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ソルティアから王都に戻ると、大神官のヴァルデ卿が待ち構えていた。

「聖女様、少々よろしいですか」

いつもの笑顔だったが、その目は笑っていなかった。

私は覚悟を決めて、神殿の奥の部屋に進んだ。


「ソルティアでの一件、誠にご立派でございました」とヴァルデは言った。

「ですが、私が確認した限り——聖女様は一度も、神聖魔法をお使いになっていない」

「……祈りの力は、常に見えるとは限りません」

「確かに。ですが」


ヴァルデは書類を一枚、私の前に置いた。

「これは、百年前の大聖女が使ったとされる神聖魔法の記録です。光の柱、天の声、浄化の波動——いずれも目に見える形で発現しております。しかし、聖女様の御業はといえば……病める者に直接触れ、薬草を用い、作戦を立案される。これは」


「——医術と、知恵と、経験」と私は言った。


ヴァルデが目を細めた。

「左様。これは聖女様の行動ではない」


沈黙が落ちた。


「……私は聖女ではないとおっしゃりたいですか」

「いいえ。聖女様が降臨されたことは事実。ただ、その性質が——従来の聖女像とは異なるのではないかと」

私は額に手をあてて言った。

「……今は、少し、休ませてもらえませんか」

「もちろんでございます」

ヴァルデは静かに頭を下げた。


部屋を出た私は、廊下の壁に背中を預け、天井を見上げた。


時間の問題だと思っていた。

でも、思ったより早かった。


*


その夜、私は夢の庭園でヴィルに全てを話した。


「私は本物の聖女じゃない。この世界に迷い込んだ、ただの看護師。力は持っていない。ただ、医療の知識があっただけ」


ヴィルはしばらく沈黙していた。

「……知っていた」

「え?」

「正確には——薄々、感じていた。君の話す「仕事」は、いつも医療的だった。傷の洗浄、感染の予防、患者の状態確認——これは聖なる奇跡の言葉ではなく、実務者の言葉だ」

「……知ってて、何も言わなかったの?」

「君が言いたい時に言えばいいと思っていた。それに」とヴィルはわずかに表情を緩めた。


「聖なる力があろうとなかろうと、君は人を助けた。それは事実だ」

「でも、嘘をついてた」

「私も、嘘をついている」

「……え?」

彼は静かに、庭園の端の方を見た。黒ずんだ影は、今夜も少し大きくなっている。


「私の「親戚の争い」というのは——本当はそういう話ではない」

「うん」

「私は……魔王軍の指揮を執っている」


世界が、止まった気がした。


「——魔王」

「そうだ」とヴィルは言った。その声は静かで、嘘だとは、思えなかった。

「私がヴィルヘルム。魔王軍の王、ヴィルヘルム・ヴォルフ。アルベニア王国が最も打ち倒そうとしている、相手——それが私だ」

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