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その三ヶ月は、怒涛のような日々だった。
私は偽者の聖女として、できる限りのことをした。
怪我人の治療。感染症の予防のための衛生指導。孤児院や貧困地区への医療的なサポート。これらは、神聖魔法なしでも、確かに人の役に立てることだった。
ルカスが、熱心な助手になってくれた。
「聖女様、この薬草の使い方は、どの聖典にも書いていませんが……」
「ルカス、私は聖典ではなく経験で動いているの。わからないことがあったら、理由を説明するから、それで納得できるか考えて」
「……はい。そのような姿勢で学ぶことが、本当の意味での信仰かもしれません」
「大げさよ」
「いいえ、真剣に言っています」
ルカスは真面目な顔でそう言って、熱心にメモを取った。
私はその後ろ姿を見ながら、この世界で出会った人たちのことを思った。
メルセデス。リュシアン。ヴァルデ。ガルウィン。ルカス。そして、ヴィル。
この人たちと出会えたことは——本物だ。
それは、偽者の聖女が積み上げてきた、本物のつながりだった。
*
三ヶ月の間も、毎夜夢の庭園でヴィルと話した。
互いの世界のこと、これからのこと、交渉の進み具合、些細な日常のこと。
「今日、ルカスが薬草の分量を間違えて、患者に三倍の量を飲ませそうになって」
「それは大惨事だな」
「あなた笑ってるでしょ」
「笑っていない」
「耳が赤い」
「…………」
「可愛い」
「——その言葉はやめろ」
「どうして?事実なのに」
「魔王に可愛いなど……」
「魔王様が可愛いって、確かにちょっと変ね」
「変で結構だ」
こんな他愛のない会話が、私の毎日の支えになっていた。
「……ねえ、ヴィル」
「何だ」
「次の交渉、うまくいくと思う?」
「わからない。だが——」
「うん」
「今回の交渉は、単なる政治的取り決めではないと、私は思っている」
「どういう意味?」
「初めて、双方が——相手の目を見て話した。それだけで、百年分の何かが、少し変わった気がしている」
「……私もそう思う」
「だから、次も——できると思う」
私はカップを両手で包んで、夜空を見上げた。
「ヴィル、次の交渉が終わったら——どうなるの、私たち」
「……どうなりたいと思う?」
「私に全部答えさせないで」
「では、私から言おう」
ヴィルはカップを置いて、私の方を真っ直ぐに見た。
「交渉が終わったら——現実で、もう一度会いたい。交渉の席ではなく、もっと違う場所で」
「どんな場所?」
「どこでもいい。野原でも、街角でも。ただ、君と話したい」
「……夢の外で」
「そうだ。夢の外で、君の声を聞きたい」
私は、温かいものが目の奥に集まってくるのを感じた。
「うん」と私は言った。
「私も、そうしたい」




