無力
壮真はミルと森を歩いている。
壮「ここらで野営しようかミル」
ミ「わかりました、薪を確保しつつ罠を設置してきますね」
壮「ああ、頼むよ」
ミルは颯爽と駆け出して行った、壮真は収納魔法で小屋を出していた、中には風呂、調理場、寝室が入るだけだったが野営には丁度良い大きさであった、柳楽の大工さんに頼んで作って貰ってきたのだった、他にも水は大事なので大容量の水袋を収納からだした。
壮「さて、料理でもして待ってるか」
食材も収納魔法から出して手早く作っていく、良い匂いがしてくる。
壮「おっと、この匂いで魔獣が来るかもだから魔香を炊かないとな」
魔香は魔獣が嫌う匂いを出すらしい、人間には無臭に感じるが獣人にはスゥッとするハーブのような匂いがするらしい。
壮真の背後の低木がガサガサと揺れた、ミルが帰ってきたらかと振り返ると着物姿の女の子が倒れ込んできた、どうやら走ってきたがここで力尽きたようだった。
壮「君!大丈夫か?」
薄っすら意識はあるみたいだ、口がパクパクと動いているが声にならない、水を飲ませる。
女の子「あ……ありがとうござい…す」
壮「よかった、お腹空いてない?」
女の子「いえ……」
ぐぅ〜
壮「遠慮しないでいいよ?一緒にたべよう」
すると素早くミルが戻ってきた。
ミ「壮真様、今こちらに人の気配が……」
ミルは女の子に臨戦体制をとる。
壮「ミル、とりあえずは大丈夫。まずは食事にしようか」
ミルは渋々頷き三人で小屋へ入り食事にする。
壮「僕は壮真、でこっちがミル、君の名前は?」
女の子「梢です」
壮「まぁとりあえず食べよう梢ちゃん」
壮真はとりあえず事情は聞かずに食事にした。女の子は見た目は十二歳位だろうか、黒髪黒目の古びた着物を着ていた。食事が終わり少し落ち着いたようだった。
壮「梢ちゃんは迷子かな?」
梢は無言で首を振る。
壮「そっか、一人?家族は?」
梢「い、いない……暗い所………独りきり」
小刻みに震える梢を抱き締める壮真。この世界には来て日も浅いが、壮真はなんとなく小さな子供達が奴隷や実験などで虐げられているような気はしていた、この世界では孤児院なども見たことも聞いた事も無い、里親を探そうにもそうした斡旋所も無さそうだ、だが見捨てる選択肢も勿論無い、一人で生きる力が育つまでは共に居ようと思った。
壮「今はこれ以上は聞かないから安心して」
そう言いながら梢の頭を撫でて宥めた。
壮「さっ、今日はもう寝なさい」
梢を布団に寝かしつける。
ミ「壮真様、危険なのでは?」
壮「んー、直感だとそんな感じはしないんだけどな、少し様子を見ようよ」
ミ「わかりました、少しでも危険を感じたら対処させて頂きます」
梢への追手を想定してミルと交代で睡眠をとる事としたが、特に追手の気配はしないまま朝が来る。
壮「おはようミル、梢」
ミ「おはようございます」
梢「おは、おはようございます」
壮「朝ご飯出来たから食べよう、これから大分歩くからご飯を食べて元気ださなきゃね」
梢「こんなに沢山ご飯………今までは一日一回パン一つと汁だけだったのに、いいの?」
壮真はこの娘のいた環境が大体想像出来てしまった。
なんの要因かはまだわからなかったが、牢屋か部屋などに監禁されて厳しい環境に身を置いていたのだろう、そして隙を付く?いや、そんなタイプでは無いから内部にこの娘の味方のような存在がいたのか?その者の協力を得て脱出したのか、だが協力者が一緒じゃ無いと言う事は、この娘を逃がす為犠牲になったか、もしくは誤魔化したかだな。
壮「うん、おかわりもあるし遠慮しても余ったら勿体無いしね、いっぱい食べてね」
三人は食事を食べ終え出発の支度をした。
壮「ミルちょっといいかな」
壮真はミルへ耳打ちする。
壮「周りの警戒を頼むよミル」
ミルは大体察して頷いた。
壮「じゃあ行こうか梢」
壮真が梢へ手を差し出した。
梢は小さな頃の記憶を思い出していた、幼き頃顔も思い出せない父が、同じ台詞同じ仕草をしていた記憶を。
壮「ん?少し笑顔になった?」
梢は首を振って手を握る。
梢「あっ、そっちは………」
と、突然梢が喋り出す。
壮「ん?どうし……うわっ!」
蛇の魔獣が木の上から落ちてきたようだった、普段はミルが注意してくれるのだが、今は索敵の為外周を警戒していたので油断していた事は否めないが、梢は索敵能力が無さそうだったはずだが、何故わかったのだろう、とりあえず今の壮真の敵では無いので素早く討伐する。
壮「危なかったね、でも何で分かったの?」
梢「………」
壮「まさか未来予知か、白檀の家系なのか?」
