#34
んで、気付いたらここの洞窟に居た。
『お前は今日、皆と遊んでいたことにしろ。服も着替えろ。そして俺のことは知らないと言え。俺は様子を見て工場に戻る。大丈夫。なんとかなるさ』
まだ高校生になるかならないかだった兄さんは、工場で働くとは言っても職員なんかではなく、人体実験の被検体として自分の体を工場に差し出していたんだ。自分の母親の面倒をずっと見てもらう約束で。
でも、兄さんの体からは血が流れていた。
俺は手当てしないと、って言ったんだ。
でも、兄さんは『男の約束』を持ち出した。
だから俺は兄さんの言う通りにした。
……きっとその夜のことだ。
あの所長が来て、俺の両親が亡くなったって言ったのも、祖父ちゃんが死んだのも、ばあちゃんが俺を連れてこの村を出た夜も。
きっと。
兄さんは俺をここまで逃がしてくれて、きっとそのまま……
話を黙って聞いていた紀子とサワダが俺の横にひざまづいた。
そして兄さんだった白骨に、祈りを捧げる。
「お兄ちゃん、タカコさんたちにその話をしたの?」
「皆と遊んでいたことにしろって言われたからな。タカコだけじゃない、さゆりちゃんと、保にもした……ノロマのヒロシには、言わなかったような気がするけど」
「ビッグ・ブラザー!みんなの中に、生きてる、ネー!」
そう、みんなの中に……だからタカコも仮面ライダーだなんて……。
そうだ。
さゆりちゃんの日記。
あわててビニール袋を開け、中に目を通す。
「うそー? そんなの持ってきてたの?」
「さっき、服の下に隠してそのままだった」
中には工場の見取り図や、実験体として連れてこられた人の持ち物から分かる身元、実験の時に使う道具や機械のこと、工場に出入りしている人々の名前、様々な情報が書かれていた。
「研究所の所長の名前……網場時景って……これスクープじゃないの?」
「アミバ・カゲトキ? 知っているのか?」
「この名前、見たことあるのよ。例の人肉腸詰工場の話で、旧陸軍731部隊に所属してて、戦後姿をくらましたって……」
インターネット恐るべし。
「オー! ドクター・アミバ! タカコ言ったネー! 戦争終った、研究内容売った、アメリカ助けた、やった!」
「こいつが……」
あの夜にうちに来たニヤニヤ顔の所長か。
「ニュー・イングランドで人体実験して、国際指名手配ネー」
「アメリカからイギリスまで、逃げたの?」
「ニュー・イングランド、アメリカにあるネー」
「そっか、ばーちゃんが言ってたな。助かったパイロットの故郷はエギレスだ、みたいなこと。それで話が混乱してたんだ」
「ね、次のページ、最後だよ!」
そして、最後のページ。
『私もママももう、呪われた血を入れられてしまったの。
昨日、工場で変な質問をされた……うまくとぼけたけど、次に連れて行かれたら何をされるか分からない。
保君は、仮面ライダーになるって言ってたよ。でも、敵が強すぎて一人じゃ倒せない。
洋介君は、どこにいるの?
助けて。』
そこに記された日付は10年前のものだった。
「グレイト!」
サワダが突然、驚きのうなりをあげた。
「どうした?」
横から覗き込む。
兄さんの死体の横の岩に、何かが彫られていた。
そこには、研究に関するメモが書かれていた。
『HDOカイゾウ、ニダンカイ、
ヒトツメ、カマボコ、
ムラ、ジッケン、
フタツメ、チュウシャ、
セイコウリツ50%、コドモセイコウシヤスイ』
「ナポレオンフィッシュは固い貝殻噛み砕くネー。ハイブリッド・ディープ・ワンの力で岩にメッセージを残したネー!」
「呪われた血って……違うじゃん! 網場が勝手に穢したんじゃん!」
怒りに震える声の紀子が、俺の手をぎゅっと握った。
「……あのね……お兄ちゃんがその日記を探している間、私、お母さんの様子をこっそり見に行ったの」
俺は紀子の顔を見た。泣きはらしていて目が赤い。
「そしたら教えてくれたよ。小百合さんが自分のこと不適合だったって言ってたこと……未来がない、って、このことだったのね……」
……さゆりちゃん。
全ての点が、ひとつづつつながってくる。
そして、だんだん何かの形が浮かんでくる。
「俺がたどり着くのがもっと早ければ……」
今度はサワダが、そんな俺の手を握り締めた。
「違う、ヨースケ! とってもナイス・タイミング!」
「そうよ、お兄ちゃん。今じゃなきゃアレだって」
アレ?
「あ」




