#33
「ひ、ヒミツってどんなのですかっ!」
俺の知っている紀子とはちょっと違うテンションのような。
「その秘密ってのが、ここの洞窟だよ」
謎の笑みを浮かべる紀子はおいといて、俺は続きを語りはじめる。
工場近くの秘密の洞窟もそうだが、このあたりは細い洞窟がけっこうある。
そのほとんどは大人では入れないようなとこが多いし、昔はそういう場所に子どもが入り込んで死んだりってのがあったしで、大人からは強く禁じられていた。
でも俺はそんなのきくような大人しいガキじゃなかった。逆にそれで火がついてあちこち探し回ったりしたくらい。
そして偶然に見つけた一つが、ここの洞窟だ。
俺は真っ先に兄さんにここの洞窟を教えた。
俺たちのアジトにしようと思ったから。
だが兄さんの判断は俺の予想とは違った。
海の中にいったん潜らなきゃいけないここは、皆に教えたら一人で来ようとする小さな子が出てきて、その子が溺れるかもしれない。だから秘密にしとこう……そんな感じだった。
のろまのひろしのことが頭に浮かんだ。さすが子どもの面倒見ていただけあるよな。
本当はさゆりちゃんにも教えたかったから「特別な人だけに教えればいい」って俺は言ったんだ。
でも兄さんはこう言った。
『秘密を知る者が増えればそれだけ危険は増える。絶対に秘密にするんだ。約束だ』
男同士の約束と言われた。
そしてその約束を守るために、俺たちは「義兄弟の杯」ってやつをやったんだ。
兄さんが好きだった三国志の劉備たちがやったやつ。
誓いの言葉の重さを一緒に背負うってやつだ。
だから俺は守ったんだよ。
それからは、俺たちは時々ここに来てこっそり話をした。
兄さんは野球が上手だったから、将来はプロになって金持ちになって、この村を出ていってやると。
そして兄さんの両親や俺たちにも、村の外に家を買ってくれるって。工場に奪われている皆の自由を、買い戻すんだって言っていた。
家があっても仕事はどうしようって話から、じゃあ俺は探偵になるんだってなった気がする。
工場は怪しいから、いつかその悪事を暴いてやるって流れでね。
だけどそんな日々も長く続かなかったよ。
ある日、兄さんは俺にこんなことを告げたんだ。
「もうここへは来れない」と。
兄さんの父親が工場で事故で死んだ。だから兄さんはその跡をついで工場で働く、と。兄さんの母親は具合が悪くていつも寝込んでいたから兄さんが働くしかなかった。プロ野球に入るなんてまだ無理だったし。
兄さんは俺たちと遊ばなくなり、俺もしばらくはここに一人で入り浸ることが増えたっけ。
自分だけ取り残された気分で。早くオトナになりたかった。
そのうち、ここの洞窟を一人で探検するようになった。
もっと奥へ。
そして。
俺は見つけた。
どのくらい入り込んだのかな。
洞窟の奥から吹く温かい風を辿っているうちに、俺は気がついたら工場に着いていたんだ。
工場の、空調の排気設備あたりにつながっていたんだな。
村を見下ろせる高台にある工場。だが、実はその地下にもかなり深く広い。
工場の中をふらふらと歩き回る俺が見つけたのは、大きな筒型の水槽がいくつも……そしてそこにはサカナ人間……そう、ディープ・ワンみたいなのがいくつも浮いていた。
驚きと恐怖に呆然としている俺に気付いたのが、兄さんだった。
兄さんの周りには誰かが居た。
「つかまえろ!」
そんな声が聞こえた。
その時、兄さんは、そこらに居た大人たちに体当たりして、それからまっすぐこちらに走ってきた。
俺を軽々と抱えると走り出した。
そのあたりのことは正直、あまり覚えていない。
大きな音が響いたんだ。爆竹よりも大きな音で。今思えばあれは銃声だったのかもしれない。
轟音が何回も響いたのだけはしっかり覚えている。
でも兄さんは、大きな魚のような形になって、俺を守ってくれた。
自分を盾にして。
俺は怯えたよ。当然のように。
唯一の味方だったと思っていた兄さんは妖怪だったのか? なんて。
でも、サカナの形になった兄さんは俺にこう言った。
『ヨウスケ。俺ってば悪者みたいな格好しているだろ? でもな心はちゃんと俺のままだ。俺は正義の味方だ。兄さんは仮面ライダーになったんだぞ』
そして兄さんは俺を抱えたまま工場を走りまくって……海に飛び込んだ。