梢「?」
梢は下を向いている。
壮「いや、なんでもない」
そんなやり取りをしながら森下領へと到着した。
壮「やっと着いたか、梢ちゃん疲れてない?」
梢は頷く。
壮「よし、じゃあとりあえずは宿行ってから組合行ってみようか」
宿を探していると梢が壮真の袖を引っ張る、すると目の前を樽のような身体の男がすっ飛んでいく。
壮「危ッツ!」
どうやら酒場で暴れていた男を他の冒険者らしき男に店外に放り出されたようだった。
冒険者らしき男「悪い!兄ちゃん大丈夫だったか?俺も頭に血が上って周りが見えてなかったんだ、本当にスマン」
壮「当たった訳でも怪我した訳でも無いから大丈夫」
冒険者らしき男「そっか、じゃあ貸しにしておいてくれ、じゃ!」
冒険者らしき男は樽のような男を引き摺って何処かに行ってしまった。
ミ「壮真様本当に大丈夫でしたか?なんなら私が処断して参りましょうか?」
壮「いや、いいよ。それより梢ちゃん何でわかったの?」
流石にこれは事前に何かを察知したから袖を引っ張って止めたと確信したので、梢に聞いてみた。
梢「……えっとね、たまに起こることが先にわかる時があるの」
梢は怯えながら話してくれた。
壮「梢!大丈夫!!何をされてきたかわからないけど僕達は何もしないからね」
壮真は梢の頭を撫でながら穏やかに話す。
ミ「壮真様コレは………」
壮真は静かに頷いてミルを静止する。
壮「よし、梢に助けられちゃったから美味しいものでも食べに行こう!」
街ゆく人へ聞き込みをして人気の食堂へ行き楽しい時間を過ごしていると、黒いローブにフードを目深に被った二人組が店内に入ってきた、明らかに怪しい奴等である。
壮「さて、組合に素材の買い取りしてもらおう」
怪しい二人の事は気が付かない振りをして店を後にして、魔法をかけた。
壮「時空魔法『重力歪光(アベデファーマ』」
三人の周りの空間が歪み始めて周りからは見えなくなった。
壮「声は聞こえちゃうから静かにね」
梢とミルが頷く、すると二人組も出てきてキョロキョロしていた、まだ梢を狙っているのかも確定していないのでなんとも言えない状況ではあった。
ミル「壮真様、アイツらの足首を見て下さい、あの刺青は有名な犯罪集団“天上天下我儘無双”の構成員ですよ」
小声でミルが伝えてきた。
壮「そんな団体があるんだ、あまり関わりたくはない団体だね」
ミ「目的が何なのか探ってきます」
壮「危なかったらすぐ引き返してね」
ミ「わかりました!」
ミルが素早く建物の屋根へ飛び乗り、二人の後を付けていく。
壮「じゃあ僕らは組合に行ってみよう」
冒険者組合へ入っていく。
受付青年「こんにちは、どういった御用ですか?」
壮「まずは買い取りお願いします」
魔獣の素材や植物の採取素材を買い取って貰った。
壮「この辺りのダンジョンについて知りたいのと、我儘無双と言う団体についてわかる範囲でいいので聞かせて貰いたい」
受付青年「わかりました、まずはダンジョンから説明しますね、この森下領には三つのダンジョンがあります、そのうち二つは攻略済みとなっております、残りのダンジョンは難解な罠が多数ありますので予知でも出来なければ攻略できないのではと言われております、それぞれの情報はあそこの棚に個別に記されていますので後でご覧になって下さい。次に天上天下我儘無双に関してですが、こちらは犯罪を目的とした集団となっております、主な犯罪は人攫い、強盗、殺人、人身売買となります、拠点などは未だ不明となっていますね、こちらも手配書が壁に貼り出されておりますので後でご覧下さい。以上が当組合が把握している情報です」
壮「ありがとう、じゃあ資料読ませてもらうよ」
受付青年「わかりました、またのご利用お待ちしています」
壮真は組合内の資料を見て周りダンジョンについての資料に目を通した。まず今いる照羅町に程近いダンジョンについて、階層は地下六階までの比較的初心者が潜って自信を付けていくダンジョンのようだった、次は森下領の領都である樹原町を南下したダンジョンについて、階層は地下十四階層ある中、上級者向けのダンジョンだったが、かなり死者が出ているようで不死者、いわゆるアンデッドが徘徊しているようだった、光か神聖魔法を使える人が一人でもいないと厳しいようだ、そして樹原町の北に聳える仙獄岳の頂上付近に入り口があるダンジョンだが、ここは地下五階までは上級で対応できるがそれ以降は超級冒険者でないと命の保証が出来ないと記されている、未だ最下層には至っていないが現在の到達階層は地下十六階までとなっているようだ。
