武尊にて
周布流の町から首都武尊への帰りの馬車列に、一際大きな声のする馬車があった。
巌「がっはっは、しかし儂の出番あんまりなかったの」
三「しかし、巌様がいらしたおかげで奴等とまともな戦闘にならず、敵首魁も即時撤退した訳ですからね、まともな戦闘になった場合の被害想定はかなりのものでしたから、お役目は充分果たされたかと」
昴「三ツ矢の言う通りだよ巌ちゃん、そんなことより良い拾い物をしたって顔に出ちゃってるよ、あんたらも幸運だったね、ウンザリするほど巌ちゃんに弟子入りしたいって奴等が組合の受付に押し寄せてくる位だからね、よく教わりな!」
蒼「そんなに凄い方に教われるなんて運が良かったのかも知れませんね、改めて宜しくお願いします」
リ「ねぇ兄ちゃん僕は武尊の街が気になるんだよね、塵邪と周ってきても良いでしょ?」
蒼「ああ、フィルメイアからは世の中の勉強もしてきなさいって言われてたからな、世間知らずでも塵邪がいれば平気だろ、塵邪悪いけど頼まれてくれるか?」
塵「はい、任せて下さい。首都には興味あったので丁度良い息抜きになりそうですね」
昴「そうゆう事ならうちの組合員で案内が得意な奴がいるから案内させるよ、中には詐欺紛いの商売やら裏通りで揉め事に巻き込まれたりと、華やかな反面ヤバい奴等もいるからね、それで良いかい?」
蒼「何から何までありがとうございます」
巌「蒼呀お前も固いぞ、カチカチに固いのは三ツ矢だけで腹いっぱいじゃ、リメルア位馴れ馴れしく出来んか?」
昴「そうだねぇ、確かに三ツ矢が固い担当だからアンタは柔軟な感じにならんかね、リメルアちゃんからも頼むよ」
リ「んー?兄ちゃん固いってよ?母さんと話してた感じで良いんじゃない?」
蒼「そうか?じゃあ遠慮なく、気になってた事があって、みんなあの戦闘で魔法らしい魔法を使ってなかったのは何か理由が?」
昴「それかい、それはあの倉庫に魔法無効の魔道具が設置されていたからだよ、あんたは使ってたみたいだけど、あの魔道具を上回る何かの道具でも持ってたのかい?」
蒼「いや、何も無いけど………」
三「何も無くあの空間で魔法を使うとは、貴方は特別な方のようですね」
巌「ほほう、人ではないな、なるほど鍛えがいがありそうだな、がっはっはっはっは」
話をしているうちに首都武尊の正門へと到着した。
リ「うわぁ、なんだか凄く広そうだね」
塵「初めて来ましたが、これは圧倒されますね、他の領地の町とはまったく違いますね」
昴「まぁ大和國の首都だからね、でも南にあるエルフの祀る聖都も美しいって噂だよ、武尊は美味しい物もあるし、大人向けだけど娯楽もそれなりにあるからね、楽しめると思うよ?」
リ「楽しみだなぁ」
リメルアはよだれだらけになっていた。
蒼「おいおい、よだれ凄いぞ」
門番達は敬礼をしながら馬車列を次々と通過させる。
巌「ここで止めてくれ」
馬車は停止した
巌「さぁ、蒼呀よ、しばし皆とはお別れじゃ、話は後でよいのじゃな?」
昴「ああ、構わないよ、蒼呀頑張っておいで」
蒼「ああ、強くなってくる」
リ「またね兄ちゃん、先に楽しんでるよ?」
蒼「はは、食べ過ぎて太るなよ、塵邪、あとは頼むよ」
塵「蒼呀さんも頑張ってください」
巌と蒼呀は下車して暫く歩くと、賑やかな商店街が続いている、京都に来た気分になってきた所でひらけた広場の奥に高さ三メートル位の白っぽい木で囲われた真ん中に、大きな両開きの扉が見えている、門の両端には門番がいる、近づいて行くと巌に一礼してから門番が二人で門を内側に押して開けてくれた。
蒼「ここは?」
巌「うむ、我が家であり道場じゃな、まずはここで精神的成長と集中を極めてもらう、それから儂とお出掛けじゃ、がっはっはっはっは、そんな心配そうな顔をするでない」
蒼「お手柔らかに」
客室に荷を下ろし軽く食事を頂き道場へ、道場と言っても沢山弟子をとるわけでもないので、学校の教室位の広さだった。
巌「まずは坐禅からじゃな、姿勢、呼吸、心を調のえる事が基本じゃ、まずはやってみせよ」
蒼「坐禅ね、えーと足組んで手はこんな感じで掌上にして姿勢は背筋伸ばす」
目を瞑り鼻から息を吸い口からゆっくり吐く、背筋は伸ばしているが余計な力は入れずに自然体で、色々考えていたけどどれだけの時間が流れただろうか、身体を流れる魔力も感じるけれど、なんだろう?なにか身体全体を包み込むような魔力とは違うフワフワした感覚があるのを感じていた。
巌「見込んだだけあるな、目を開けよ」
蒼呀は目を開けると、自身が汗だくである事に驚いた!
