辻巳ヶ丘
ダンジョンは所々暗い場所もあるが、相変わらず大体ぼんやり明るかった、ここ辻巳ヶ丘のダンジョンは未だ未踏破のダンジョンであり、現在攻略されている階層は地下二十九階層となっている。
通常のダンジョンであれば十階層もあれば深めと言えるのだが、ここのダンジョンは約三倍の深さであった、未踏破のダンジョンは全国的には点在しているが今の所一番深いのはここ辻巳ヶ丘のダンジョンである。
リメルア達三人は順調に十三階層まで来ていた。
リ「今の所僕より強い奴は居ないみたいだね」
塵「リメルアちゃん、油断は禁物ですよ?助けてもらった立場だけどダンジョンは怖いんですから」
三「………」
三ツ矢はリメルアの強さに感心していた、まさかこんな僕っ娘がほぼ一人でここまで魔獣を倒して攻略してくるとは、つゆ程も思って居なかったのだった、しかも装備も両手には籠手を改良して頑丈にあつらえている物に、両足には脛当てがこれまた見たことも無い改良がなされている、これらは防具としては使用していない、寧ろ攻撃の為の武器として使用されていた、防具と言えば革製の胸当て位であった、塵邪は軽量化した全身鎧を使用している、武器は外人が使っていたのを見た事があるが確か洋弓銃とか言う武器だったはずだ、主に中距離から攻撃して魔獣が近ければ、刃渡り約九十センチ(さんじゃく)程の刀で危なげなく立ち回っている、ここまでは三ツ矢もほぼ手出しはしていない、三ツ矢は双剣使いであり防具は忍び装束である、十三層まで来るには回復系魔法師がいないと来れない程魔獣も強い、特に紅蜘蛛や双頭紫毒蛇と呼ばれる魔獣は、かなり厄介な敵であるにも関わらず短時間で討伐していた、目を見張るのは速度と膂力の二つである、このまま行くと少人数での階層記録が更新する予感がしていた。
リ「塵邪、荷物は平気?討伐証明部位だっけ?僕にはまだよくわからないから、任せっぱなしだけれどその鞄まだ入るの?」
塵「まだ余裕みたいですよ?蒼呀さんがリメルアさんのお母さんから譲り受けた魔法鞄ですからね、無理はしないように気をつけてるんですが、全然一杯になる気配は無いですね」
三「空間系の無属性魔法の最上位の力を付与してあるみたいですね、それよりリメルアちゃんは疲労などは平気かい?」
リ「疲れは無いんだけどお腹減ったよね、この魔獣食べられる?」
目の前に転がっているのは雷白鹿であった。
三「雷白鹿は食べられるよ、捌いて焼いてみようか、素材としても高値が付く魔獣だけど、いいかな?」
リ「お金よりお腹空いた」
三「ははは、了解!じゃあ代わりに周囲の警戒宜しくね」
リ「任せといてよ、ね?塵邪」
塵「私はあんまり役には立ちませんよ?」
リ「そう?出会った頃より大分成長してると思うけど」
リメルアと塵邪が警戒している中三ツ矢は黙々と素材を解体して、下味を付けて焼いていく、良い匂いにリメルアはよだれが垂れてしまう。
リ「美味しそうな匂い、お腹鳴りっぱなしだよ」
塵「本当に良い匂いですね、三ツ矢さんは料理は得意なのですか?」
三「んーどうだろ?これは捌き方知っていれば美味しい部位を綺麗に取り出せば、誰でも出来るようになるよ?特に若い時なんかは職業柄まともな飯にありつけない事の方が多かったし、最低限の調味料は常に携帯しているからね、慣れなのかな?おっと!焼けたよお二人さん!俺が警戒替わるからお先にどうぞ!」
リ「先に食べても良いの?」
三「ああ、リメリアちゃんのお腹の虫の為にも召し上がれ」
リ「ありがとう」
塵「ありがとうございます、お先に頂きます」
リ「こんなに長いダンジョン初めてだったからご飯の事すっかり忘れてたよ、コレ凄く美味しいね、この先にも出てくれるかな?」
塵「鞄に食材入れてくればよかったですね」
三「この先雷白鹿はあんまり出ないかもしれない、代わりに黒角牛鬼と言う魔獣が出てくるはずだけど、その魔獣はかなり美味しいよ?まあかなり美味しいけど、かなり強いんだけどね」
塵「ご馳走様でした、三ツ矢さんどうぞ」
三「ああ、じゃあ警戒お願いね」
塵「はい!ところで二十九階まで行った冒険者とはどなた達で、何人いたのでしょうか?」
三「ああ、それは勿論東條巌様率いる黒星狩猟團ですね、人数は六名でしたね」
リ「僕達の倍いたんだね、じゃあ僕達はあまり先に進めないかな?」
三「実は私も攻略に参加しておりまして、その経験からですと二十階層までは余裕ではないかなと思っています」
塵「うわ!だから受付さんはあんなに安心した感じだったんですね、ちなみに二十九階層の魔獣とは何でしたか?」
三「八岐大蛇でしたね、大きさも素早さも、異なる属性魔法を放つそれぞれの首など、盾役が一人攻撃隊が二人攻撃魔法師が一人回復魔法師が一人補助魔法師兼冒険補助師が一人の計六名の攻略隊でしたが、残念ながら大蛇は討伐できませんでした」
塵「三ツ矢さんと巌さんがいて倒せなかったのですか、このダンジョンの最奥には何があるんでしょうか?」
三「さて、突破できていないからね、何が待っているかは行ってみないとね、さあ行ってみようか」
まだまだリメルアは安定した動きで魔獣を狩って行く、危なげなく二十階層までやってきたが、この階層に入るや否や三ツ矢とリメルアは警戒感を露わにしていた。
塵「………」
塵邪にも緊張感が走る。
三「リメルアちゃん、ここは私が先頭に立とう」
三ツ矢も双剣を抜き構える、すると奥からこちらに向かってくる足音が聞こえてきた、『コツコツコツ……』
三「何者でしょうか?」
三ツ矢の問いに、その影は答える。
影「吾輩か?ザリアルド・グラス・オキシールである、強者の気配がしたので来たが、後ろの童の気配か、吾輩の所蔵品となってもらおうか」
リ「所蔵品?何言ってるの?僕は誰の物でもないよ、あっ!強いて言うなら兄ちゃんの物かな、あはははは」
塵邪は頭を抱えている。
ザ「巫山戯ていられるのも今のうちにだぞ」
リ「数はこっちが有利だけど?」
ザ「くっくっく、吾輩一人でもお前らごとき取るに足らんが、身の程を思い知らせてくれようか」
三ツ矢はザリアルドをずっと観察していた、まず肌が青白い事から人間でも亜人種でも無いと感じていた。
三「二人とも気をつけて下さいね、アレは数百年の時を生きる妖の様な存在ですからね、いざとなったら私が足止めしますので、撤退して下さい」
ザ「くっくっく、吾輩も安く見られたものだな、因みに吾輩は一人でも、と言ったが一人だけでとは言っておらんぞ?」
塵「どうゆう意味ですか?」
三ツ矢とリメルアは目つきが変わる。
ザ「こう言う事ですよ、いでよ吾輩の自慢の芸術作品よ!くっくっくっくっく、あーはっはっはっははー」
ザリアルドとこちらの間の空間に紫のモヤが立ち込めて此方に向けて殺気を放ってくる気配を複数感じていた。
三「死霊術師か………」
目の前に生前戦士だったであろう六名の者達の成れの果てが、目の前の敵に向けて武器と殺気を隠すこともなくぶつけてきている。
ザ「くっくっく、さっきまでの威勢はどうした?………童だけは恐れておらんな、何か切り札でもあるのか?」
リ「僕に死霊を差し向けても無駄だよ?兄ちゃんと行ったダンジョンにも沢山湧いてた場所もあったからね、あんまりこの姿でやると髪とか服が焦げちゃうからやりたくないんだけど」
と言いながらリメルアは息を吸い出した。
ザ「何を喚いているか知らんが、吾輩の一族の始祖たるクィーンにも認められた力をお前らにも見せてくれるわ!ゆけ!」
各々違う装備をしていた、槍を構えている老齢の戦士、長尺な刀を構えた髪の長い男性、二刀流の女性、大きな鎚を構える髭を蓄えた男性、大きな弓を構えた金髪の女性、古びた杖で詠唱を始めている女性がこちらへ攻撃の気を向けた瞬間、リメルアは炎を吐き出していた。
ザ「何!人間ではなかったか!」
ザリアルドは咄嗟に外套をひらめかせ炎を躱わす、外套に自然影響耐性の魔法が付与されていたからだが、リメルアの炎の威力は凄まじく、熱が身体に伝わってきた。
ザ「ぐう!これは死霊術は解除せねば、灰になってしまうな」
ザリアルドは死霊を紫のモヤに戻し自分の防御に徹した。
三「普通じゃないとは思っていたけど、まさかこれ程とは」
リメルアの炎は純粋な龍の炎であり、精霊や魔法で作り出す炎とは明らかに違う炎であったためかなりの熱量を発していた為、地面まで熱で真っ赤になっていた、そして炎を吐き終わる。
リ「ふぅ、残念あの人達も成仏の良い機会だったのに」
ザ「くっ、ここまでの力があるとは吾輩の不覚であったな、童!名を聞いておこう」
リ「僕はリメルアだよ、これ以上やるなら本気だすけど、どうする?」
ザリアルドはその言葉がハッタリでは無い事はわかっていた。
ザ「吾輩が敗北するとは思ってもいなかったが、いいでしょう!ここは認めて引き下がる事としよう」
ザリアルドは紫の煙となり消え去って行った。
塵「ふぅ〜、嫌な汗吹き出したよ〜」
三「まったくですね、しかし、リメルアちゃんが私の予想を超えて強いとは、驚きが隠せませんよ、しかも本気を出していないとは?」
リ「僕が本気を出す時は、二人には後ろに下がってもらわないと危ないからね」
三「………そうですか、因みに蒼呀君もそれ位強いのですか?」
リ「潜在的には僕より強いと思うよ?混沌龍神の因子があるからね」
三「混沌龍神?因子?よくわからない単語が並びましたが、リメルアちゃんよりも強いと言う事ですね」
リ「そうだね、実際お爺ちゃんに鍛えられたら僕より強くなるかもだよ?」
塵「今でも充分強いと思いますけどね、これからどうしますか?一般的な冒険者の役割は、冒険中に遭遇した脅威に対して、組合への報告が義務付けられていますが、三ツ矢さんの判断にお任せしますよ」
三「そうですね、脅威は一応去りましたが、完全に撤退したかは不明ですからね、リメルアちゃんには申し訳ないけど、一度武尊へ帰りましょう」
リ「うん、それなりに身体も動かせたし、満足したからいいよ?」
三「わかりました、では私に近寄って下さい、ダンジョンを出られる魔法札を使いますので」
三人は札を使いダンジョンを脱出して、武尊へと向かっていた。
ザリアルドは、己の拠点としていた近くの滝裏の洞窟へと帰還していた。
ザ「猛将たる吾輩が逃げ帰るなどと、屈辱でしかないな、クィーンが居なくなり力が落ちたとは言え、あのリメルアとか言う童に遅れをとるとはな、しかし、吾輩の主たるベルメリア様の波動を確かに感じたから、城へ吾輩の死霊を確認のため送り込んだが、まだ確認は取れんか、ヴァーミリオンめが邪魔だてしているかも知れんがな」
蒼呀の修行も佳境を迎えている、巌との実戦形式のなんでもありの打ち込みあいであった。
蒼「くっ!」
巌「ほらほらどうした、儂もまだまだ若いもんには負けんぞ?がっはっは」
余裕をみせてはいるが、巌もギリギリの打ち合いであった。
お互いに決着の一撃を放つべく、おのれの全てをさらけ出し力を溜めて一気にぶつかり合った所で、強化されていた模造刀がバラバラになり終わった。
巌は心の中で冷や冷やしていた、いくら素質があるからと、数日前まで完全に格下であった蒼呀にここまで追い詰められるとは思ってもなかったのだった。
巌「がっはっは、どうやら引き分けかの、儂の修行はここまでじゃな、あとは己で精進していくとよい」
蒼「巌師匠ありがとう、いつか貴方を超えるよう努力していくよ」
巌の強がりに真っ直ぐ返す蒼呀、巌は悔しくもあり嬉しかった、同じ時代に生まれておったならば、切磋琢磨して儂ももっと高みにいけたやも知れぬなと、そして憂う事なく次の時代も弱き者達の剣となり盾である存在となると、ここ数日の蒼呀の人となりを見極めていたのだった。
リメルア達と蒼呀も合流して、組合の事情聴取に協力した、昴も終始温和な雰囲気であり、蒼呀の組合員証も出来ていた。
昴「まあ最初から疑っては居なかったけど、事情はわかった、あとはその死霊術師の件だね、まあうちの捜索隊で対応するから気にしなくていいさね」
蒼「わかりました、他になければ少し休みたいのですが」
昴「だろうね、巌ちゃんの修行明けだからね、しかしこんなに早く終わるとは思ってなかったよ」
昴も笑いながら背中を叩く。
蒼「巌師匠にも言われましたよ」
と蒼呀も笑う
昴「ゆっくりしたら、依頼でも受けておくれよ」
組合長室をあとにする、リメルア達と合流する。
リ「兄ちゃんだいぶ強くなったね、流石だよ」
蒼「俺も自分の成長には驚いているよ、巌師匠の修行場は特別に精霊が好んで集まっているらしくてな、だから素養のある者には取っ掛かりが分かりやすいみたいでな、そんな中でも俺は異常な成長らしいけど、まぁ異世界人だったり因子のお陰だろうから、ズルしてるみたいで気が引けたけど、コレも俺の運命だと思う事にしたよ、でも強すぎる力には責任があるからな、悪い方に流れれば苦しむ人もいるだろうし、良い方に行っても偽善だとか言われる事もあるだろうけど、俺は俺の信念で突き進んでこの生を真っ当するだけだがな」
塵「私も蒼呀さんとリメルアちゃんに助けて貰わなければ、今ここに居なかったわけですからね、蒼呀さんの道を応援しますよ」
リ「僕もずっと兄ちゃんの味方だし、それよりお腹空いちゃったよ」
蒼「そうだな、俺も腹減ったよ、じゃぁ飯行くか!」
三人は仲良く繁華街へと歩き出したのだった。




