表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/89

88. 【番外編】 運と勝負の神の事情 12/13

 運と勝負の神は、フォルトゥナグルになった。

 神格は、上がった。自分でわかる。力の(みなぎ)り方が全然違う。

 どうやら盟約を結んでいようがいまいが関係なく、名付けの神格化は有効らしい。


 盟約は、単に愛し子の占有権なのだろう。盟約を結んでいる限りは、他の神が手を出せない。

 名付けてもらうための、占有権。生きている間にそれを他に手放す愛し子など、今までいなかった。

 だから。

(例外は、作れた)


「大丈夫なのか? 格は上がったのか? もしかして名前が気に入らなくて、またへそ曲げてんのか?」

 その張本人が、勝手なことを言っている。

(そんなわけあるか)

 またって何だ。へそを曲げたことなんかないはずだが。


「大丈夫だ。格は上がった。名前も気に入ってる」

 今までと同じように出したはずの声は、やけに艶っぽく、少し低い声になっていた。


「え、誰」

 引いたようなラルフの声に、フォルトゥナグルはくすりと笑う。

「フォルトゥナグル。お前が名付けてくれたんだろう。おかげで無事、神格が上がったらしい。声だけじゃない。何かいろいろ変わったようだが、まあそれは後で確かめる。助かった、本当に」


 助かった。これでソラ・ティリオスは、消滅の危機を回避した。

(俺たちの、勝ちだ)

 思わず安堵の息をつく。

 ありがたいことに、もう体のどこにも不調はない。立ち上がったら、目線が変わっているのがわかった。

(成長した?)


「そ、そうか。ならよかった」

 何が起こったのかわからず、ラルフはわかりやすく困惑気味だ。

(見せてやれたらいいのにな)

 フォルトゥナグルはラルフを見ることができるが、ラルフはフォルトゥナグルを見ることができない。


「で、何でフォルトゥナグルだ?」

 ラルフは、その場で思いついたにしては長くはないが、短くもない名前を付けた。

 しかも、何かひしひしと力を感じる響きだ。


「ブレット、ああ、俺の育ての親。ブレットの家に住ませてもらってた時は、書斎の本を自由に読んでよかったんだ。だいたいが軍事関係だったり戦術書だったりする中で1つだけ、伝承らしい古い装丁の、挿絵付きの本があったんだ。古語だから読めたり読めなかったりして、たぶん英雄譚なんだろうなっていうのがわかるくらいで、結局いまだに詳しくどういう話なのかはわからないんだが」


 古語、だと。

 嫌な予感がした。

 古語は、今は箱庭ではすでに失われた言語。神の庭でももう使われておらず、長年存在する神、おそらくシェ・エル・リラ・ユンほどの古株であれば不自由なく使えるだろうが、フォルトゥナグルには馴染みの薄い言語だ。そういうものがある、という認識がある、そんな程度の。


 古語がなぜ使われなくなったのか。

 それは、言葉が力を持ちすぎていて、通常使いに向いていないからだ。


「何かかっこいい挿絵で、俺はあの家に来た頃からその本が気に入って、よく開いてた。そこに出てくる主役級の、俺が一番好きだった登場人物の名前が、フォルトゥナグル」

「人物の名前は読めたのか」

 (古語)を読めずに、いまだにどんな内容かもわからないくせに。

 あと、これが何をしたどんな人物かは気になる。


「いや、読めなかった。どうしても知りたくて、ブレットに聞いた。実在していたかは不明の、暗部関係者では密かに信奉する者も多い、影の英雄なんだってさ。英雄って言っても、はりぼての俺とは大違いだな」

 あはは、とラルフは軽やかに笑う。


(あははじゃねえ・・・)

 フォルトゥナグルは複雑な気分でラルフを見つめた。

 暗部で密かに信奉される影の英雄。

 ブラックな香りしかしない。

 しかもこれは古語。伝承だとすれば、実在していた可能性は高い。その名を継いで、どう影響するのかは未知数だ。

 

 「好きな本の一番好きな」人物の名前を贈ってくれたことについては嬉しさしかない。ないが、自覚も悪気もなくこの愛し子は、1つ1つの仕事を丁寧にやらかしている。


 規格外の、風変わりな愛し子。

(しょうがないか)

 フォルトゥナグルは苦笑した。誰が何と言おうと、こいつは。

(俺の愛し子だもんな)


「俺の名は、お前だけが知っていればいい。お前が呼ぶのはかまわないが、人の子には知らせるな」

 『法』に触れることはないだろうが、古語の扱いは難しい。本にある単語を音読するだけなら問題ないが、名前となると話は別だ。

 箱庭に影響を及ぼす可能性を考えて、フォルトゥナグルはラルフに自分の名を秘することを求めた。

「うん? わかった」


 この後、「ウィデルの後の国名が決まらない」とウィリアムに泣きつかれたラルフ(国の創始者)の、「古語がかっこいいぞ」というアドバイスによって、国名が古語で春を意味する「ユヴェル」に決まることを、フォルトゥナグルはまだ知らない。

 そのおかげで加護が格段に与えやすくなった、とシェ・エル・リラ・ユンに大喜びされることも、それによる温暖化で、ユヴェルの産業形態に革命が起きることも、まだ知らない。


「なあ、次はフォルトゥナグルの番だぞ」

 まるで、話をせがむ幼子みたいに。

 フォルトゥナグルは笑みを漏らした。

「何から聞きたい?」


 フォルトゥナグルは、乞われるままに話をした。

 神は自然発生するのだという話、自分が生まれた経緯。

 神と愛し子の関係は、「神は全能神 (の上の奴) の奴隷で」、なんて話はできないから、「名付けてもらって神格を上げるために、神は愛し子を生み出して、かわりに加護を与えるのだ」、とふんわりぼかした。


 ラルフが生まれた経緯については、『(他言無用)』に触れる危険は冒したくないから、「自分のやらかしによって夏の神に迷惑がかかり、その状況を打開するために協力してもらうことになった先で、ラルフ(愛し子)が生まれることになった」ことにした。


 ラルフは、フォルトゥナグルのそんなとりとめのない話を、飽きる様子もなく、ずっと楽しそうに聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 よろしければこちらもご覧ください  → 『女神の祝福が少しななめ上だった結果』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