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翌日から、状況は急速に動き始めた。
リュシアン王太子は、ヴァルデ大神官と軍の主要将官を集め、私の告白の内容を共有した。
私は覚悟していた。
糾弾されること、処罰されること、あるいは追放されること。
でも、起きたのはそのどれでもなかった。
「——魔王軍との交渉ルートを持っているという、その情報源は誰か」
ヴァルデ大神官が静かに聞いた。
「……お教えすることは、今の段階では難しいです」
「……では、その情報源が——直接交渉の席に着ける可能性は?」
「可能性は、あると思います」
「カオリ殿」とリュシアンが言った。
「貴女が偽者の聖女であることは——この場に集まった者だけが知ることとする」
「……え」
「国民にとって、聖女の降臨という事実は変わらない。貴女がこれまで行ってきたことは、確かに人の命を救ってきた。その事実を否定する必要はない」
「でも、私には聖なる力が——」
「ない。それはわかった。だが——」
リュシアンは珍しく、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「貴女には、知恵と、勇気と、前線で泥水を浴びながら人を救う覚悟がある。それは、聖なる力と呼んでもよいのではないか」
私は、唇を固く結んだ。
泣くわけにはいかない。でも、目の奥がじんとした。
「……大神官はどう思う」
「私は」とヴァルデは静かに言った。
「長年、本物の聖女を待ち望んでおりました。しかし——考えてみれば、神が遣わす者の形が、我々の想像と一致する必要はないかもしれない」
「…………」
「あなたが、神に選ばれたかどうかは私にはわかりません。ですが、あなたがここに来て、人を救ったことは——事実です。その事実の前では、私の神学的な懸念は、些細なことかもしれない」
私は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「さて」とリュシアンが言った。
「魔王軍との接触について、具体的な話を聞かせてもらえるか、カオリ殿」




