13
翌朝、私はリュシアン王太子に謁見を申し込んだ。
「聖女自ら、ですか」
侍従は驚いたが、すぐに時間を取ってくれた。
謁見の間に入ると、リュシアンは玉座に腰かけ、いつものように鋭い目で私を迎えた。
「何用か、聖女」
私は、一度だけ深呼吸をした。
「——私は偽物です」
静寂が落ちた。
「……何?」
「私はアルベニアの大聖女ではありません。神界から遣わされた存在でもありません。神城香織、二十六歳。別の世界から迷い込んだ、ただの人間です」
リュシアンの表情が、能面のように固まった。
「神聖魔法は使えません。聖典を完全には読めていません。これまで行ってきた「奇跡」は全て、私が持っていた医療の知識と、現場での判断によるものです」
「……」
「国民を欺いていたことは、謝ります。でも、私のしたことは——嘘でも奇跡でもなく、本当に人の役に立てると信じてやったことです」
私は頭を下げた。
長い、長い沈黙があった。
「顔を上げよ」
リュシアンの声は、感情を殺した、静かな声だった。
「……一つ聞く。貴女は、なぜ、これを話した」
「嘘の上に立ち続けることが——耐えられなくなったからです」
「耐えられなく、なった」
「はい。ソルティアでの一件の後、ヴァルデ大神官が気づき始めているのを感じました。それだけではなく——私自身も限界を感じました。そして、正しい形で皆さんと向き合いたいと思い直したからです」
「……なぜ、今この時期に」
「今でなければ、もっと多くの人が傷つく可能性があったからです」
「もっと多くの人が、とは」
私は一瞬迷って、それから言った。
「魔王軍との戦いのことです。このまま戦闘が続けば、双方に犠牲が増えます。でも——交渉の余地があるかもしれない、と私は思っています」
リュシアンの目が、細くなった。
「……聖女は、魔王軍と接触したのか」
「……情報を持っています」
嘘ではない。夢の中での話、とは言えないが。
「——しかし、貴女が偽者であれば、その情報の信憑性も」
「それは、王太子殿下がご判断ください。私は事実をお伝えするだけです」
もう一度、沈黙があった。
リュシアンは玉座から立ち上がり、窓の外を見た。
「……ヴァルデ大神官は知っているか」
「いいえ。まず、殿下にお話しすべきと思いました」
「なぜ私に」
「あなたが——一番、公平に判断してくださると思ったから」
リュシアンは、少しだけ目を瞬かせた。
それから、再び私の方を向いた。
「聖女——いや、カオリ殿」
「はい」
「貴女は今、私に処断されるかもしれないとわかった上で、この告白をしたのだな」
「もちろんです」
「……なぜ」
「正しいことを、しなければならないから。聖女として扱ってくださった皆さんのために」と私は言った。
「それだけです」
リュシアンはしばらく私を見て、それから小さく息を吐いた。
「——聞かせてもらおう。魔王軍との交渉の可能性を、貴女はどのように考えている」
私の心臓が、大きく跳ねた。
話を——聞いてもらえる。




