2つの記憶
窓からの景色はたくさんのカラフルな家の屋根が、見えては消えを繰り返している。現在聖恵はバスに揺られながら外の景色を眺めている。
本日聖恵たちは郊外学習であった。しかし、午前中に工場見学を早々と済ませ、先生が行きたがってたという理由で現在お城に向かっている。先生はお城マニアで休みの日には大抵何処かの城に行っているらしい。
城を見ながら昼食を食べ、自由時間で少し散策した後帰宅予定となっている。
「ん、ん~着いた?」
「まだあと30分ぐらいかかるみたいだよ。」
隣でバスに乗るなり疲れているのか、すぐにスヤスヤと寝てしまったノノ花が起きたみたいで、両手を伸ばして背筋を伸ばしている。
背筋を伸ばしても胸はあまり強調されないのが本人の最近の悩みとかそうじゃないとか。
「今日すっごく眠そうだね?夜遅くまで何かやってたの?」
「ん~ちょっとね♪」
伸びきったノノ花はフーッと息を吐いて座席に落ち着く。
「起きたなら聞いて欲しいんだけどさ。」
「なに?」
「私って昔の記憶ないわけじゃん」
ノノ花の寝ぼけ混じりの顔が一瞬で真顔になる。記憶に関することは聖恵にとって最も重要なことであると理解しているからだ。
「最近変な夢見ることがたまにあって、そこで
出会う女の子が言ってたんだけど、心の記憶がなくても体の記憶が助けてくれるって言ってたんだけど、体の記憶ってなんの事なのかなって。ノノちゃん知ってる?」
「体の記憶かぁ?」
ノノ花は少し俯き考え込むと何か閃いたように顔を上げる。
「多分条件反射みたいなもんじゃないのかな?食べ物の好き嫌いとか初対面の人なのに会ったことがある気がするとか、初めて来た場所なにの来たことある気がするとか。そんな感じのことなんかあるんじゃないの?」
ノノ花に言われ、聖恵も少し考えてみた。
好き嫌いだと、確かにトマトと納豆は、実物を知らないのになんとなく名前を聞いただけで食べれないような気がした。実際に食べてみても苦手だった。
人で言うと確かにいろんな人にそのような感覚を持った気がする。
最近だと影芝だ。彼は初めて会った時から会う度に心がざわつく。本当に私の過去を知ってるのかどうかはわからないけど、私は彼の知らない名前を呼んだ。これも体の記憶なのかな?
「言われればそんなこともある気がするかな。」
「体の記憶が働いてよく知らない人に声かけてたでしょうがw」
とぼけ顔の聖恵にノノ花が軽く頭にチョップを当てる。
「その説はどうもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる聖恵を見て、殿様のマネをしながらウムウムと頷く。
「あっ!せっかくだから聞いてみる。」
「聞くって誰に?」
聖恵は頭に?を浮かべ首をかしげる
「影芝さん♪」
ノノ花は少し興奮気味に、嬉しそうな笑顔ですぐさまスマホを出す。
「迷惑じゃない?」
「大丈夫だよ。昨日も少しLINEしてたし、ちょうど話題も一段落した所だから、聞いてあげるよ」
ノノ花は素早く文字を打つとあっという間に送ってしまった。
影芝とノノ花が連絡先を交換しているのはわかっているが、実際に2人が連絡を取り合っているのを聞くと少し胸がズキズキする聖恵であった。
「連絡してるんだね。」
「うん♪お礼も兼ねて連絡したら直ぐ返事くれたの♪」
「そっか」
嬉しそうなノノ花を見て、心の動揺を感じ取られないように愛想笑いで誤魔化す。
バスはしばらく走ると、城が見えてきた。瓦の屋根に白く大きな城壁、場内に何人住んでたんだよっと思わせる程の大きいお城である。そしてバスは城の見える駐車場で停車した。
先生は既にわくわくしてテンション高めの為、連絡事項を伝えると生徒たちをさっさとバスからおろし、城へと消えていった。




