#35
そうだ。
タモっちゃんから受け取ったアレ。
俺はそれを取り出しサワダに見せた。
「マーベラス! 実験の証拠ネー! これでICPO出動OKネー!」
今はどんなものでも、前向きに受けとめて……行くしかないんだ。
「サワダさん、じゃあこの証拠と……あと、紀子を頼みます。俺はこの洞窟の奥……オトナになった今通れるかわからないけれど、行ってみます」
だがサワダは首を横に振る。
「タカコから緊急信号来たネー! ここで行かなきゃ男ジャナイネー!」
そしてポケットからなにやら怪しい道具を持ち出した。
「行けぬなら、壊してしまえホトトギス、ネー!」
「お兄ちゃん、行くっきゃないね。私はここで大事な証拠預かっておくから!」
いつになく聞き分けのよい紀子を置いて、俺とワサダは洞窟の先へと進む。
サワダの持っていた道具は、大きな鉄釘が高速でピストン運動する……道路工事とかでたまにアスファルトに穴を開けているあの道具の小型化したやつだった。
あの頃より侵食しているのか、そんなにド派手に洞窟を壊さずに奥へ奥へと進むことが出来る。
やがて鍾乳洞は広がり、大きめの空間に出た。
廃材が放置され、サカナが腐ったような匂いが立ち込める。
腐臭混じりのきつい匂い。
そしてどこかで見たような機械がある。
「なに? この機械?」
「ミンチマシーンだよ。兄さんが教えてくれた」
え?
「の、紀子? お前なんでここに」
「大事な証拠は全部ボートに移してきたよ。なんかあったら連絡が取れるって言ってたボタンも押して、証拠見つけたって言っておいた。でも英語でぺらぺら早口でうるさいから、また追いかけてきちゃった」
なんだそのてへ顔は。
「ヨースケ、時間チョビットネー!」
「くっそ。紀子、お前、ほんとに」
「お兄ちゃん! ……大丈夫。なにかあったら逃げるから。でももう一人になりたくないの。やっと見つけた居場所だから」
その時、奥から音が近づいてきた。
重たいものを乗せた台車を押しているような……通って来た道に慌てて紀子とサワダを押し込みつつ岩陰に隠れた。
緊張感が高まる。
ミンチマシーンの横に止まった台車には金属製の箱がくっついており、そこから手と上半身とがだらりと伸びて……その積まれているやつと目が合……保だ!
思わず、体が飛び出していた。
「タモっちゃん! おい! や、やられたのか?」
後先なんて考えてなかった。
「あ、あれ、あれ……な、なんでタモツくんの名前、し、知っている?」
そのしゃべり方、そしてどことなく面影がある。
「お前……ノロマのヒロシか?」
「だ、誰だか知らないけど、ぼ、ぼくの名前まで、し、知っている?」
俺はヒロシが着ている作業服の襟首をつかんで。怒鳴った。
「ヒロシ、答えろ! タモっちゃんはどうしたんだ!」
だが、いつもオドオドしていたノロマのヒロシ……だった男は、どことなく落ち着いた表情で答えた。
「タ、タモツくんは、裏切ったから、やられたんだよ」
「誰が、こんなことをした?!」
「ぼくだよ! ぼ、ぼ、ぼくは、もう、ノロマなんかじゃないんだから」
「ヒロシ! お前、俺達の仲間じゃなかったのか?!」
一瞬、ヒロシの動きが止まる。
「な、ナカマ? ……よ、ヨウスケくん?」
「そうだよ。洋介だよ。ヒロシ、いったい何が」
「よ、ヨウスケくんたちが先に、いなくなった、よ。ぼ、ぼ、ぼくた、ちは、裏切られた」
「……ヒロシ……」
「も、もう、ヨウスケくんにも負けないよ。ぼ、ぼ、ぼくは強いんだ……」
「ヒロシ? ほんとうに、ヒロシなのか?」
ヒロシはノロマだったけど、誰かを傷つけることを一番嫌がっていた。
それなのに……
「よ、ヨウスケくん、ずるいよ。さ、小百合ちゃんいるのに、た、タカコちゃんまで、ひとりじめした……」
そう言いながら、みるみる姿が変化していく。
サカナに……
「危ないネー! 素手じゃ無理ネー!」
サワダは、どこから持ち出したのか、カタナのようなものを持っていた。
「マイ・グレート・グランド・ファーザー、日本人ネー。特注でカタナ、作ってもらったネー!」
そう息巻くサワダの向こうで、ヒロシの姿が醜く変わり始めていた。




