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帳簿の上で死ぬ日

 死の砦に送られた者たちが、「帳簿の上で」死ぬ日がある。



 今日が、まさにその日だった。



 朝一番で書記官から渡された書類の束には、赤い糸で印がつけられている。

 その一束は、他のどの報告よりも重く、どの依頼書よりも静かだった。



(死の砦・第七次調査隊——)



 表紙にそう記されている。



 正式名称は別にある。

 だが、ギルド内部でこの任務を“本当の名前”で呼ぶ者はいない。



 地下研究施設の廃墟。

 かつて人と天使族が結んだ契約を、一方的に反故にした場所。

 怒りを買い、残されたものをごまかすために上から砦を建て、

 その隠蔽のうえにさらに「調査」という名目の封印を重ねた。



 砦に関わった者は、すべて闇に封じる。

 ——それが、国家の決定であり、ギルドの役割だった。



 リリアン級の者には知らされない。

 正規騎士団にも共有されない。

 書類上はただ、「危険な廃砦の調査に赴き、全滅した」ことになっている。



 わたくしの仕事は、その“全滅”を数字に変えること。



 死亡扱いに切り替える冒険者の名に、赤線を引く。

 遺族への事務連絡を、「行われたことにする」ための書類に署名する。

 孤児院への紹介状を、実際には渡さないまま封じる。



(フィーネ。……あなたも、ここで消えるのね)



 薄い紙に印刷された名前を見下ろしながら、わたくしは特別な感情を挟まないよう努めた。



 あの子は、この街には向いていなかった。

 視る側の素質を持ちながら、魂が脆すぎる。



 死の砦という“境界”に最も相性が悪い者。

 だからこそ、そこに送り込まれた。



(少なくとも、“読み違え”ではありませんわ)



 死の砦に送る名簿を見たとき、わたくしはそう判断した。

 彼女は、残念ながら戻らない。

 そういう「色」をしていた。



 彼女の名前の横に、赤線を引く準備をしながら、表情筋だけはいつもどおりに整える。



 窓口は、今日も開くのだ。



 死んだとされた者たちが、静かに帳簿から消えていくその日に。



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