壮「んー、ミルがダンジョンにも白檀の書物が封印されてるって言ってたけど、未踏破の所は無理なんじゃないか?まぁとりあえず簡単そうなトコから行くか」
梢と組合を出ようとすると壁に手配書が並んでいた、どうやら我儘無双の構成員のようだった。
梢「………」
壮真は梢の瞳がある手配書を見てから怯えたのを見逃さなかった、何も声はかけなかったが、肩にそっと手を置いた。
壮「行くよ、梢」
組合を後にすると、ミルが屋根から降りてきた。
ミ「壮真様、奴等の拠点はわかりました、やはり我儘無双の構成員のようですね、あの森で逃した奴とは違いましたね」
壮「そっか、じゃあ狙いはやっぱり………」
ミルは黙って頷く。
壮「今日はとりあえず休もうか」
宿にて壮真とミルが交代で見張りながら朝まで休む、翌朝にはこの町から近いダンジョンへ向かう。
壮「よし!ここが入り口だな」
ミ「行きましょう」
ダンジョンへ入って行く、地下三階までは難なく進み四階手前で後方からの気配をミルが感じ取る。
ミ「この気配はアイツらですね、対処しますね」
壮真は頷き、梢を護る体制に入る。
壮「僕から離れちゃダメだからね」
梢は頷いた。
ミルが駆け出した、相手の姿はまだ視認できていないのだが、曲がり角の壁を蹴り天井を蹴ろうかと、その瞬間二つの陰が曲がり角を出てきた、その二つの陰は正面の壮真と梢に集中していて真上のミルには気づいていない。
陰一「お前!よくも逃げてくれたなぁ」
陰二「お前が逃げたせいで、俺達がどんな目にあったかお前の身体にわからせてやるからな!」
二人が喚くが、上空からの爪の攻撃を躱わせずに首の動脈から赤い血が吹き出していた。
陰一「ぐぁああ!なんだこりゃあ」
陰二「ひっひぃいい!ち、血かぁぁぁ」
陰一「こうなりゃ道連れ………」
喉に血が溢れて言葉にならない陰一が、上着の内側に手を伸ばし何かを取り出しこちらに向けた。
陰一「ごぶっ、がはっ」
何かを壮真めがけて飛ばす、それに気が付いたミルだが勢いよく敵の後方まで来てしまっていた為間に合わない、壮真も防御の魔法を展開する。
壮「時空魔法『無限空失認(ゲラドナーシャ』」
ミ「いけません!魔法無効の呪具です」
敵の二人はもう息を引き取っていた。
壮真の魔法をすり抜けて、長さ四十センチ位の箸のような先が尖った黒い物体が目の前に迫った瞬間、何かの影が視界を横切って壮真の顔に温かい液体が飛び散る。
壮「う、うわぁぁあ!こずええええええ!!」
梢の腹部に黒い棒が刺さっていた。
梢「ぐ、ごほっごほっ………」
床一面に血溜まりが広がる
壮「くそ!回復薬かけてるのになんで、なんで!」
ミルが駆け寄る。
ミ「壮真様、この呪具は魔法を無効化して、回復を上回る殺傷の呪いが付与されてしまっています、残念ながら………」
それを聞き壮真が呪具を引き抜こうと掴むが、手に焼けつく痛みが走る。
壮「ぐっ!」
しかし引き抜けない、こんな細い物体すぐに抜けると思っていたのだが、ピクリとも動かない。
ミ「壮真様!これは抜けません、もう……」
ミルは顔を逸らす。
梢が腹部の壮真の手をそっと上から重ねた。
梢「ごほっ、よ、よかった、視えたから今度こそ助けられた、お父さ…………」
壮「ぐぅ、梢……」
壮真は目の前が滲んで力なく重ねられた手がスルリと床に落ちる前に拾い上げ抱き締める。
梢の口からは大量の血の跡があったがその口は笑顔で固まっていた。
壮「くそっ、こんな幼い子も護れないのか僕は!」
血溜まりの真ん中で叫ぶ壮真、ミルは素早く町へ戻り岡っ引きを引き連れ、手配犯に襲われた事を説明して、壮真と亡き梢と町へ帰った。
ミ「奴等の拠点は既にもぬけの殻でした」
梢の埋葬を終えて宿屋で遠くを見ていた壮真へミルが告げる。
壮「そう」
ミ「壮真様、更に強さを求めますか?」
壮真はミルの言葉の意味がイマイチわからなかった。ミルは続ける。
ミ「強さを望まれるまで開示してはならないと教えられておりましたので、今までお伝えせず申し訳ありませんでした」
ミルの話振りだと魔獣を倒して回る訳ではなく、違う方法で強くなれると言っているように聞こえた。
壮「続けて」
ミ「はい、白檀様の本によると子孫が落ち込む時が必ず来るから、その時は霊山である白昇山の中腹の社へ行けとありました」
壮「………なるほど白檀はこうなる事を知っていたのか、わかった白昇山に行こう、もう後悔したくないから」
ミ「丁度この森下領の北に位置する海府領に白昇山がありますので三日後には到着するはずです」
壮真とミルは旅支度を素早く済ませて海府へ向け旅立った。




