祠の社へ
壮真達は海府領へ入り白昇山の麓の静村へと到着した。
老婆「おや、この村に旅人なんぞ何年振りかの」
ミ「山の道案内を探しています、どなたか案内できますか?」
山の麓には深い樹海が広がっていた、壮真とミルでも抜けられなくは無いのだが、神聖視されている地域のようなので村人の許可を得たいので立ち寄ったのだった。
老婆「ほっほっほ、ではこの千寿婆が案内してやろうかね」
ミ「失礼ですがあの樹海と山を御老体では厳しいのではないでしょうか?」
千「ほーっほっほっほ、まだまだ若い者には負けんから安心おし」
ミ「そうですか、では早速お願いします」
千「せっかちな嬢ちゃんだね、まぁいいさね、着いてきな」
老婆とは思えない程の速度で走り出した。
千「加減は必要かい?」
ミ「面白い冗談をおっしゃいますね、心配無用!」
黒猫族の誇りを刺激されたようでミルの表情がいつもの雰囲気では無いようだ。
壮「おいおいミル、ムキになるなよ?」
二人も速度を上げて千寿婆に着いていく、暫くすると樹海の入り口に到達して千寿婆は一度立ち止まる。
千「ここからは素人さんだとチョイとキツイ魔獣達だけど、お二人さんは大丈夫かい?あたしゃ自分にかかる火の粉しか払わんけど平気かい?」
ミ「心配無用」
千「そうかい、じゃ出発するかね」
再び走り出すとすぐに大木の魔獣が現れた。
千「さっそく邪木流のお出ましかい、地面からの蔦に気をつけな」
壮「忠告感謝します」
ミルは四つん這い状態で駆け出し爪で薙ぎ払い木肌が裂けるが、裂けた場所が即座に再生していく。
ミ「致命傷にはならないか」
千「下がってな!腐食魔法『根源腐乱』」
四体の邪木流の本体部分が朽ちていく。
千「さっ先を急ぐよ、早く抜けんと逢魔ヶ刻になると厄介な奴が出てきちまうからね」
千寿婆が素早く走り出す。
壮「厄介な奴?」
ミ「壮真様急ぎましょう、見失ってしまいますよ?」
壮「ああ、そうだね。急ごう」
千寿婆の後を急いで追うと、辺りに黒い霧が立ち込めてきた。
千「こりゃ不味いね、今日は運が無いね」
ミ「どうゆう事?」
千「魔影騎士団のお出ましだよ」
千寿婆の額に汗が見えた。
壮「魔影騎士団?」
森の木々の間に黒い霧が所々に集束して騎馬に乗った鎧を装備して右手に剣左手に盾を構えている。
ミ「なかなか骨が折れそうな相手ですね」
ミルの毛が逆立っている。
千「あんたらを手助けしてる暇はないから気を引き締めな!」
壮「わかりました」
影が完全に定着すると、こちらへ駆け出してくる、数は六騎それぞれに二騎づつ向かってきている。
ミ「壮真様!」
ミルが素早く壮真と背中合わせになり構える。
壮「減速、加速」
壮真とミルにアーカをかけ、魔影騎士団にはスーゲで行動を遅くした。
ミ「壮真様は防御に徹して下さい」
魔影騎士団の視界からミルの姿が一瞬にして消えた次の瞬間、二騎が崩れ落ちる、一騎は胸に風穴が空いていて、もう一騎は首が転がっていて暫くすると影は霧散した。
壮「流石ミル。うわっ!」
騎士の剣が壮真へ振り下ろされるが、壮真から見ればゆっくりと振り下ろされている剣を躱すのだった。
ミ「油断は禁物ですよ」
と聴こえたと同時に一騎が袈裟斬りで斜めに崩れ落ち霧散する。
ミ「終わりですよ」
最期は首を斬り落とし終わった。
千「やるじゃないかい、あたしゃもチョイと疲れたわい、モタモタしてるとまた沸いてくるから急ぐよ」
また少し走り出した所で骸骨に腐った屍肉が所々に付いた剣士達が立ち塞がる。
千「屍骸骨戦士だね、この世に未練のある死んでも死にきれない念の塊が死を受け入れず彷徨っておる、しかし世の理に反して強い力がぶつかり合って理性もなくなり只の屍骸骨戦士になってしまうのじゃよ」
壮「動きは鈍いな」
ミ「一気に蹴散らします」
千「待ちな、やたらと刺激を与えると魍魎の類いを引き寄せるから未練を絶たなきゃならんのじゃよ」
壮「未練といわれても……」
ミ「戦士なのですから戦いたいだけでは?」
一理あるとは思ったが本当にそれが正解なのか?もっとよく観察してみると、かすかに残っている衣服が焼け焦げているように見えた、屍肉も焼け爛れているように見える、と言う事は何かの火による焼死だと考えられるな、だが遅いならこのまま突破すればいいんじゃないのか?今も考えながら攻撃はなんとか避けている。
壮「少し回り込めば先に進めるのでは?」
千「見つかった時点で手遅れなのさ、こやつはあたしゃらの魂を何処までも追ってきて己の活動の力として取り込もうとしとるんじゃよ、例え回り道をして突破したとしても闇がある限り何処にでも現れて付き纏われるのじゃ」
壮「なるほど、じゃあ僕に任せて貰いますか」
壮真は空間から刀を取り出した。
ミ「壮真様大丈夫ですか?」
壮「これでも唏娌さんに鍛えられたからな、任せとけ」