蒼「えっ?!汗かいてる感覚も無かったし、外は真っ暗だし、どういう事だ?」
巌「説明の前にまず、何か感じたか?」
蒼「そうですね、まずは坐禅の事を考えて、それから魔力の流れが詳しくわかってきて、最後は身体の周りに何か膜のような何かが漂っているような感じがした所でハッと気が付いたような」
巌「よしよし、今日はたらふく喰って風呂入ってぐっすり寝るのが修行だな、がっはっは」
リメルアは蒼呀を見送っていた。
リ「お腹空いてきちゃったね、塵邪」
塵「そうですね、リメルアの好きなお肉食べますか」
昴「おっ!肉なら良い店しってるよ、奢ってあげるから行ってみるかい?三ツ矢もどうだい?」
三「いいですね、行きましょう」
リ「お肉〜!わーい。兄ちゃんに悪いかな?」
塵「今日下見で行っといて、後日また三人で行けば良いのです」
昴「まぁそうしときな、旅の話でも聞かせておくれ」
リ「いいよぉ!僕の冒険譚を話す時がきたようだね」
三「それは楽しみですね、蒼呀君の強さの秘密が聞けるかもですね」
塵邪は小声でリメルアに耳打ちする。
塵「リメルア大丈夫ですか?あんまり余計な事喋ると不味い事もあるのでは?」
リメルアはハッとして静かに頷いた。
リ「そうだねぇ、居ない人の噂はよく無いから、僕の冒険譚にするね」
話をしているうちに目的地である、肉の武尊亭に到着した。
リメルアが龍である事は伏せつつ、子供の頃誘拐された事や、ダンジョンでの探索の日々を蒼呀の助けを得て進めていた時に、塵邪の仲間が全滅して危ない時にたまたま居合わせたリメルア達が助け恩を感じた塵邪が、二人の冒険に同行するようになった事や、今回誘拐を主導したであろう首魁の目星がついたので、倉庫へ突入し犯罪を犯しているような組織であれば潰す予定で乗り込んだ事などを話した。
昴「そうかい、て事は塵邪は冒険者組合に登録しているけど、蒼坊とリメルア嬢ちゃんは未登録って事かい、うちで登録していきな!あって困るもんじゃ無いしな」
塵「リメルア蒼呀さんと一緒の場所で登録した方がいいですよ、前々から思ってましたけど丁度良いんじゃないですか」
三「階級上げるのが大変だけど、君達ならばすぐに上がるだろうからな、楽しみな後輩が出来そうだな」
リ「わかったよ、僕の冒険が楽しくなるなら兄ちゃんと僕も登録するよ」
昴「蒼坊の修行がおわったら一緒においで、二人の強さなら私の推薦で一つ上の階級からになるようにしといてやるさ、この目で実力は見てるからね」
三「そうゆう事でしたら私も推薦しておきましょう」
塵「うわっ強い方の推薦貰えるなんて凄い事ですよ、まぁ二人なら当然ですかね、最初は驚いたけど冷静になると、そりゃそうかとおもいましたよ」
リ「二人ともありがとう、ところでこの辺りで強いダンジョンあるのかな?」
三「あるにはあるけど、蒼呀君は待たないのかい?」
リ「うん、塵邪と二人で行こうかなって」
三「君もかなりの腕前だとは思うが、正直危険なダンジョンだと思うから、私が一緒に潜りましょう」
リ「えー、悪いよー、危なかったらすぐ出てくるし大丈夫だよ?」
昴「まっ、三ツ矢は巌ちゃんが修行に付き合ってるうちは暇だから遠慮はいらんよ?リメルア嬢ちゃん、こき使ってやりな」
リ「そこまでゆうなら分かったよ、宜しくね三ツ矢おじちゃん」
三「おじちゃん………ああ、宜しく」
夜は更けていき解散となり、塵邪の予約した宿へ行き就寝し、翌朝。
冒険者組合は混み合っていた。
