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中立地帯に選んだのは、アルベニアと魔王軍の支配地域の中間にある、廃墟の小さな礼拝堂だった。
アルベニア側からはリュシアン王太子と、護衛五名。
魔王軍側からは——。
馬が近づく音が聞こえ、私の心臓が跳ね上がった。
リュシアンが緊張した面持ちで見つめている。
護衛の騎士たちの手が、剣の柄に置かれた。
馬が止まった。
ローブを纏った人物が降り立った。
顔が見えた瞬間、呼吸が一瞬止まった。
銀の髪。深い紫の瞳。
——ヴィル。
「魔王軍を代表し、ヴィルヘルム・ヴォルフが参じた」
その声は、夢の庭園で何百回も聞いた声だった。
でも今は——現実に、確かに存在していた。
「……アルベニア王国王太子、リュシアン・アルベニアです」
リュシアンが一歩前に出た。
私は二人の間に立ちながら、鼓動が早まるのを感じた。
ヴィルの視線が、私の上で止まった。
目が合った。
言葉はなくても、気持ちはつながった。
「……提案する」とヴィルは言った。
「互いに武器を置き、テーブルについて、まず話し合うことを」
「同意する」とリュシアンが言った。
礼拝堂の中で、二人は向かい合った。
私はその場に立ち会いながら、自分が奇妙に静かな気持ちでいることに気づいた。
ずっと怖かった。バレることが。偽物とわかることが。壊れることが。
でも——ここまで来てしまえば、怖くなかった。
ただ、目の前のことを、一つずつやるだけだ。