壮真は屍骸骨戦士と真っ向から打ち合う、壮真の予想ではきっと剣士として剣士同士で負けた訳ではなく、大規模な炎に焼かれてしまったのではないかとの推理であった、なので真っ向から打ち合い目の前の戦士に勝利する事が、きっとこの戦士にとって成仏の道なのではと考えた。しかし、思いの外強かった。
壮「くっ、肉体が崩れていても凄い強さだ」
壮真にとっては初めての極限の状況となった。
ミ「壮真様!」
壮「手出し無用!」
ミルが動きだそうとしていたが壮真が静止する、極限の中で何かを掴めそうな感じがしていたのだった。
千「ふむ、もうそこまで育ったか」
壮真の中で魔力が活性していて壮真のイメージと合わさり常時発動型の技能が発動した。
ミ「あれ、さっきより難なく躱しているように見える」
千「そりゃそうさね、あれは『未来刻操瞳』さね、あの位の速度なら止まって視えているかも知れんの、懐かしいねぇ」
ミ「どうやら勝負ありですね」
壮真が隙をつき一刀両断にした、倒した相手に手を合わせていた。
ミ「壮真様!」
ミルが駆け寄る。
壮「うっ」
目を抑えながらしゃがみ込む。
千「辛いだろうがゆっくりはしておれんよ?」
千寿婆は走り出す。
ミ「もぅあのお婆さんは!さっ、壮真様」
ミルは壮真を支えながら一緒に走り出す、少し樹海が明るくなってきた所で千寿婆が立ち止まる。
千「はぁ、間に合わんかったか」
ミ「どうしたんですか?」
千「逢魔ヶ刻じゃな、奴が出てくるぞ」
薄暗くなっていく空に対して拳大の光の珠が輝きを増していく。
光の主「はぁ〜久方振りに人に出会ったのに何故千寿が一緒におるのじゃ?」
緑に黄色の混ざった髪に翡翠の瞳の少年が羽を羽ばたかせ浮かんでいる。
ミ「お知り合いですか?千寿婆」
千「まぁの、面倒な浮世離れした奴でな、星朧綺羅李じゃ」
星「それにしてもなんじゃその姿は、仮装大会でもあるのか?」
千「人間社会に生きると言うのは若いまま何世代も生きておる者はおらんからな」
星「そもそも人間なんぞに手を差し伸べんでもよかろうに、何かと言えば争い合い、世界に感謝もせん、大地を汚すような奴等どうなろうと放っておけばよいのだ、主人がヒューマンだったからと言ってもあの方だけが特別であったのだぞ」
千「確かに獣人やエルフ、その他の亜人種達はヒューマン程自分勝手じゃないけれど、放置してまた一から始めるとなると不憫だからの」
千寿の姿が喋りながら見た目は十代位の少女へと変わっていく、赤と黒の混ざった髪に紅い瞳で背中には羽が生えている。
星「まぁ好きにすればいいさ、僕には関係ない事じゃし、ところで連れの人間は何者じゃ」
千「さぁ、あたしゃは只の道案内じゃからの」
星「ふぅ〜ん、なんだか面白そうな事起きそうだから着いて行くのじゃ」
千寿はあからさまに嫌な顔をしている。
千「綺羅李のそのノリの時は、あまり良い思い出がないからの」
星「そんなに嫌がらないでよ、僕と千寿の仲なのじゃから、人間もそう思うじゃろ?」
壮「僕達は道案内だけしてもらえれば構いませんよ」
ミルも静かに頷く。
千「あぁもう!好きにしたらええわい」
星「あはははは、久しぶりに千寿のその顔見れて嬉しいなぁ、あの頃みたいにまた楽しく旅がしたいの」
千「とりあえずは祠まで案内するだけじゃよ?」
星「そうなんだ、まぁ短くてもいいのじゃよ、さぁ行こう」
一人増えて祠へ進み出した、途中で岩偶人いわゆるゴーレムが現れたが、綺羅李が岩偶人の周りを飛びながら光の粒子が舞い散り岩偶人にその光が触れると、そこから崩れ出して跡形も無くなっていた。
壮「うわ、あれは人相手でも崩れ落ちるのかな、怖い子だね」
ミ「ですね、味方のうちは頼もしいですが…」
二人が恐怖しているのは綺羅李の表情が不気味な笑みを浮かべていたからであった、破壊若しくは滅殺に関して喜びか快感を覚えている笑い方の印象だった。
千「はぁ、二人が引いてるからその辺にしておくれ綺羅李」
星「そう?僕に歯牙をかけようとしてるんだから自分も滅ぶ覚悟を持って挑んできてもらわないと困るのじゃが?」
千「理屈云々ではなく表情じゃ!うつけめっ!!」
星「それは失礼した、次から気を付けようかの」
千「昔からゆうておるのに変わらんな、まぁよい、先を急ぐぞ」
壮真達は二人のやり取りを眺めてその距離感と正体を考えていたが、情報が少なすぎてぼんやりとした人物像しか想像できていなかったが、もう間も無くその正体がハッキリする時が近づいているのであった。
千「さぁここが祠じゃ、して主らの目的を聞いておこうかの」
ミ「私は白檀様の直系因子を受け継ぐ方にお仕えする為、幼少の頃より勉強や武術を身に付け、今はお仕えする壮真様に出会い補佐をさせて頂いています、そして白檀様の予言の書の通りここを目指してきました、この祠の奥にある社へ行かねばなりません、その入り口を通して頂きたいのですが」
星「へぇ最奥に社がある事を知ってるって事は本物かもね、どうすんのさ千寿」
千「そうさね、最初から覚悟を決めた瞳をしとったからの、ええじゃろ最奥まで案内するさね」
千寿と綺羅李が先導して最奥の社まで案内してくれる事となった。




