女が、国境付近の野営地に向かったと。それを聞いて妙に胸が騒いだ」
私は、彼と何度も夢で会う中で、自分が訳あって神殿で働いていることを伝えていた。
私はぽかんとして、彼の顔を見つめた。
「……情報が入る立場? あなた、そんなに偉い人なの?」
「さあな」
彼は視線を逸らした。
その仕草が、珍しく子どもっぽくて、私は思わず笑ってしまった。
「笑うな」
「ごめんなさい。でも、あなたがそんな態度を取るのが珍しくて」
「……がっかりしたか」
「いいえ?」
「…………」
彼はしばらく黙って、それから小さく息を吐いた。
「……無事でよかった」
その一言が、すとんと胸に落ちた。
「うん。今日はちょっとしんどかったけど……頑張れた」
「頑張りすぎるな、と言いたいが——君がそういう性格だということは、もうわかっているから、言っても無駄だろうな」
「知ってるじゃない」
「君のことなら、だいぶわかってきた」
彼は苦笑して、私のカップに紅茶を注いだ。
「今夜は、ゆっくりしていくといい。君は今日、よく働いた」
「……ありがとう」
私はカップを両手で包むように持ち、湯気の向こうにいる彼を見つめた。
銀の髪が、月明かりの中で白く輝いている。
(この人は、いったい何者なんだろう)
その問いは、毎晩のように胸に浮かぶ。
でも聞けない。聞いたら、私も自分のことを話さなければならなくなる。
——私が「偽の聖女」だとわかったら、彼はどう思うだろう。
「どうした?」
「……え?」
「今、何を考えていた? 難しい顔をして」
「……秘密」
「私に秘密か」
「あなただって、いっぱい秘密があるでしょ」
「……それはそうだが」
彼は少し複雑そうな顔をして、それから静かに言った。
「いつか、全部話せる日が来るといいな」
「——うん」
私は頷いた。
いつか。
その「いつか」が、本当に来るといいと思いながら。