受付「はい、皆さん割り込みせずに順番で受け付けておりますので、イライラせずお待ちくださいね、次の方どうぞ」
リ「はいはーい、僕達の番だね」
塵「この娘の冒険者登録をしなさいと、組合長に言われて来ました、話は通ってますか?」
受付「ここは初めてですね、私麗華と言います、朝礼にて聞かされていますが、お名前をお願いします」
塵「リメルアちゃんです、合ってますか?」
麗「はい、リメルアさんですね、組合長と三ツ矢さんの推薦付きで蒼等級でのご登録ですね、既に登録証は出来ていますので本人の血を一滴お願いします」
リ「はーい」
血を垂らし登録は完了した。
麗「では改めまして組合の説明は必要ですか?」
塵「いえ、大丈夫です、紅等級の塵邪です」
塵邪は登録証を麗華に見せて、麗華が頷く。
麗「本日は依頼を受けられますか?」
塵「はい、三ツ矢さんと三人で辻巳ヶ丘のダンジョンに行きたいのですが」
麗「……なるほど、そうですね、三ツ矢さんがご一緒であれば大丈夫でしょう、分かりましたではこちらの箱に登録証を差し込んで下さいね、三ツ矢さんは等級が高いので省略出来ますのでお二人のだけで平気です」
二人の登録証を差し込み、依頼受け付けは完了した。
麗「ではいってらっしゃいませ、どうかお気を付けて」
二人が組合から出ると、昴と三ツ矢が待っていた。
昴「まぁ三ツ矢がいれば滅多な事は起きないと思うけど気をつけてな、三ツ矢頼むぞ」
三「お任せ下さい」
リ「ダンジョンは慣れてるから平気だよ」
昴「そうか、良い素材が採れたら高く買い取るからな、じゃあ行ってこい!」
リ「素材は結構駄目にしちゃいがちで、いつも兄ちゃんに怒られてたから自信ないけど頑張るよ、じゃあね」
三人は辻巳ヶ丘方面の馬車に乗り込みダンジョンへと向かった。
一方の蒼呀は今日も朝から坐禅していた、すでに三時間が経過していた。
またあの感覚が身体を包んでいるのがハッキリわかる、この力の正体はなんなんだろう。
巌「よし、目を開けよ。どうじゃ昨日の感覚はハッキリしてきたか?」
蒼「うん、なんていうか何か別の生き物から力を借りてるような不思議な感覚」
巌「まあ及第点じゃな、それは基本的には己の霊力が根本での、そして力を貸してくれる精霊という万物に宿る存在がいるのじゃ、蒼呀は既に精霊の方から力を貸してくれておる、ヌシの霊力はかなり多いようじゃが使い果たすと冗談抜きに死ぬから気をつけるのじゃぞ、まぁ精霊からも貸してくれておる故そうそう死ぬ事は無いがな、儂の修行はズバリ霊力と精霊力を己の物とする事が最終目標じゃて、魔法も便利じゃがこの間の様に封じる手立てはいくつかあるのじゃ、出来れば己だけで何とか出来るようになっておかなければいざと言う時に自身が危険に晒されるのは勿論、護りたいものも護れないからな、では再開するかの」
道場から出て四方にたいまつが燃え盛る場所の中央に立たされて目を瞑らされる、微かに燃える木々のパチパチと音のする中に何か聴こえる。
火「キャハ…」
身体が暖かくなってきたところで巌が言葉を発する。
巌「うむ、目を開けて今感じている力を拳に集める感覚で集約させてみよ」
言われるがまま、目を開け拳に集中してみると、拳が燃えているが、不思議と熱くはない。
巌「まったく、才能は認めておったが、一発でやりとげるとは思わんかったわい、まずは火の適性ありじゃな」
蒼「この火はどうしたら?」
巌「折角じゃから儂に向かって正拳突きをしてみよ」
蒼呀は言われるがまま巌に正拳突きを繰り出すと、腕の太さの火柱が真っ直ぐに巌に向かって行った、巌は盾を構えているが火に押されている、が巌から風が巻き起こり火を掻き消した。
巌「ふう、初めてにしては中々の火力じゃな」
蒼「………」
蒼呀は自身の拳を眺めていた。
蒼「凄い力だなコレは」
巌「一応他の精霊も試してみるかの」
蒼「他?」
巌「うむ、水辺と風の強い渓谷とあの遠くに見える山の洞窟で基本の四精霊じゃな、あとは光と闇だがそれは後じゃな」
まずは庭にある池の中央へ続く橋を渡り小島で集中するが、反応無し。次に馬車へ乗り山の方へ近付くと渓谷がありかなりの強風が吹く中集中すると、全身に風がまとわり付く様に吹き荒れている。
巌「がっはっはっはっは、こりゃ凄いの、風まで適性があるとはな、とりあえず走ってみよ」
言われるがまま走り出すと、凄い速さで景色が流れている。
蒼「凄いけど慣れるのに時間掛かりそうだな」
巌「まあ、その先はまた明日からだな、次が最後じゃ」
そのまま山を登り洞窟を目指す、結構登らされた山の中腹に岩がゴロゴロとした洞窟だった。
巌「儂も歳かもしれんな、この位で疲れるとはな、さあ蒼呀やってみよ」
岩場の中央で集中してみるが何も起こらなかった。
巌「土は無かったか、まぁしかし火と風で相性は最高じゃな、あとはそれを伸ばすだけじゃからな、普通は何年も掛かる訳じゃがそれを二日やそこらでモノにするとはな、さすがじゃな」
蒼「俺を連れて来て何年もやらせるつもりだったとは初耳だけど」
巌「蒼呀は簡単にやって見せたが、本当に最初の取っ掛かりはかなり時間が掛かるもんじゃぞ、儂でさえ一年掛かったからのう、三ツ矢は二年半掛かっておるぞ」
蒼「俺もそれだけ掛かる予定だったとか?」
巌「いや、それは無いとは思っておったが、流石に半年は掛かると思ったわい」
蒼「でもまだ不安定な感じがするから完全習得では無いよ、これは近くに火とか風が無いと使えない力だとか?」
巌「いや、もう少しの間は感覚を養うのに必要じゃろうが、蒼呀ならばそれすらすぐに覚えてしまうじゃろう」
蒼「巌さんは何が使えるの?」
巌「儂か、儂は風と水じゃ、霧にしたり氷にもなる、どれ構えてみよ」
蒼呀は無手で構えた、巌も盾と剣を置き構えると、さっきまで風なんて吹いていなかった洞窟内であったが、そよそよと空気が動いているかんじがする。
巌「よく見ておれ」
次の瞬間、辺りが薄ら白く見えて肌寒くなってきたと思ったら巌がどんどん増えて見える。
巌「ゆくぞ〜」
巌がニヤリと笑いながらゆっくりとした口調で喋ると、分身した巌が一斉に襲いかかってきた!
巌「霧幻氷影乱舞」
キラキラとした氷礫と共に蒼呀に当たったが軽く当たるだけで痛くはなかった、巌の影も素通りして本体の巌自身も蒼呀の背後に立っていた。
巌「どうじゃった、まあ魅せるだけに調整したから痛くも痒くもないじゃろうが、本気であれば全身ズタズタになっておったじゃろ、要は精霊と己の霊力をどれだけ共鳴させる事が出来るか、それには精霊との信頼関係がまず大事になる、そして複数使える人間はなかなか居ないな、エルフや獣人のような自然と呼応し合う者達であればゴロゴロいるかも知れんがな」
蒼「共鳴させるにはどうしたら?」
巌「また帰って坐禅じゃな、次は人工的に風を産み出す魔道具と蝋燭の火を使って親和性を高めるのじゃ、さすれば各々の精霊と共鳴できるであろう」
山を下山し、武尊に戻りひたすら坐禅の日々がはじまった。リメルア達は大丈夫だろうかと思いながら日々は過ぎていった。




